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至高の賢者、海底神殿の剣姫に転生する

 あの時、(ジルス)は魔力化した迷宮の一種とされる「冥界」へと足を踏み入れていた。


 目当ては友人への贈り物に添えるための一輪の花。

 1000歳の誕生を迎えた友人への贈りものとしたかった。

 親友へのプレゼントは手作りの方がいいと、本で見たから。


 手の器用さには自身がないし、せめてもの手間をかけ美しい花を取りに行った。

 友人へと買った本へ、花を添えることにした。


 細い通路の崖下は奈落、とても危険なところだ。

 けど昨今の僕の運動不足と出不精が祟ったのか、脆い通路からうっかり足を踏み外した。

 けど飛行魔術は使えない、そのは生憎「魔術禁止フロア」だった。


「あっ……!?」


 無情な、冥界のトラップだった。

 いくら僕が賢者と呼ばれている実力とはいえ、冥界は関係なく脱落者を飲み込む。


 ……死んだ。

 至高の賢者なんて呼ばれていたわけに、最期なんてあっけないなと他人事のように思った。

 真っ逆さま、底が深かったのかしばらく落下して意識が途絶えたのを覚えている。

 

 死んだ者は本来生き返らない。それは禁術とされる魔術だから。

 でも、「転生」という概念はおとぎ話に出てくる内容で知っている。


 僕はそれを体験してしまったのだ。

 けど今日日、うまい話はないみたいで……。


 転んで頭を打った時、前世を思い出した。


「てん、せい?」

 転生したと気付いたとき、僕は長時間思考停止した。

 現状の理解には時間を要した。

 娘として転生してしまったという未知の体験と、果たして今世は上手く生きられるかという若干の不安感で。


 金髪からベージュ色の髪になっていた。

 特にすることもないし、僕は親に言われるままに剣術を習い始めた。

 僕の今世の名前はルシナ、年齢は14になる。

 とりあえず動きやすい服を着ている。


 前世は食や権力、自分や他人の恋路も特に興味がなかった。

 学問エンタメ問わず色んな本を読み、神域の洋館でゆったり時を過ごすこと。


 それだけが僕の生きがいだった。

 多分そういう僕の振舞いとエルフの長寿の特徴が組み合わされ、国の内外でも僕が「至高の賢者」と呼称された所以らしい。


 けど今世は甘い者への欲求だけは押さえられそうにない。

 疲れた時には甘いものが物凄く摂りたいし。とくに畑の木になる「海ブドウ」を使った料理が好物だ。


 ただ嬉しいことに背丈だけは既に前世の僕の身長を超えていた。

 快活で身体能力抜群な者が多いという海龍の血のおかげかな。


 前世の僕はエルフ族のわりに背が低かった。

 うん……当時背が小さかったことは特にコンプレックスではなかったけど。

 それをバネにして、それなりに頑張って各種学問を身に着けたというわけかな。


 でももう今世では必要ないのか、勉強して覚えた複雑な魔術式や魔法スキル関連の知識はほとんど全て忘れてしまった。

 それに伴い若干学力と語彙力も低下しているかもしれないのが心配。


 もう最早至高の賢者たりえなくなってしまった……。

 魔力だけではなく賢者としての資質は地の底、いやここは海の底だけど。


 姿かたちも変わって、森での生活から海へ。

 この新鮮すぎる今世は、なんらかの宿命……? 


 いや、恐らく楽しまなければ損なのだと思う。

 そう冷静な観点から、精神学的に見てもポジティブシンキングはバカにならないらしいし……。


「ルシナ模擬戦やろうぜ」

 そして僕の家にまた来客が来た。


「ん? わかった」

 また? と思いつつも僕は誘いに応じる。。

 相手は違えど、今日3回目の模擬戦だ。

 僕は戦い方が独特で参考になるらしく、模擬戦で人気だ。


 賢者だったときのように魔術は使えないけど。

 精霊の加護はそのまま引き継いでいて、それを剣術に利用しているからそのせいなのだろう。


 お陰様で剣技はそこそこ上達してきている。

 皆にはよく大人しい奴だと言われるけど。

 利発、とか落ちついた奴だと言われたいかな。


 彼は男、けど一応僕は女。

 けど彼は僕のことなど気にせず、力をこめ一心に打ち込んでいる。

 要するに脳筋ってやつ。


「ほら……」

「うお?!」

 僕は横に避け、木刀が目標を失い勢い余った彼はたたらを踏んだ。

 僕は彼に指導するように、斬撃を次々綺麗に受け流してやる。


「対戦ありがとう、楽しかった」

 得意げに、僕は余裕の表情を見せた。

 なんだか最近は自分の言動が、少し煽った風になってしまうのはやっぱり龍の血か……。


「クソ、また負けたぜ……」

 対戦相手は死力を尽くしたようで両手を地面につき疲労困憊の様子。

 一方あれだけ打ち合ったっていうのに、僕はまだまだ息が上がっていないし体力が無尽蔵にも思えてくるけど。


「運動したから甘いものが食べたい……」

 けど、カロリーを消費すると甘いものが食べたくなるし集中力を欠いてくる。

 なので、僕はよく携帯のお菓子を持ち歩いている。


「甘い、おいしい」

 そして食べ終わった後、自分が汗をかいていたことに気付く。


「運動したし、海いこう」

 僕は都市を覆う泡を突き抜け、海中へ。

 こうしてすぐ汗を流せるのが海底都市のいいところだ。


 人魚が寄り添うように泳いでくる。

 彼女たちは頻繁に人間に捕獲されてしまうので、僕はそれを護衛してあげることも多い。

 そのとき僕は「変身」して、水龍の姿で人間を撃退している。

 一時的ではあるけど、僕もご先祖様のような龍体になれる。

 けどけっこう彼らを追い払う作業が楽しかったりもする。



 しばらくして、僕が「神殿の剣姫」と呼ばれるようになったころ。

 旧友が来訪してきた。

 

 海底で仲良くなった仲間は脳筋で、僕の助けが必要だし。

 人魚たちが金儲けの人間にさらわれない様、僕が監視しているしで。

 今は神殿都市が僕の居場所だと思っている。


 そのため遠く離れたエルフの国には中々行けずじまいだったのだ。

 とりあえず僕の無事(?)を伝えるため、仲間たちへ一通だけ出した手紙が最後。

 居所は伏せていた。


 でも僅かな痕跡をたどって、彼女はここまで来てくれた。

「冥界に飲まれた賢者」として各国で当時は訃報が流れまくっていたし……。

 バツが悪すぎというか、僕の方は会うかどうか迷っていたのに……。


「本当に女の子なってしまったのね、ジルス」

 彼女は涙ぐんでいた。

 僕は頷いた、なんかごめん。


「私への贈り物のために姿形が変わってしまったのね」

「ううん、自分のミスだし特に気にしてない」

 彼女の涙は僕への哀れみというより、会えた嬉しさが勝っていた。

 まあ彼女は節目の歳だったし、友人へなるべく特別な物を贈ろうとするのは普通なことなはず。だから気にしないでほしい。


「でも、会えたよかった」

 彼女は僕を強く抱きしめてきた。


「あと、背が伸びてよかったね」

「……ッ」

 なんも言えなかった。

 背が伸びたのはいいけど、今の姿になったのを素直に肯定はできないから……。


 それから、互いにあれ以来のことを補完し合うように今までの出来事を語り明かした。

 彼女との語らいは充実した時間だった。


 今世は楽しい事が目まぐるしいし、辛い事も偶にあるけれど。


 とりあえず今世も自分の得意なことで生きていきたい、日々をそんな感じで過ごしている。



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