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300 中立地帯の支配者


 マクスレイ天樹国周辺の中立地帯に、桃色(ピンク)空色スカイブルーの二色の衣装を纏う有翼の怪物モンスターたちが飛び交う――


 桃色と空色の怪物モンスターたちはカイエ・ラクシエルの宣言通りに、他の怪物モンスターや野党から中立地帯の住人を守った。


「これなら、簡単に見分けが付きますし……可愛いから、何の問題もないですの!」


 ロザリーは自慢げにフンと鼻を鳴らす――派手な衣装を下僕しもべたちに着せる事を考案したのは、ロザリーだった。


 『いばらの神の化身』リゼリア・アルテノスを解放してから四日後。カイエたちは中立地帯にある難関級(ハイクラス)地下迷宮(ダンジョン)『退廃と崩壊の泉』の最下層のさらに下――管理領域コントロールエリアがある広大な空間にいた。


 カイエはロザリーとの約束を守って、『退廃と崩壊の泉』の攻略をロザリーに任せたが……今のロザリーにとって難関級(ハイクラス)地下迷宮(ダンジョン)を支配下に置くなど簡単な事だった。


 玉座に座るロザリーの前に膝まづくのは、フリル付きのドレスを纏う三人の少女。彼女たちはそれぞれ『スタンベルトの迷宮』『ラウクレナの禁書庫』『退廃と崩壊の泉』の元地下迷宮の主(ダンジョンマスター)であり――


 今はロザリーの支配にあり、ロザリーの趣味全開の姿をさせられていた。


 さらに、彼女たちの後方には……桃色と空色の衣装を纏う千体以上の怪物モンスターが立ち並び、ロザリーに最敬礼をする。彼らは三つの地下迷宮(ダンジョン)から中立地帯を守るために集められた精鋭だった。


「俺はロザリーに任せるって言ったから、文句を言う気はないけどさ……こんな格好させられて、怪物こいつらも哀れだよな」


 苦笑するカイエに、ロザリーは頬を膨らませる。


「カイエ様、心外ですの……可愛いのは正義てすわ! おまえたちも、そう思いますわよね?」


 ロザリーに有無の言わせな視線を向けられて――怪物モンスターたちは背中に冷たいモノを感じながら、咆哮を上げる。


「いや、格好もそうだけどさ……こんな仰々しい事をしたって、意味が無いだろ?」


 僅かな時間でロザリーが怪物モンスターによる部隊を編成して、マクスレイ天樹国周辺の中立地帯全域をカバーする警戒網を完璧に機能させたのは褒めてやるべき事だが……その成果を誇るように、現在哨戒に出でいる怪物モンスター以外を一同に集めた事は、決して褒められたものではない。


「あら、カイエ様……意味はありますのよ。形というのも大切ですわ。ロザリーちゃんはカイエ様の代行者として、この()を運営するのですから。下僕しもべたちにも、誰が本当の支配者か解らせてやる必要がありますのよ」


 カイエがこのタイミングで、ロザリーを異世界に連れてきた理由は――リゼリアの相手をして貰うためだ。


 ロザリーには怪物モンスターを創造し、支配する能力がある上に。十倍速く時間が流れる事も、地下迷宮の主(ダンジョンマスター)という人外の存在だからリスクにならない。


「まあ、リゼリアには中立地帯を俺の支配下に置くって言ったけどさ……本気で支配するつもりなんてないよ。ゲームでリゼリアを満足せれば十分だからさ、中立地帯の住人には、これまで通りに自由にやって貰うつもりだよ。ロザリーには……悪いけど暫くの間、寂しい想いをさせる事になるけどな」


 唯一の問題点は、ロザリーがリゼリアの相手をするために元の世界に戻れないという事だが――それも、中立地帯の運営が軌道に乗れば解決する。


 リゼリアが望んでいるのは、カイエたちとの直接対決ではなく、実験で生み出した怪物モンスター同士のゲームだから。リゼリアが満足するだけの怪物モンスターを用意しておけば、あとは配下の地下迷宮の主(ダンジョンマスター)たちが臨機応変に対応できるように教育すれば、ロザリー直接手を下す必要はなくなる。


「確かに、みなさんと会えないのは寂しいですが……向こうの世界の時間で言えば、せいぜい一週間も掛からないと思いますし。その分、カイエ様と一緒にいられる時間が増えますから……ロザリーちゃんとしては満足ですの!」


 ローズたちは交代でカイエに同行する予定だが――中立地帯の運営が軌道に乗るまでは、ロザリーはずっとこっちの世界に居る事になる。


 しかも、リゼリアの相手をすると言っても、ロザリーは支配下の地下迷宮の主(ダンジョンマスター)怪物モンスターたちと距離に関係なく意思疎通ができるし。転移魔法も使えるから、カイエと別行動で中立地帯に留まる必要はないのだ。


 ロザリーが二つの世界を越えて、下僕しもべたちとの意思疎通や移動ができれば、こっちの世界に残る必要もないのだが――こればかりは、カイエの力を借りるしかない。

「ロザリーの話は解ったが……カイエ、一つだけ疑問がある」


 エストはカイエの腕に抱きついたまま、声を上げる――ここまでカイエとロザリーの会話を聞きながら、エストは当然のようにカイエに密着していたのだ。


「中立地帯の魔族と人族に庇護下におくと宣言したときに……カイエは自分の名前を出していたが。神の化身や魔神たちがカイエの名前を耳にしたら、何か行動を起こすと思うのだが……奴らを誘い出すために、敢えてリスクを負ったのか?」


 『言霊の箱(メモリーボックス)』を使って中立地帯の住人に宣言したときに――カイエは自分の名前を出している。だから、カイエ・ラクシエルの名前が神の化身や魔神に伝わる可能性も少なくはないだろう。


「まあ……奴らが何か仕掛けて来るなら、構わないけどさ。俺の名前を出したくらいで、大きな動きがあるとは思わないよ」


 カイエは自分を過小評価している訳ではなく、そう判断したのには理由がある。カイエは自分の名前を告げただけであり、住人たちはカイエの姿を見ていないのだ。


 名前だけなら……カイエがこっちの世界にやって来たと考えるよりも、他の神の化身や魔神が騙ったと考える方が現実的であり。そんな計略めいた事を好む神の化身や魔神も少なくない。


 しかも、もしカイエが実在するか確かめるために、神の化身や魔神が動いたとしても――中立地帯を実際に支配しているのは、今もそれぞれの氏族クランや村々であり。彼らを支援しているのも、地下迷宮の主(ダンジョンマスター)のロザリーなのだ。


 だから、カイエが本当にこっちの世界に来たのだと、彼らが確証を得る事は難しいだろう。その上で――


「俺が自分の名前を出したのは……リゼリアから守るために旗印が必要なのと、神の化身と魔神たちの猜疑心を煽るためだよ」


 リゼリアには釘を刺したが――カイエとの約束を反故にして、魔族や人族をさらう可能性は残っている。だから、リゼリアが仕掛けてきたら、住人たちがすぐに動くように、対抗手段としての旗印が必要なのだ。


 そして、神の化身と魔神たちの猜疑心を煽る理由は……カイエが行動するときの目くらましに使うためだ。


 すでにカイエ・ラクシエルの名前を聞いていれば、カイエが実際に動いた知っても、何者かが騙ってていると疑う事になる。


 神の化身と魔神たちが猜疑心を懐けば懐くほど、カイエとしては大胆な行動がとりやすくなる。


「どっちにしても……大した問題じゃないさ。俺が動いた事で、奴らが動くならそれで良いし。動かないなら……こっちで勝手にやるだけだよ」


 『深淵の学派』とリゼリアの件は、とりあえず方が付いたが――まだ『深淵の学派』の動きを全て把握できた訳じゃないし。リゼリア以外にも似たような事をやっている奴がいる可能性はある。


 カイエとしては情報源を増やしながら――こっちの世界で何かを企んでいる奴らを、全部見つけ出すつもりだ。


「なるほど、カイエの意図は解ったが……そろそろ、アレ(・・)はどうにかならないのか?」


 エストが顔を顰めて視線を送る先には――すっかり興奮しているアルメラとログナがいた。


「もう……駄目。私……我慢できないわよ!」


「神の化身や魔神もすげえが……地下迷宮の主(ダンジョンマスター)もヤベえよな!」


 二人にしたら――ここには自分たちを一撃で殺せるレベルの怪物モンスターがゴロゴロおり。その全ての上に、異様な魔力を放つロザリーが君臨しているのだ。


 ロザリーはゴスロリ幼女という見た目に反して、その魔力は制約を受けた状態の神の化身や魔神すらを上回っている……こんな光景を見て、彼らが興奮しない筈がない。


「まあ……目障りだろうけど、大目に見てやってくれよ。あいつらも結構役に立つからさ」


 カイエは呆れた顔で――エストを強引に抱き寄せる。


「ああ、カイエがそう言うなら……私も我慢するか」


 うっとりした顔のエストが唇を重ねる――互いに舌を絡ませながら、カイエはすでに次の事(・・・)を考えていた。



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