真冬のスモーカー
灰の空の下、くるくると踊る貴女だけを見ていた。吐く息は白い靄になって可視化され、その肉体の生命活動を激しく証明していた。
教室ではカイロを手に挟み込んで、まだ足りないと駄々をこねていたのに一歩外に出ればまるで風の子だ。調子外れの流行歌を口ずさみながらアスファルトのステージをスキップする。除雪された積雪が彼女をライトアップしているようだった。たなびく黄色のマフラーが濃紺のブレザーと重なる度に天の川を彷彿とさせる。スカートから伸びる黒いタイツに包まれた足は、健康的とエロティックは切り離せない関係なんだと私に教えてくれていた。
こんなことを言うと、「また変なこと言ってる」なんて笑ってくれるかな。貴女が笑ってくれるならそれもいいな。
もし気味悪がられるなら、それは悲しいな。そして貴女の喜怒哀楽の新しい面を知れたことに喜んでしまうんだろうな。
私の想い人は貴女だけ。他の誰にも抱かない思考、感情。貴女は無自覚な罪作り。……いや、私がおかしいだけだ。
一生一緒なんて気軽に言う年頃、その言葉に跳び跳ねる心臓。同性だから得られた喜び。同性だから得られない喜び、得られた悲しみ。
始まりがないなら終わりはない。なら始めない。この恋は愛にならないし、させない。無限に続く恋に浸かり続けたいんだ。ハッピーエンドは夢幻で良い。メリーバッドが私のトゥルー。
公演を終えた貴女が駆け寄り、吐く息が白いと世紀の発見のように伝えてくる。私はそうだねと微笑む。
まるで煙草みたいだ、なんて悪ぶって息を吐く貴女。煙は空中を漂い大気に溶ける。
煙に泡沫の夢を見る。マッチ売りのように。貴女が私を愛してくれる夢。片手だけ手袋を外してお互いの体温を交換したり。鼻と鼻が触れあう距離で貴女と見つめあってみたり。暖かい部屋でオルゴールを回して、寄り添ってうたた寝をしてみたり。
ほんの数瞬の夢。私の心臓をきつく締め上げる猛毒。甘い甘い媚毒。混乱していく。
こちらを向いた顔が、赤くなった鼻が、頬が、妙に色っぽくて、栗色の髪に触れたくなる。大きな瞳に映る愚者の姿。滑稽なピエロ、でも涙は見せてこなかった。甘酸っぱいシャンプーの香り。くちびるまであと十数センチ。
私は耐えられるかな。それともこの恋を終わらせてしまうのかな。氷結した時間は燃え上がる感情に溶かされてしまうのかな。
もう理性なんて彼方に置いてきた。吐く息がくちびるに触れた。
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