剣月“おじさん”の日々
どうも、剣月しがです。いつもお世話になっております。
近頃、里帰り出産で姉が実家に帰って来ているみたいなので、近所に住んでいる私は、散発的にゲリラ帰省を試みて、ちょくちょく姪っ子のお世話を手伝わせてもらっているんです。
それで実感したんですけどね。
私って、ほんとに無力。
三親等内の傍系血族が爆誕すると聞いて、赤子の知識を学びに学んだ結果の無力。
戦場では座学と実戦は別ということを体感しました、ひしひしと。
もうね。邪魔にならないようにするので精一杯。
赤子の吐き戻しにさえ卒倒しそうになる私では、到底センシティブな仕事に携われないし、乳も出ないので、雑用しかできないのです。
換えた後のオムツをビニール袋に封印して、隔離施設(遠くのゴミ箱)まで運ぶことくらいしかできないので、とても切ない気持ちになります。
でもね。
そんな私ですが、最近、とうとう専門性の高い役職に就かせていただく運びとなりました。ありがとうございます。
臨時的任用職員で誠に恐縮なのですが、「お風呂上りに、おへそ周りを消毒するやつの蓋を閉める係」を拝命致しました。嬉しい。
……。
いくらなんでも、これはちょっと無力すぎないか自分。
もう日帰りで異世界に転生して「人肌程度の清浄綿を瞬時に提供できる能力」でも貰いに行こうかしら。これは、かなりのチート能力だけど大丈夫かしら。
何にせよ、泣きたいときに泣き、眠りたいときに眠る仕組みの赤ちゃんには、無力の申し子たる剣月おじさんの過度な干渉は無用なので、「せめて間接的に支えられたらいいなぁ」と、そこはかとなく思っています。
初めは、後学のためにとか、創作活動の一助にとか、副次的で利己的な目的がありました。
そんな打算を綺麗さっぱり塗り替え、男性ホルモンの化身たる剣月おじさんに母性さえ芽生えさせる何かが、やはり赤子には備わっているのかもしれません。次世代を担うに値する可愛さ。天使。ブレインウォッシュ。
ただ、もちろん、楽しいことばかりではありません。
室温は暑くても、寒くても駄目だし(注1)。
〇ッグベン(隠語)が出なければ不安になるし、出たら出たでお祭り騒ぎだし。
曖気がイマイチで、乳を〇ーライオン(隠語)してしまわないようにするのが大変だし。
夜中も色々と大変みたいだし(業界を代表する無能の私は、朝まで熟睡してしまいますが)。
逐次戦況が移り変わり、その一つ一つにこまやかな配慮が要求される戦場を駆け抜けるには、根性だけでは厳しいと知りました。
やはり一番大切なのは、愛情なのでしょう。
きっと人がまだ猿だった時代からそうやって乗り越えてきたのかもしれない……と、果てしない歴史を肌で感じている内に、私もその歴史の一部として、あっという間に風化して塵になっていくのだと思います。風の前の塵に同じ。はかない。
いよいよ何が言いたいのか分からなくなってきましたが、つまり、「母って凄い」ということです。
月並みなことを公共の場で述べて、ワールドワイドに共感を得ようというつもりは毛頭ないのですが、困ったときにマリオがマンマミーアと叫ぶ気持ちは少し分かったような気がします。
例えば、全てのミッションをコンプリートしたのに、ソウルフルな泣き声を放ち続けてやめない赤子を前にして、姉が「マンマミーア!」と叫ぶと、生贄の代名詞こと剣月おじさんがフィールドから除外され、グランマが特殊召喚されます。
母だけでも凄いのに、母の母なのだから、これはもう筆舌に尽くしがたい凄さです。
どれだけ姉の部屋に社会的緊張が生じていたとしても、グランマが抱いたら、赤子はたちまち泣き止むし、たちまち眠りにつくし、たちまち曖気を出します。
ちょっと怖いくらいです。何度もしつこいかもしれませんが、グランマは異世界からの転生者かもしれません。さっき台所に立っている姿を見たら、最終兵器の感すら漂っていました。
そんなこんなで、執筆活動そっちのけで、母という存在の凄みを感じている毎日なのですが、なるべく早く執筆活動を再開できたらいいなと思っております。
前作のおまけも書きたいし、異世界コメディーの新章も書きたいし、新作も書きたい、という欲張り3点セットを胸に抱きつつ――。
そろそろ消毒薬の蓋を閉じる重要任務に戻ることにしたいと思います。
それでは、また。
(注1) 新生児に最も適した室温について論じている文献が散見される昨今、一つの試論として、「冬の室温は20度~23度が目安で、夜は日中より1~2度低めに。」『ひよこクラブ1月号〔第27巻第3号〕』(2019年、ベネッセコーポレーション)93頁。