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328 獄炎の魔神


「よう、グラハド……おまえだけには、会いたくなかったけどな」


 結界を張って、飛行魔法フライと多重加速(ブースト)による高速移動で突入したカイエたちに――『獄炎の魔神』グラハド・ライオニルは、凶暴な笑みを浮かべた。


「貴様は……カイエ・ラクシエルか!」


 赤黒い髪と無精髭の粗野な男は、全身から黒い炎を噴き上げると、間髪入れずにカイエに襲い掛かる。


 グラハドが手にするのは己の身長ほどの長さの槍状の武器――『獄炎の戦槌』をグラハドは全力で振り回して、カイエに叩きつける。


「てめえに殺された恨み……忘れてねえぞ!」


「いきなりかよ……だから、俺はおまえが嫌いなんだよ」


 カイエは漆黒の剣で『獄炎の戦槌』を受け止めると。新たな結界を展開させて、自分とグラハドだけを中に取り込んだ。


「ぬかせ……俺だって、てめえを弄り殺しにしたくて堪らねえんだ!」


 黒い炎を纏う戦槌の続けざまの攻撃を、カイエは二本の漆黒の剣で事も無げに受止める。


「この俺の攻撃を防ぎやがって……作り物(・・・)の癖に、てめえは昔から生意気なんだよ!」


 グラハドは舌打ちし、さらに激しく攻撃を繰り返す。


「だから、何だよ……グラハド、おまえは相変わらず単純だよな」


 呆れた顔のカイエに、グラハドの目が座り――憎悪の炎を噴き上がらせる。


「ふざけるな……俺に楯突く奴は、絶対に許さねえ! 良いだろう……今度こそ、てめえを絶対に殺してやる!!!」


 グラハドは躊躇なく、自らに課した制約を破る。獄炎が生き物のように渦を巻き、黒い炎を纏うグラハドの身体が巨大化した――




 グラハドがこっちの世界にいる事を、カイエはとうに知っており。グラハドが殺戮の日々を送っている事は容易に想像出来たが……今まで放置して来た理由は幾つかある。


 一つは、グラハドの国が孤立した辺境にあり。グラハドが血祭りに上げてるのは自国の連中と怪物モンスターだけだという点だ。


 グラハドが支配する暴虐の国ランバルドに集まる連中は『力だけが全て』と考えており、自分が奪う側にいると思っているような奴ばかりだから。争いに敗れて殺されるのは自業自得だと、カイエは関与する気などなかった。


 怪物モンスターの方は――カイエは怪物モンスターだから殺しても良いとは思わないが。ランバルドの連中と怪物モンスターは互いに殺し合って、殺した相手を喰らう関係であり。グラハド自身が戦えば一方的な虐殺にはなるが、それも殺し合いの延長に過ぎない。


 つまりは、グラハドがやっているのは、弱肉強食の世界を絵に描いたような事で。カイエが別段止めるような話ではなく、勝手にやれよと放置してきたのだが……


 それでも放置するだけではなく、一切接触しなかったのは……もう一つの理由によるところが大きい。




 カイエはこうなる(・・・・)事が解っていたから、初めから広域認識阻害を展開させていた。


 他の神の化身と魔神たちから制裁を受ける事など、グラハドは完全に無視して。怒りのままに魔神である本来の力を解放した――


 荒れ狂う地獄の炎の中で、コウモリの翼と山羊の角を生やす巨人と化したグラハドが暴れまくる。制約を破る前の百倍を超える強大な力で、『獄炎の戦槌』を振り回して、カイエに叩きつけて来る。


 通常の結界では、グラハドの放つ膨大な熱量に耐え切れずに。地獄の業火が居城を一瞬で蒸発させていただろうが――結界と一緒に展開した『混沌の魔力』が、『獄炎の魔力』を完全に封じ込める。


「グラハド、おまえさ……ホント、千年前と何も変わってないよな」


 グラハドが本来の力を取り戻しても、カイエにとっては脅威ではない。何も変わらないという感じで、漆黒の剣が『獄炎の戦槌』を幾度となく受け止める。


 しかし、怒り狂う殺戮者と化したグラハドが攻撃を止める事はなく――強制的に止める以外にはなかった。


。千年前と同じように、直接牙を向けられなければ……カイエはグラハドを殺す気などなかった。


 ヴェロニカのように、ひたすらに力を求めるでもなく。アルベルトのように剣を極めようとするのでもなく……己の欲望のままに力を振るうグラハドの事がカイエは嫌いだが、それだけで殺す理由にはならない。だから、今日まで一切接触しなかったのだ。


 しかし、イグレドを操った者の存在によって、グラハドの暴力が他者へ向けられる可能性が高まったから。カイエはグラハドの元を訪れる事にした。


「おまえの怒りが、おまえ自身のモノか……俺が確かめてやるよ」


 カイエは魔力解析を発動する――グラハドの中に他者の魔力は存在しなかった。つまりは、グラハドは自分の意志でカイエに牙を剥いたという事だ。


 しかし、当てが外れたというほどの事ではなく……グラハドが操られている可能性がそこまで高いとは、カイエも考えていなかった。


 今操られていなくても、今後ターゲットになる可能性はあるし。カイエの情報を嗅ぎつければ、勝手に暴走する可能性もあったから、早めに手を打つ必要があった。


「悪いな、グラハド……おまえじゃ俺に勝てないって。だから、自分で選べよ……俺に殺されるか、敗北を認めて跪くか」


 カイエの漆黒の瞳が冷徹な光を帯びる――グラハドを殺す理由はないが、グラハドの元を訪れた時点で答えは出ていた。


 制約を課した状態であれば、殺すと面倒な事になるから殺さないという理由もあったが。力を解放したグラハドには当て嵌まらない。


 そして、グラハドを殺す事で――カイエは手段を択ばないと、イグレドを操った奴に教える事が出来るのだ。


 カイエにとっての優先順位は、一番がローズたちを守る事で。次がそれ以外の関わりのある者たちを守る事、その他の世界に存在する罪のない者たちを守る事は三番目だ。


 グラハドのように、カイエの方から仕掛けなければ放置しても良い存在は……より優先順位の高い者たちを守るためならば、殺しても構わないとカイエは冷徹に答えを出したのだ。


「ふざけるな、カイエ・ラクシエル! てめえは俺が……絶対に殺してやる!!!」


 だから、敗北など決して認める筈がないグラハドに形ばかりの選択肢を突き付けて――容赦する事なく、漆黒の剣でグラハドの身体を縦に真っ二つにする。


 『混沌の魔力』が具現化した漆黒の剣は――グラハドを殺すと同時に『獄炎の魔力』を吸い尽くして。少なくとも数百年間は、グラハドが復活する手段を完全に封じた。



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