表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/345

49 何て言うか……


 波打ち際で水着姿の少女たちが戯れるという、色々な意味で頬が緩んでしまうような光景は――すぐに別の景色(イメージ)に塗り替えられてしまった。


「うーん……気持ち良かったあ!」


 海から上がって来たエマは、満足そうに微笑むが――その小脇に抱えているのはイルカの浮き袋ではなく、体長二メートルを超える本物の魚だった。


「エマ……何よそれ?」


 ビーチパラソルの下で寝転んでいたアリスが、今もビチビチと動いている魚を見てジト目になる。


「え……魚だけど?」


「そんなの解ってるわよ! 何で魚なんて抱えているのか訊いてるの!」


「ああ、たまたま泳いでるのを見掛けて……美味しそうだったから!」


 エマの身体能力に掛かれば、怪物(モンスター)でもない魚を捕まえるなど容易いことだった。


「美味しそうって……あんたねえ……」


 今にも(よだれ)を垂らしそうなエマの顔に、アリスは呆れるばかりだったが――


「でも、私のやることなんて……あれに比べたら可愛いものじゃないかな?」


 エマが指差す方向に視線を向けたアリスは――思わず愕然とする。


 水平線から跳び上がる巨大な鯨の姿――その背中に乗っている二人に、アリスは見覚えがあった。


「ローズ、カイエ……あんたたち、何やってんのよ!」


 前に座るローズの身体を軽く支えながら――カイエは鯨の背中の上で器用にバランスをとる。


 魔法を使えばもっと楽に乗ることができるが――それでは面白くなかった。


「ローズ……楽しいか?」


 カイエが悪戯っぽく笑うと――


「うん! カイエと一緒だから、もの凄く楽しいわよ!」


 鯨の方は二人を振り落とそうと何度も跳び跳ねるが――最強の勇者と魔神が相手では、勝ち目はなかった。


※ ※ ※ ※


「エミーお姉様も酷いわよね……私を置き去りにして、一人でいなくなっちゃうんだから!」


 野外用の魔法加熱器(マジックコンロ)で、巨大な魚がこんがりと焼かれていく傍らで――アイシャはジト目でエマを見ていた。


「アイシャ、ごめん……こんなに美味しそうだから、ついね……」


 申し訳なさそうに言うエマだったが――

 その目はアイシャではなく魚を見ていた。


(私って……魚に負けたの?)


 涙目になるアイシャの肩を、調理していたエストが優しく叩く。


「私だって……あの二人に、完璧に放置されたからな……」


 三人で一緒に波打ち際で遊んでいた筈が――エストがほんの少し目を放した隙に、カイエとローズは鯨の背中に乗っていたのだ。


「エスト、悪かったって。でもさ、ああいうのエストは苦手だろう?」


 カイエは苦笑する。

 エストは別に運動音痴ではないが――二人と比べられたら、相当分が悪かった。


「いや、良いんだ……どうせ私なんて、振り落とされるだけだから……」


 ぼっち感を醸し出すエストに、


「だったらさ……俺がしっかり掴んで絶対に放さないから、問題ないだろう?」


 カイエは明け透けな笑みを浮かべると――優しく手を差し伸べる。


メシを食べたら……今度は俺とエストで鯨に乗ろうか?」


「……本当か! それは……とても楽しみだな!」


 エストは頬を染めながら、心底幸せそうに微笑むが――


(へえー……それで許しちゃうんだ?)


 チョロ過ぎるエストに――アリスは呆れた顔をする。


「……うん? アリス、どうしたの?」


 不思議そうな顔をするローズに、


「あんたも……これで良かったの?」


 そう言ってアリスは溜息をつくが――


「そんなの……良いに決まってるじゃない? みんなが幸せな方が、私も嬉しいから!」


 全部解った上でローズが言っていることに気づいて……唖然とする。


「ローズ……あんた……」


 成長した娘を見る母親のように――アリスは感動していた。


「まあ、色々と複雑な状況のようだが……とりあえず、その魚は旨そうだな?」


 突然響いた聞き慣れない声――それよりも一瞬だけ早く、ローズたちは反応していた。


「……どういうつもりよ!」


 咄嗟に剣を抜くローズとエマ――だが、彼女たちも……至近距離に接近されるまで、その存在に気づいていなかったのだ。


「どういうつもり……だと? おいおい、勇者パーティーの連中が……それはないだろう?」


 骸骨マークのキャプテンハットの下で艶やかに煌めく藍色の髪と、片目を隠す眼帯――大人の妖艶な色香を漂わせる彼女が誰であるか……アリスは知っていた。


「ジャグリーン・ウェンドライト提督……あんたって人は……」


 心底嫌そうな顔で、アリスは言うが――


「私だって、おまえだけには言われたくはないが……アリス、久しぶりだな?」


 聖王国海軍提督ジャグリーンは――したり顔で、余裕の笑みを浮かべていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ