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おかかのおにぎり

作者: 夜乃紅華

夫を事故でなくしてから、私の生き甲斐は息子と娘の成長でした。


最近、息子の好きなおにぎりを作ってとよく頼まれます。

おかかの入ったおにぎりを、私はいくつも作りました。

息子はいつも美味しいと、食べてくれます。


息子が欲しいと言っていた自転車、買ってきました。とても高かったけれど、喜んでくれるといいなと思います。

誕生日にプレゼントしようと思います。


娘は、昔からてもかからない良い子です。

私の夫が亡くなってから、私を支えてくれました。

この子にはたくさん苦労をかけました。

何かプレゼントしたいのですが、何が良いのでしょうか。


今日、息子におにぎりはいらないよと、困った顔で言われました。

恥ずかしいのかしら?と思って、お弁当用ではなく家に置いておくことにしました。


夜、寝付けなくて水を飲もうとリビングに行くと、息子と娘の声がしました。

入るのが憚かられて、盗み聞きする形になりました。

すると、聞こえてきたのは

「母さん、ぼけてるよね」

「そうね。最近おかしいもの」

「姉さんもそう思う?おにぎりだって、俺が頼んだの小学生の時だよ?」

「そうね。この前、病院に行った時の事も、忘れてるみたいだもの」

病院?最近は行ってないはずでしょう?

頭を使ったからか、疲れました。

頭が痛いのでもう寝ます。

きっと全部、悪い夢。


今日は、行きつけのハンバーガーショップへふたりと一緒に行くことにしました。

日代子の好きなオレンジジュースとアップルパイ、昭人が好きなポテトとチョコパイを二人分注文しました。


ごめんなさい、昭人。

自転車、あなたの貯金から買ってしまったの。

貯金に手をつけてしまったの。

ごめんなさい、日代子。

もう、あなたの欲しいもの覚えてないの。


「食べないの?昭人。ポテト好きでしょう?」

「母さん、僕が好きなのは、昔からチーズポテトだよ。」

昭人は、泣きそうな顔で宥めるように言いました。

「昭人っ!」

「いいのよ、日代子。私ったら間違えてしまったのね。交換してくるわ。」

「いい、俺が行くから」

昭人は、罰が悪そうに言いました。

戻ってきた昭人は、ケチャップとチーズのかかったポテトを私に差し出しました。

「母さん、一緒に食べよう」

なんて優しい子なのでしょうか。

私は二本ほど食べると、昭人に差し出しました。

「あとは昭人と日代子が食べなさい」

二人はポテトを食べ、ジュースを飲みながら、思い出話をしていました。

父親が生きていた頃の楽しかった記憶を。

大きいサイズのポテトと、パイを交互に食べ進めるのは、ラーメンのスープとお冷をいつまでも交互に飲む感覚に近いのではないでしょうか。

「昭人、ごめんなさい。あなたの貯金から自転車を買ってしまったの。欲しかったと、言っていたから」

「知ってた。全部。おにぎりも、作ってくれて嬉しかった。でも俺、もう大人だから、もう大丈夫だよ」

「日代子?どうして泣いているの?昭人?」

二人は答えてくれませんでした。


私は知りませんでした。日代子が車を運転できるなんて。

まだ子供だと思っていた2人が、もういつの間にか大人だったのです。

車に乗ってどこかへ行くようですね。




あれ?私の目の前にいるこの男女は一体誰なのでしょうか。

昭人と日代子と遊ぶのに、邪魔しないでくれるといいのですが。

日代子はもう、小学生になったのです。


ここはどこだか分からないけれど、愛しい子供たちと一緒にいられるのでとても幸せです。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルや冒頭から和やかなお話だと思って読み進めていくと、何やらお母さんの様子が……。夫を亡くした事による心の病なのでしょうか。様々な想像が出来ますね。 ラストに近付くにつれて、凄く切なくな…
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