302 その後の一ヶ月
それから一ヶ月ほどが過ぎて――アリス、エマ、メリッサの三人も異世界を訪れて、新しい知り合いとの邂逅を済ませた。
アリスがヴェロニカと本気の殺意でぶつかったり、アルメラを手懐けた事とか。エマとディスティがメチャクチャ仲良くなった事とか、メリッサがシャーロンを精神的にボコボコにした事とか、色々あったが……
「おまえたちも少しは強くなったって、ロザリーちゃんも認めてあげるのよ。だけど、もっともっと強くなって、カイエ様のお役に立って欲しいですの」
一番の変化は、ロザリーが『暁の光』の面倒を見るようになった事だろう。
愛人の余裕というよりも、レイナが自分の立ち位置を解った上で、それでも本気でカイエを想って頑張っている事とか。実力差があっても良い意味で物怖じしないトールの事とか……結局のところ、ロザリーも『暁の光』のメンバーが嫌いではないのだ。
「ロザリーの態度をエストから聞いたときは、お仕置きしないといけないかもって思ったけど……その心配は要らなかったみたいね」
二度目の異世界への来訪となったローズは、何だかんだと言ってレイナたちの世話を焼くロザリーの姿に、嬉しそうに目を細める。
「ロザリー。『棘の神の化身』リゼリアとの勝負も、順調に行ってるみたいね」
「ローズさん、当然ですの……ロザリーちゃんに掛かれば、俄か研究者のリゼリアなんて敵じゃありませんわ」
新たな創り出した怪物による対決は――リゼリアに魔族を実験台にするのを止めさせるために始めた事だが。ロザリーは完璧な『好敵手』を演じて、リゼリアを夢中にさせていた。
新たな怪物を創り出す事は、複数の地下迷宮を支配するロザリーにはお手の物であり。リゼリアの怪物のレベルに合わせて、ほど良く接戦となる強さの怪物を選定しているのだ。
「新しい怪物のストックも、だいぶ堪りましたし。リゼリアの相手の仕方は、この子たちにも教えましたから。そろそろロザリーちゃんも、みんなのところに帰りますわよ」
ロザリーの前で片膝を突くのは、フリルのドレスを纏う五人の少女――ロザリー配下の地下迷宮の主たちは、恭しく頭を下げる。
カイエたちは趣味と実益を兼ねて、さらに二つの地下迷宮を攻略していた。最終的にはロザリーの支配下に置くのだからと、何れの地下迷宮の主もロザリーが屈服させた。
「リゼリアの件と、地下迷宮攻略の方は順調に進んでるけどさ……情報収集の方はイマイチだな」
ローズを抱き寄せながら、カイエは苦笑する――今もディスティの部下であるクレアやログナとアルメラ、『深淵の使徒』シャーロン・フォルセリアの協力を得て、情報収集を続けているのだが……企みや陰謀めいた話は、リゼリアの一件以来聞こえて来ない。
「奴らが本当に何も企んでないなら、それが一番なんだけどさ」
神の化身と魔神たちの身勝手さを知るカイエは、彼らが制約を守ったまま、いつまでも大人しくゲームに興じているとは思わなかった。
「まあ……何か動きがあるまでは時間があるし。そろそろ別の事にも手を出そうと思っているよ」
当然のように求めて来るローズーに応えて、カイエは唇を重ねる。
「そう言えばカイエは言ってたわよね……こっちの世界の遺跡も調べたいって」
ディスティとシャーロンから、こっちの世界に存在する遺跡についての話は聞いていた……ちなみにヴェロニカは遺跡などに全く興味がないから、情報源として全く役に立たなかった。
神の化身と魔神たちが世界を越えて、こっちの世界に訪れる前から存在している遺跡――その幾つかは『深淵の学派』が過去に調査していたが、大した成果は得られていない。
「ああ、別に急ぐ話じゃないけどさ……こっちの世界の理とか、二つの世界の関係とか、世界を創った奴らの事とか……もっと知りたいとは思っているよ」
カイエにとっては、神の化身と魔神たちの企みを暴く方が優先であり。世界の理や、世界を創った奴らについても、大よその事は向こうの世界の果てにある遺跡を調べて知っている。
こっちの世界についても、同じ奴らが創ったのだから、ある程度は想像がついているから後回しにして来たのだが。時間があるのならば、そろそろ手を付けても良い。
「まあ、とりあえず……今日はディスティのところに行って、みんなで飯でも食おうか」
千年ぶりに再会したディスティとヴェロニカや、こっちの世界で新たに出会った者たちとの繋がりも、カイエは無下にするつもりなどなく。ローズたちも同じ気持ちだった。
「そうね……ディスティにも会いたいし。ヴェロニカの相手もしなくちゃね」
「ああ、アランたちは落ち着かないって厭がるだろうけどさ……強制連行だな」