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91 グレゴリー・ベクター


「相手は上客だから……みんなにも、それなりの格好をして貰うわよ」


 そう言ってアリスが四人を連れて行ったのは――レガルタの中心街にある有名なブティックだった。


 さすがはレガルタの高級店らしく、ベーシックな礼服を流行に合わせてアレンジしたような衣装が、所狭しと並んでいたが――今日のコーディネイトは、すでにアリスが決めていた。


「アリス……本当に、こんな服を着ていくのか?」


 エストが頬を染めて、恥ずかしそうに言う。

 ピッタリとしたボディーラインの、鮮やかな青のドレスには――足の付け根のギリギリまで、スリットが入っていた。


「『こんな服』なんて、随分な言い方ね? これがレガルタの最新流行のデザインなんだから!」


 アリスも同じデザインで、艶やかな黒地に銀の花びらの刺繍が入ったドレスを着ており、


「私は、動き易くて好きだけどな」

 

 エマの黄色のドレスには、白い羽の刺繍が入っている。


 そして、ローズのドレスは――


「ねえ、カイエ……どうかしら?」


 燃えるような赤い布地に、金色の薔薇の花と蔦が描かれていた。


「ああ……みんな、すごく似合ってるよ」


 しれっと爽やかな笑顔で応えるカイエは――髪の毛をオールバックにして、スリムデザインのタキシードに()()()()()()()()()()


「だけどさ……何で俺まで、こんな格好をしなくちゃいけないんだよ? 今日の主役はアリスなんだから、俺は使用人ってことで、適当な服でも良かったんじゃないのか?」


 カイエは文句を言うが――いつもの、いかにも少年らしいラフな恰好と、今日のシックな大人を感じさせるスタイルのギャップに……ローズたち三人の目は釘付けになった。


「カイエ……素敵よ……」


「ああ、何て言うか……凄く、良い感じだ……」


「うん……カイエ、格好良い……」


 うっとりとした三人にくっつかれて――カイエは嵌められた事に気づく。


「アリス、おまえ……狙ってやってるだろう?」


「何よ、人聞きが悪いわね……今日はみんなに付き合って貰うから、少しくらい楽しんで貰おうって思っただけよ」


 つまりは、確信犯だと宣言したようなものだが――アリスは悪戯っぽく笑う。


「みんな……今のうちに楽しんでおいてね。ベクターさんと会うときは、カイエには私のエスコートをして貰うから」


「おい……その話も、聞いてないんだけど?」


 非難がましい顔をするカイエに――


「当然でしょ。今初めて言ったんだから」


 アリスは勝ち誇るように笑った。


※ ※ ※ ※


 グレゴリー・ベクターとランチの約束した高級食堂レストランは、レガルタでも一、二位を争う人気店であり――しかも、その貴賓室(VIPルーム)を、グレゴリーが予約していた。


「やあ、初めましてアリス・ルーシェ……私がグレゴリー・ベクターだ。気楽にグレゴリーと呼んでくれるかな?」


 グレゴリーは決して嫌味を感じさせない、気さくな笑みを浮かべる。


 肩まで伸ばした髪と、彫が深い顔立ちのイケメンの三十代。

 身長も百九十センチを超えており、引き締まった身体つきは商人というよりも、まるで騎士のようだ。


 しかし、彼が醸し出す柔らかな雰囲気のせいで、相手には決して攻撃的な印象を与えなかった。


「こちらこそ、初めましてグレゴリー。()()()しているようだけど、私の名前はアリス・クレイトンよ」


 勇者パーティーだと勘ぐられると、後で色々と面倒になるから、アリスはグレゴリーに偽名を伝えていたのだが――


「ああ、失礼した。商売柄、相手のことを調べる癖がついていてね……『アリス・クレイトン』としておいた方が良ければ、訂正させて貰うよ」


 アリスという名前から鎌を掛けたのではなく、本当に調べがついているのだと――グレゴリーのしたたかかさを秘めた目が語っていた。


「ええ、そうして貰えるかしら……」


 グレゴリーは軽く言ったが――彼女が勇者パーティーのアリス・ルーシェだと断定することは、それほど簡単なことではなかった。


 勇者パーティーのアリスだと名乗ることに明確なメリットがある場合を除いて――彼女は魔族の軍勢と戦っていた頃から、幾つもの偽名を使っていた。


 ローズたちには偽名を名乗らせることこそ無かったが、街中では勇者パーティーと解るような格好をしないようにと、散々注意していた。


 そんなことをした理由は明白で――勇者たちの足跡を残せば、自分たちが寝込みを襲われたり、待ち伏せされる危険性が増すだけでなく、周りの人々も人質に取られるなどのリスクを負うからだ。


 勇者たちの活躍は人々の希望になるから――戦果とともに自分たちの名前が広まることは、ある意味で仕方がなかった。

 しかし、戦場以外の場所では、自分たちの存在をひけらかす理由などなかった。


 だから、一緒に作戦に加わった軍人や、協力を求める必要があった各国の王や貴族を除けば――勇者パーティーの素顔を知る者は意外なほど少ない。


 聖王国だけは戦勝パレードを行ったから、それなりに顔バレしているが――遠目で見た彼女たちの顔をはっきり憶えている者など、それほど多くはないだろう。


 それでも――グレゴリー・ベクターは、アリスの正体を見抜いた。


 可能性は二つある……かつて勇者パーティーがレガルタを訪れたときに、国王との謁見の場にグレゴリーが同席していたか。

 或いは、聖王国からの断片的な情報をパズルのように組み合わせて、彼女がアリス・ルーシェだと断定したか――


 前者である可能性は低いと、アリスはグレゴリーの素性を調べた上で判断した。

 彼はレガルタでも有数の交易商だが――政治的には、国王に近しい人物ではない。


 ならば、後者という事になるが――それを可能にするには、聖王国から正確な情報を引き出せる太いパイプを持っている上に、点と点を繋ぎ合わせて正解を導き出せる優れた才覚が必要だった。


「へえー……グレゴリーって、面白いよな」


 カイエはグレゴリーをじっと見て、揶揄からかうように笑った――彼もアリスと同じ考えに至っていたのだ。


「あんたみたいな奴……俺は嫌いじゃないよ」


「そうか……それは光栄だな」


 グレゴリーも正面からカイエを見つめ返すと――


「私も……カイエ・ラクシエルという人物について、とても興味があるんだ」


 余裕の笑みを浮かべて、そう言った。


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