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299 有言実行


 カイエはリゼリアを信用した訳じゃないが――カイエとの約束を破る事のリスクを、リゼリアは実感した筈だ。


 あとは、今後もリゼリアの部下の監視を続けて。リゼリアにはカイエとの交渉に応じたメリット(・・・)を感じさせてやれば良い……要するに、地下迷宮(ダンジョン)怪物モンスターを使ったゲームで、リゼリアを退屈させない事だ。


「それと、リゼリア……俺の事を他の神の化身や魔神に話しても、全然構わないからな。まあ、そいつらと俺が争う事になったら……おまえも俺の敵に回ったって思うだけの話だ」


 カイエは最後にそう言うと――認識疎外領域とリゼリアを閉じ込めていた結界を解除する。


「カイエ、終わったみたいだな」


 全部解っているという感じの信頼し切った表情で、エストが微笑む。


「ああ……まあ、こんなもんだろ」


 まだ警戒心を顕にしているリゼリアの目の前で、エストはカイエの腕に思いきり抱きつくと――


「『いばらの神の化身』リゼリア・アルテノス……申し遅れたが、私はエスト・ラクシエル。カイエの妻だ」


 エストの碧眼が冷ややかにリゼリアを見据える――人族ではあり得ないほどの強大な魔力の波動に、リゼリアは警戒心を懐く。


「貴様はいったい……」


 しかし、リゼリアは言い終える前に、もう一つの強い魔力を放つ存在に気づいて目を見開いた。


「私はロザリー・シャルロット、カイエ様の愛人ですの。『いばらの神の化身』リゼリア……これから、よろしくお願いするのよ」


 空中に浮かぶゴスロリ幼女は、不敵な笑みを浮かべてリゼリアを見下ろしていた。


 カイエがリゼリアに提示した条件について、エストとロザリーは事前に聞いていた。そして、リゼリアを開放する意味についても……


『リゼリアには必ず償いをさせる……そのために、俺が飼い慣らしてやるよ』


 リゼリアみたいなタイプには、自分の思い通りに事が進んでいると錯覚させて――自ら進んで選択する状況に陥らせれば良い。それは口で言うほど簡単な事じゃないが……カイエには勝算があった。


「それじゃ、俺たちは帰るからさ。怪物モンスターを使ったゲームの件は……おまえも準備が必要だろうから、二週間後に開始って事で良いよな?

 今後の連絡は、俺の方は勝手に来るけど。おまえの方に用があるときは『伝言メッセージ』を使えよ」


 リゼリアは訝しみながらも、促されるままにカイエを『伝言メッセージ』の連絡先として登録する。


「という事で……リゼリア、ここ(・・)の後始末は任せるからな」


 カイエたちが転移魔法で消えると――リゼリアの城に展開していた結界と認識阻害も全て同時に消滅した。


(カイエ・ラクシエル。貴様には(いず)れ必ず……目にものを見せてやるわ!)

 

 してやられたと……リゼリアは悔しさを噛み締めながら。六日近くも結界に閉じ込められていた事について、配下の者たちにどのように言い含めようかと考えていた。


※ ※ ※ ※


 それから、カイエはログナとアルメラと合流して中立地帯に向かった――卑猥な言葉を連発してカイエに迫るアルメラに、エストとロザリーがマジギレして。それを見たアルメラがさらに興奮するという混沌(カオス)と呼ぶしかない一幕があったが……


「リゼリアの魔力の残滓(ざんし)は全部消したからさ……ゾフィー、全部忘れろとは言わないけど。もう、あいつに怯える必要はないからな」


 転移魔法の後、音速を超える多人数飛行(マストラベル)――カイエはリゼリアの実験となった魔族の女、ゾフィー・リブロスを彼女の氏族クランまで送り届けた。


「貴方には……どうやってお礼をしたら良いか。本当に、本当に……ありがとう!」


 涙ぐむゾフィーは、至近距離からカイエをじっと見つめる。


「さっきも言っただろう。俺が勝手にやった事だから、礼なんて必要ないって」


 カイエ自身も、礼など求めていなかったが――


「そうだ、ゾフィー……言葉だけで十分だからな!」


「そうなのよ! それ以上のお礼なんて、カイエ様には全然全く求めてないのよ!」


 エストとロザリーが割って入り、ゾフィーの行く手を塞ぐ――ゾフィーには全裸でカイエに抱きつこうとした前科があるのだ。


「そう言って貰えるのは……嬉しいですが。このご恩は……一生忘れません!」


 ゾフィーは空気を読んで引き下がるが……カイエに対する想いを諦めた訳ではなく。結局のところ、また新しいフラグが立った事に気づいて……エストとロザリーは溜息を漏らした。


※ ※ ※ ※


「それでは……カイエ様の言葉は、ロザリーちゃんの下僕(しもべ)たちが届けますの!」


 深い森の奥で――カイエたちの前に、ロザリーが召喚した有翼の怪物(モンスター)たちが片膝を突く。


 リゼリアの居城に行く前に、カイエたちが寄り道した先は、二つの地下迷宮(ダンジョン)……一つは『雷の神の化身』トリストル・エスペラルダが支配するエスペラルダ帝国にある中難易度級(ミドルクラス)地下迷宮(ダンジョン)『スタンベルトの迷宮』。


 もう一つがディスティが支配するビアレス魔道国にある難関級(ハイクラス)地下迷宮(ダンジョン)『ラウクレナの禁書庫』――どちらも、カイエが地下迷宮の主(ダンジョン・マスター)を屈服させていた。


 だから、ロザリーは、ほとんど何もする事なく二つの地下迷宮(ダンジョン)を支配下に収める事が出来たのだが。


「カイエ様……次に地下迷宮(ダンジョン)を攻略するときは、ロザリーちゃんに任せて欲しいですの!」


 何故かロザリーは頬を膨らませる――実力で地下迷宮(ダンジョン)を支配して、カイエに褒めて貰いたい。ロザリーはそう思っているから、何もせずに与えられる状況が不満なのだ。


「ああ……この中立地帯にも難関級(ハイクラス)地下迷宮(ダンジョン)があるから。そいつの攻略は、ロザリーに任せるよ」


 カイエもロザリーの気持ちが解るから、否定などしない。


「でしたら、良いですの……さあ、ロザリーちゃんの下僕(しもべ)たち。カイエ様の言葉を届けるですの!」


 『言霊の箱(メモリーボックス)』――カイエの声を録音したマジックアイテムを手に、有翼の怪物(モンスター)たちは中立地帯に点在する魔族の氏族(クラン)と人族の村へと向かった。


 その日……マクスレイ天樹国周辺の中立地帯の各地で、カイエの声が鳴り響いた。


『俺はカイエ・ラクシエル……今から俺はおまえたちを一方的に庇護下に置くけど、見返りは一切求めない。

 おまえたちは、これまで通りに好きにしろよ。ただ、魔神や神の化身が文句を言って来たり、力づくで何かをしてきたら。俺に苦情を言えよ……俺が全部解決してやるからさ」


 カイエの言葉を、中立地帯の住人たちは半信半疑どころか、ほとんど信じなかったが――それが間違いだと、すぐに知る事になった。


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