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327 酒宴の後


 冒険者ギルドでの飲み会を終えて――カイエたち十三人は、トールの行きつけの店である『踊る兎亭』に移動した。


 ここからは仲間内だけの二次会という感じで。用意して貰った個室のテーブルには、帝都エリオットの名物料理の皿が並ぶ。


「うん! この串焼きもシチューも肉饅頭も、全部美味しいね!」


 エマの前には、すでに大量の皿が積み上がっているが。酒のつまみ程度では全然足りなかったようで、ここからが本番という感じだ。


「お酒の味も……悪く無いわね」


「ああ。トールが勧めるだけの事はあるだろ?」


 カイエとアリスは冒険者ギルドで散々飲んだというのに、全く素面(しらふ)で。ここでも透明な蒸留酒を、自分たちで用意した氷でロックにして飲んでいる。


 ローズたち五人は余り酒は飲まないから酔ってなどいなかったが……


「何か……みんな、ごめん」


 レイナは一人だけ泥酔していたので――エストが解毒魔法で復活させた。


「もう、レイナは……飲み過ぎは身体に良くないよ」


「うん、トール……解っているわよ」


 レイナは深く反省する。途中から記憶がないが、自分が弾けていた事は覚えており……


『カイエは私にとって一番大事な人なの! だから、誰にも文句なんて言わせないわ……ねえ、そこのあんた! ちゃんと聞いてる?』


 初めてはギジェットに『カイエの女』である事をアピールしながら、飲み始めたのだが。カイエやギジェットと同じペースで飲んでいるうちに酔いが回って……


 そこからは、カイエに敵意を向けた冒険に絡んでは、カイエに宥められて。仲直りの印として何度も乾杯して、その度にグラスを空けたので……


 泥酔するのも当然であり。今思えば、言った事もやった事も、顔から火が出るほど恥ずかしかった。


「けど、たまには良いんじゃないか……毎回だと面倒だけどさ」


 カイエはニヤリと笑いながらグラスを空ける。


「カイエ、そんなにイジメなくても良いでしょ? レイナだって、自分が醜態を晒した事くらい解ってるんだから」


 アリスはフォローしているようで容赦がない。


「二人とも、レイナが可哀そうだろう……レイナ、大丈夫だから。これくらいの事で誰もレイナを嫌いにならないよ……まあ、呆れはするだろうけどね」


 気休めを言わないエストの言葉が、レイナの傷口に塩を塗る。


「調子に乗ったレイナが悪いのよ……反省したなら、同じ失敗は繰り返さないで欲しいかしら。次にやったら……ロザリーちゃんは容赦しないのよ」


 ロザリーの言葉も辛辣だったが――ゴスロリ幼女は、必死にアピールしようとして空回りしたレイナに意外なほど同情的で。ロザリーの声色には、出来の悪い弟子に対する師匠の優しさのようなものが滲み出でいた。


「ロザリー……」


 レイナもそれに気づいて――もう二度と深酒はしないと誓うのだった。


 そこからは、普通に夕食会と言う感じで。ローズたち四人が前後左右からカイエに密着して、いつものように『あーん』合戦が始まり。復活したレイナも参戦して……


 『暁の光』の残り五人のメンバーは、すっかり慣れた感じで。我関せずという感じで普通に飲み食いしていたが。


 ノーラが料理を取り分けて、仲間たちに皿を渡しているときに。ノーラの指先が偶然ギルに触れてしまい……


「「あ……」」


 互いを意識して、頬を染めて見つめ合う二人を――アランとガイナ、トールだけではなく。レイナを含めたローズたち女性陣七人も瞬時に察知して、カイエ以外の全員が生暖かい目を向ける。


「ねえ、カイエ……こういう初々しいのも素敵よね」


 ローズがカイエの耳元で囁く。


「まあ、俺としては好きにやれよって感じだけどな……勿論、邪魔する気もないけどね」


 カイエは他人の恋愛に興味などない。自分は散々人に見せつけておいて、何を言うのかと思うかも知れないが。カイエはローズたちとのあれやこれや(・・・・・・)を隠す気がなく、人目など一切気にしないだけだ。


 ギルとノーラも、いつでも何処でも好きにやれば良いし。本―人同士の問題なのだから、下手に干渉しないのが一番だと思っていた。


 そんな感じで――それぞれの思惑の中、十三人が食事を粗方終えて。まったりした感じで飲み物を飲んでいた。


「なあ、みんな……明日からの事だけどさ」


 頃合いを見計らったカイエの言葉に、みんなが注目すると――黒鉄(くろがね)の塔で語った『この世界にいる神の化身と魔神全員に文句を言いに行く』事について、カイエは説明を始めた。


※ ※ ※ ※


 こっちの世界に存在が確認されている神の化身と魔神の総数は、カイエを除いて二百五十二――


 彼らの存在はディスティとヴェロニカからの情報と。カイエ自身が世界各地を飛び回って転移先を登録マーキングした際に、広域魔力感知によって確かめている。


 これだけの数の相手を一人一人当って回るには相当な時間が掛かるが――カイエは全員に会いに行くつもりだ。


 無論、何も考えずに手当たり次第に行くつもりはない……精神操作を仕掛けられる可能性が高いのは、イグレドのように残忍な性格で。殺戮衝動を刷り込まれても自分の意志だと思い込むタイプだろう。


 どこまでも不遜で、自己顕示欲が強い奴ばかりの神の化身や魔神たちの中で、そういう(・・・・)タイプは決して珍しくないが。無意味な殺戮に違和感すら懐かないレベルとなると、数は限られる。


『イグレドを操った奴は(ひね)くれてるからな……操りやすい奴ばかり狙うとは思わないけど。俺たちがそれ(・・)に気づいていないと思わせる事と、別の意味(・・・・)でインパクトを与えるためにも……俺は凶暴な奴らから仕掛けるつもりだよ』


 という訳で。カイエが翌日会いに行ったのは、最も粗野で野蛮な性格の魔神だった。


※ ※ ※ ※


 暴虐の国ランバルド――他の神の化身や魔神たちが支配する国々から隔絶された辺境の地にその国はある。


 血の匂いが立ち込める城塞都市国家――他国と交戦状態にある訳ではなく。市街地では住民が普通に生活しているが、私闘も殺人も公認されており、血生臭い争いなど日常茶飯事で。強さだけが、ランバルドにおける判断基準の全てだ。


 ランバルトは略奪と狩りのみで物資を調達しているが。周りに他国はないし、他に人族も魔族も住んでいないから……奪う対象は野生動物と怪物モンスター以外にはなく。

 辺境の地の凶悪な怪物モンスターを屠り、血肉と財ではなく材を奪う事で――ランバルドは成立している。


「よう、グラハド……おまえだけには、会いたくなかったけどな」


 ランバルドの中心部にある血の匂いが凝縮された城。略奪した相手の骨で造られた玉座に座るのは、赤黒い髪を乱雑に伸ばして、無精髭を生やした男――『獄炎の魔神』グラハド・ライオニル。


 カイエたちの世界で、ローズが死を覚悟して挑んだ相手も『獄炎の魔神』だが……こっちが真の意味の魔神(オリジナル)だ。


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