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322 魔法の理


 結界に閉じ込められた『深淵の使徒』第八席エリック・ガストライトは――カイエによって精神操作を解かれた事で、自分が何をしようとしていたのかに気づいて呆然としている。


 彼ら『深淵の使徒』は『偽神デミフィーンド』の魂の欠片を取り込んだ事で、人外の力を手に入れたが。『偽神デミフィーンド』の力を完全に制御できる訳ではないから、限界を超えれば魔力が暴走してしまうのだ。


「なあ、エリック……他人に操られた気分はどうだよ?」


 しかし、そんなエリックをカイエは簡単に止めてしまった――まるで彼らの力など物ともしなかった『暴食の魔神』イグレドのように。


「カイエ・ラクシエル……先程、貴方はそう名乗ったが、まさか……」


 刺青男のオルフェンが信じられないモノを見るような顔で言う。


「ああ、ようやく気づいたのかよ……俺は一応『混沌の魔神』だから。戦う気なら相手になるけど?」


「そ、そんな筈があるものか!」


 白髪の老人グレゴリアス・ノルドレイが目を見開いて叫ぶ。


「魔神の名を騙る不届き者が! 『混沌の魔神』はかつての戦いで、自らの魔力に飲まれて消滅したと……」


 『深淵の学派』は、カイエたちの世界が神の化身と魔神によって直接支配されていた時代から、自ら魔法の(ことわり)を解き明かそうとした者たちの末裔であり――


 かつてカイエが神の化身と魔神たちとの戦いによって世界を滅ぼし掛けた際の事も、断片的ではあるが、『深淵の学派』の伝承として残っている。


 目の前にいる男が本当に『混沌の魔神』だとしたら、その力は『暴食の魔神』イグレドどころの話ではない。


 四人の『深淵の使徒』が戦慄を感じながら、カイエの反応を伺っていると――


「ホント……シャーロン、貴方は強引過ぎるわ」


「全くだ……カイエに尻ぬぐいをさせるような真似は、止めて欲しいものだな」


「そうだよね。勝手な事はしないで欲しいよ」


「あら、私は構わないわよ……調子に乗った責任は取らせるから」


 まるで空気を読まずに、ローズたちが認識阻害を解除して姿を現わす。


「ど、どういう事だ……」


 グレゴリアスの言葉を無視して、ローズたち六人はカイエに密着するように集まって、シャーロンにジト目を向ける。


 六人の視線を受けて――シャーロンは冷や汗を掻いて血の気を失う。


「……も、申し訳ありません! 調子に乗りました!」


 太々しく喧嘩を売った姿は何処に行ったのか……シャーロンの態度の激変に、四人の『深淵の使徒』はローズたちをまじまじと見る。


 まるで彼らなど存在しないかのように、前後左右からカイエに密着する四人と。その傍らに立つ魔族の女と幼女。一見すると油断しているように見えるが……


 『深淵の使徒』たちも相応の実力者だから解る――六人の誰もが彼らの気配を完全に捉えており、一分の隙もない事が。


 そして、さらに信じ難い事だが……彼女たち一人一人の魔力は『深淵の使徒』である自分たちを超えていた。


「まさか……」


 グレゴリアスは、一緒に現れた『暁の光』のメンバーたちの方を見る。


 グレゴリアスたちを無視して平然としているローズたちとは異なり、彼らは場違いな空気に少々戸惑っていた。装備しているのは、かなり強力なマジックアイテムだが。警戒すべきほどの魔力は感じないが……


 このとき、グレゴリアスはトールと目が合う。無邪気な少年のような顔のホビットは――この状況を面白がっているようだった。


(まさか、この者たちも力を隠し持っているのか……)


 グレゴリアスは警戒心を強めるが――


「いや、勝手に勘違するのは構わないけどさ……こいつらの方は、そういう(・・・・)意図で連れて来た訳じゃないから」


「何だよ、カイエ……バラさないでよ。せっかく騙せそうだったのに!」


 悪戯っぽく笑うトールに、余計に混乱するグレゴリアス。


「いや、どうでも良いけどさ……ここからが本題だから」


 カイエの言葉に四人の『深淵の使徒』する――カイエは苦笑すると、ローズたちを撫でながら告げる。


「証明して欲しいなら幾らでもしてやるけど……俺は『混沌の魔神』で、俺の女たちも神の化身や魔神と戦える力を持っている。だから、俺たちに協力すれば、おまえたちの安全くらいは保証してやるよ」


 そう言ってカイエは、自らの魔力を少しだけ解き放つ――噴き上がる膨大な魔力は『暴食の魔神』イグレドを遥かに凌駕していた。


「それと……おまえたちの働き次第で、魔法の深淵に関する知識を教えてやっても良い」


 カイエが拳大ほどの『混沌の魔力』を出現させると……渦巻く魔力は六つに分かれて、赤、青、水色、黄色、白、黒とそれぞれ異なる魔力を放つ球体に変化した。


「ま。まさか……混沌から魔力の六属性を抽出したのか!」


 カイエは『混沌の魔力』から、地水火風と光と闇という異なる属性の魔力を創造したのだ――複数の属性を持つ魔力を融合する事は可能だが、逆は不可能だと言われている。


 何故ならば、魔力は融合する事で異なる属性に変化してしまうのだ。だから、それを元に戻す事が可能だとしても……原子レベルで魔力を操作する能力と、魔力の根源に関する知識が必要だからだ。


「まあ、そうだけど……そんなに驚く事じゃないだろ?」


 こんなパフォーマンスは茶番だと、カイエ自身が思っていたが――自分たちこそが魔法の深淵を解き明かした識者だと、勘違いしている奴らを従わせるには、最適の餌だとも理解している。


「さあ、自分で選べよ。俺たちに協力するか、断るか……ああ、勘違いするなよ。断っても、おまえたちをどうこう(・・・・)しようって訳じゃないからな。エリックのように精神操作されてないか調べさせて貰うけど、その後はおまえたちの自由だ……俺たちの敵に周らない限りはね」


 半分脅しているようなものだが――本当に、カイエは強制的に従わせようとは思ってはいなかった。


 情報収集をするための人員を増やしたいとは思うが。『深淵の学派』が持っている情報はシャーロンを通じて粗方手に入れてしまったから、人手なら他でも代用が効く。勿論、彼らが将来的にも障害にならないような手は打つが……


「『混沌の魔神』カイエ・ラクシエル様……我らをお導き下さい!」


 しかし……というか、予想通りに。


 魔法の知識の虜である四人の『深淵の使徒』は、アッサリとカイエに頭を垂れた。



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