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66 どういうこと?


「ア、アイシャ……無事に戻って来てくれて、パパは嬉しいよ!」


 号泣するヨハン・シルベーヌ子爵に――アイシャはドン引きしていた。


 クリスとアーウィンの案内で城内に通されたカイエたちは、大広間で待つシルベーヌ子爵の元に直行した。

 そこで――


「……アイシャー!!!」


 アイシャの姿を見るなり、シルベーヌ子爵は抱きしめようと突進してきたのだが――


「きゃっ! ちょっと、パパ!」


 アイシャは咄嗟にカイエの背中に隠れてしまい――勢い余ったシルベーヌ子爵はそのままカイエに突進して……鳩尾に肘鉄を食らったのだ。


「あ、悪いなヨハン。別に悪気はないからさ?」


 爽やかな笑顔で嘘をつくカイエに――シルベーヌ子爵は痛みに耐えながら、尚もアイシャに近づき……そして冒頭の号泣シーンになったのだ。


(何と言うか……突っ込みどころ満載だな?)


エストは関わりたく無いと言わんばかりに、皆から距離を置いて避難する。


「パパ……本当にみっともないから、止めてくださいね!」


 まるで他人のように、アイシャが冷ややかな笑みを浮かべるので――カイエはシルベーヌ子爵のことが、少し可哀想に思えてきた。


「まあ、アイシャもそのくらいにしてやれよ。ヨハンもさ、最高の土産を用意してあるから……とりあえず落ち着かないか?」


 カイエの言葉に、シルベーヌ子爵とクリスは即座に反応する。


「ラクシエル殿! 約束通りに例のものを、持って来てくれたのか!」


「し、師匠! 早く……早く見せてください!」


 あまりの食い付きぶりに、アイシャの顔がさらに冷たくなるが――


「まあ……ここじゃ、何だからさ?」


 カイエは意地の悪い顔をしながら、横目でアイシャを見る。


「おまえたちだって……自分の土産は独り占めしたいだろうし、奪い合いをされても面倒だからさ。別室で、一人ずつ渡すってのはどうだよ?」


「「乗った!」」


 即答する二人に――アイシャの顔が青ざめる。


「カ、カイエさん……じょ、冗談ですよね?」


「いや……アイシャ? 俺はいつだって本気だけど?」


「……カイエさん!!!」


 涙目で懇願するアイシャに――カイエはしれっと、爽やかな笑みを浮かべる。


「駄目だな……諦めろよ?」


「おい、カイエ……どういうことだ?」


 一人だけ状況が解っていないアーウィンが、アイシャを庇うように立ち塞がる。


 真剣な顔で睨み付けてくる騎士に――カイエは苦笑する。


「アーウィン、おまえさあ……自分がどれだけ間抜けか解っていないみたいだな?」


「な……私が間抜けだと? ……貴様!」


 剣に手を掛けたアーウィンを――彼よりも先に剣を抜いて止めたのは、クリスだった。


「私の師匠に――切り掛かろうとするとは良い度胸だな? アーウィン……おまえ程度がラクシエル師匠に挑むなど、片腹痛いわ!」


 アー! ハッハッハ! ――と豪快に笑うクリスに、アーウィンだけでなく……シルベーヌ子爵も、アイシャも、そしてカイエもジト目になる。


「……え? 私は、何か間違ったことをしたのか?」


「いや……ああ、そうだな? クリス……おまえは、間違っていないと思うよ?」


 同情するように肩を叩かれて――クリスは愕然とする。


「そ、そうなのか……私は……」


「まあ、そんなに気にするなよ……アーウィンが何も解っていないのは本当だからな?」


 カイエは揶揄からかうように笑うが――アーウィンは納得していなかった。


「ま、待て、カイエ……いったいどういう事か、説明しろ!」


「ああ、その役目は……ヨハンとクリスに任せるよ。おまえだってアイシャの絵を見たんじゃないのか? とりあえず、今回おまえは……悔しがって歯ぎしりする役回りかな?」


 カイエの言葉に――アーウィンは全てを悟った。


「ま、まさか……あの絵を貴様が……」


「何だよ……ヨハンに聞いてないのか?」


 カイエは全部解った上で――アーウィンを放置する。


 それから一時間後――


「ラ、ラクシエル殿……ほ、本当に、貴殿には何と言って感謝すれば……」


「……し、師匠……ありがとうございます!」


 再び号泣するシルベーヌ子爵と、鼻血を垂らすクリス――その姿が、全てを物語っていた。


「カ、カイエさん……いったいどんな絵を……」


 涙目のアイシャに――カイエはニヤリと、意地の悪い笑みを浮かべる。


「まあ……気にするなよ、アイシャ? ていうか……気にしても無駄だからさ?」


 

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