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323 後始末


 片膝を突いて、恭しく頭を下げるグレゴリアスたち四人に――イグレドが何者かに操られていた事。リンドアから消えた後にアルベルトを襲撃した事。そして、他にも十二人の使徒が精神操作を受けていた事を、カイエは順を追って説明した。


 操られた使徒がリゼリアの配下だと明言しなかったのは、グレゴリアスたちを信用した訳じゃないからだ。リゼリアとの関係に余計な詮索をされたり、情報が拡散することは避けたかった。


「俺は誰かをイグレドの二の舞にするつもりはないし。一連の事件を起こした奴は、必ず追い詰めてやるからさ」


 『深淵の使徒』第八席エリック・ガストライトを閉じ込めた結界は、すでに解除しており。残りの三人についても魔力解析を行い、結果はシロだったが――カイエは今後の事を考えて、彼らの同意(・・)を得た上で仕掛け(・・・)を施しておいた。


「まず、おまえたちはリンドア以外にいる『深淵の使徒』を当たってくれ。消息が掴めていない奴も探し出して、不穏な動きをしていないか調べるんだ」


 跪く四人の男たちを前に――前後左右からローズたちに密着されながらシリアスな話をしているしている光景は、ツッコミどころ満載だったが。カイエだから仕方ないと、諦めて貰うしかない。


「カイエ様は……『深淵の使徒』の中に犯人がいると、疑っているのですか?」


 グレゴリアスは目のやり場に困りながら質問する。


「いや、特に『深淵の使徒』を疑ってる訳じゃないけど。エリックの例があるから、可能性の一つとして考えているだけだ」


 本当の事を言えば――エリックが狙われた理由は、イグレドの襲撃の後に事件が終わったものと考えている隙を突くためだとカイエは考えており。別の意図から『深淵の使徒』たちを探ろうとしているのだが……まだ確証がある訳じゃないし、そこまで話すつもりはない。


「おまえたちの配下の連中には、神の化身や魔神たちの動きを探って貰う。俺の配下にいる連中にも、同じ事を指示してるから。バッティングしないために、探る相手は事前に教えてくれ」


 ディスティとヴェロニカ、カイエが形だけ支配している中立地帯や、ロザリー配下の地下迷宮の主(ダンジョンマスター)たちの事も、シャーロンも含めて『深淵の使徒』たちに教えるつもりはない。


 カイエの方から探る相手を指定しないのは、グレゴリアスたちの独自の情報網に少しは期待しているからだ。根本的な考え方が違う相手だから、異なる発想から答えに辿り着く可能性はある。


「言っておくけど、リンドアの復興の方も手を抜くなよ。情報収集に行かせるのは、諜報活動が得意な奴だけにしておけ。悪目立ちして相手に警戒されたら、碌な情報が掴めないから……俺は結果だけを評価するからな」


 そう言って釘を刺しておく。グレゴリアスたちが膝を屈したのは、カイエから魔法の深淵の知識を得るためだから。手柄を焦って下手を打たれら目も当てられないし、リンドアの復興を後回しにするほど、グレゴリアスたちに期待してはいない。


「承知しました……不肖ながら、このグレゴリアス・ノルドレイ、必ずやカイエ様のご期待に応えてみせましょう!」


「グレゴリアス、何を言っている! カイエ様のご期待に沿うのは、『深淵の使徒』第一席であるこの私、ストレイア・ターフィールドに他ならない!」


「……カイエ様の恩情によって救われたこの命。私、エリック・ガストライトは……カイエ様のために全てを捧げて尽力致します」


 三人の『深淵の使徒』は我こそがと競い合うが――目的が解っているから、カイエは冷たく突き放す。


「まあ、せいぜい頑張ってくれよ……おまえたち『深淵の学派』の事は、シャーロンに任せるからさ。今後はシャーロンに従ってくれ」


 嫉妬に塗れた三つの視線がシャーロンに向くが……彼女は薄笑いを浮かべて平然と受け止める。


「カイエ様の仰せのままに……貴方たちは私の部下になったのだから、自分の欲望を優先して足を引っ張る事は絶対に許さないから」


 シャーロンには『深淵の学派』を組織として機能させる事を優先しろと伝えてある。シャーロンもカイエの意図を理解しているから、自分の評価を上げるためにグレゴリアスたちを上手く使うだろう。


 五人の『深淵の使徒』の中で、刺青男の第五席オルフェン・バルジスタだけが無言だが――武闘派の外見に反する温厚な瞳は、冷静に状況を受け止めており。沈黙を守ることで、カイエに対する忠誠を誓っていた。


「じゃあ、話は決まりだな……諜報活動に人手を割かせる分くらいは、俺もリンドアの復興を手伝ってやるよ」


 そういう言うなり、カイエは館の外へ向かうと――


 錬成系の魔法を発動させて、イグレドが破壊した大聖堂を一瞬で再生する。


「中の装飾とか、そういうのは後で適当にやってくれよ」


 巨大な建物を一瞬で構築するなど、最上位魔法でも不可能なレベルであり……唖然としているグレゴリアスたちを尻目に。


「カイエ、私も手伝わせて貰うよ」


「ロザリーちゃんも、お手伝いしますわ!」


 カイエとエストとロザリーの三人で掛かれば。周囲を囲む巨大な外壁を含めて、半壊した都市を一時間と掛からずに粗方修復してしまう。


 戻って来たカイエたちに、グレゴリアスたちは羨望の眼差しを向けるが――


「建物だけなら、どうにでも出来るけど……本当の意味でリンドアを復興させるのは、おまえたちの仕事だからな」


 イグレドの襲撃によって失われた命の余りにも多く、家族や財産を奪われた事で生活基盤を失った市民だって数えきれないだろう。


 生き残った市民に平穏を取り戻させる事は、為政者である『深淵の使徒』たちの役目であり。それを決して忘れるなとカイエは告げるが――グレゴリアスたちに何処まで響いたかは怪しいモノだった。


「カイエ様……リンドアの事は、全て私にお任せください」


 シャーロンがしたたかに笑う。自分だけはカイエの意図を理解していると。


「ああ……シャーロン、俺の期待を裏切るなよ」


「そうね……シャーロンはズルいから、信用できないわ」


 カイエの周りから六人に冷ややかな視線を向けられて――


(カイエ様よりも……この六人の化物を裏切ったら、私の命はないわね)


 シャーロンは背中に冷たいモノを感じながら……なんとか表面だけは、笑顔をキープしようと必死だった。



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