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289 二人の結末


 カイエとローズという二人の怪物に挟まれて、シャーロンは打ちひしがれる――その傍らで、クロウフィンは焦りまくっていた。


 シャーロンに自分の価値を再認識させる事に最早意味はなく。カイエとローズが支配するこの状況を切り抜けるには、もう一つの手段に頼らざるを得ないが――


(あいつらは……いったい何をしてるんだよ! おまえたちが来れば、僕が逃げるくらいの隙は出来る筈なのに!)


 クロウフィンは密かに『伝言メッセージ』を部屋の外にいる相手に送っていた。

 この部屋にはシャーロンが魔法を遮断する仕掛けを施しているが。シャーロンの性格を良く知るクロウフィンは、こういうとき(・・・・・・)のために、抜け道(バックドア)を用意しておいたのだ。


 クロウフィンが伝言メッセージを送った相手は、他の『曇天の使徒』の部下だ。決して共闘関係にある訳ではないが、伝言メッセージに彼らの喜ぶネタを書いておいた。


 あの伝言メッセージを見れば――彼らは確実に動く。

 『曇天の使徒』同士の戦いの混乱の中でシャーロンと他の『曇天の使徒』を天秤に掛けて、クロウフィンは勝ち馬に乗るつもりだったのだが――


 すでにシャーロンはカイエとローズに支配下にあり。シャーロンすら支配する化物にクロウフィンが取り入るのは不可能だろう。たとえ可能だとしても、シャーロンの二の舞になるのは御免だった。


 カイエとローズという化物に『曇天の使徒』が束になって掛かっても、勝てるとは思えないが――カイエとローズが攻撃気を取られる隙に、クロウフィンは逃げ出せば良い。


 そんな事を考えているクロウフィンの肩を――カイエが不意に掴む。


「なあ、クロウフィン……残念だけど、おまえの『伝言』は届いてないから」


「な、何を言って……」


 惚けようとするクロウフィンに、カイエは意地の悪い笑みを浮かべる。


「『シャーロンが裏切った』か……表現がストレート過ぎるな。それに内通者になるなら、暗号くらい使ったらどうだよ?」


 『伝言メッセージ』を読み取られている――クロウフィンは硬直した。


 カイエは邪魔が入らないように、広域認識阻害と結界と――魔法を傍受する自作の魔法(オリジナルマジック)を展開していた。


 別にそこまでする必要もないが……シャーロンとクロウフィンの性格を考えて、嫌がらせをしてやろうと思ったのだ。


「もう少し使えると思ったけど……クロウフィン、貴方には失望したわ」


 部下の工作に気づいたシャーロンは、冷たい眼差しを向ける。


「カイエ様、ローゼリッタ様……この愚か者の始末は、私シャーロン・フォルセリアにお任せ下さい。一応、申し上げておきますが……カイエ様のお力添えがなくとも、この男の工作など私が未然に防ぐ事が出来ました」


「そうだな……クロウフィン。おまえは結局、ハメられたんだよ」


 『抜け道(バックドア)』の存在などシャーロンはとうに気づいており。対策を施した上で、敢えて残しておいたのだ……クロウフィンの忠誠心を試すために。


「シャーロン様……」


 震える声で言うクロウフィンを、シャーロンはゴミを見るような目で見る。


「愚か者が……私の名前を呼ばないで欲しいわね」


 シャーロンは無慈悲に、クロウフィンの人生を一瞬で終わらせるつもりだったが――


「シャーロン、止めておけよ。今殺すと、他の奴らに説明するのが面倒だろう?」


「カイエ様……ご心配は無用です。私の怒りに触れて、部下が死ぬ事など珍しくありませんから。誰も不審には思いませんよ」


 クロウフィンの怯え方から、シャーロンの言っている事が事実だと解る。


「いや。殺すのなんて、いつでも出来るし。こいつの口を塞ぐ方法なんて、幾らでもあるからさ」


 そう言うと、カイエは強制ギアスの魔法を発動させる――強制ギアスを完璧に隠蔽する魔法と一緒に。


「ほら、クロウフィン……『シャーロンが裏切った』って、言ってみろよ。『伝言メッセージ』や他の魔法を使ったって構わないからさ」


 何かを喋る前に、クロウフィンは胸を押さえて蹲る。


「ああ、悪い。言うのを忘れてたよ……考えるだけでも駄目なんだよ」


 こんな芝居掛った事をやっている理由は、シャーロンに『おまえも覚悟しておけよ』と教えるためだ。


 カイエにとってはシャーロンの方が少しは役に立つと言うだけで。本質的にはシャーロンもクロウフィンも大差ないと思っていた。


 その意図は十分に伝わり――


「承知しました……クロウフィンの事は、カイエ様にお任せします」


 シャーロンは片膝を付いて、深々と頭を下げる。カイエに対してはこれで良いが……クロウフィンを簡単に始末しようとした事で、またローズを怒らせてしまったのだ。


 ローズに冷ややかな視線を向けられて――シャーロンは逃げ場のない恐怖に耐えながら、作り笑いを浮かべるしかなかった。


「それじゃ……シャーロンに、クロウフィン。これからも、よろしく頼むよ」


 カイエは悪人の笑みを浮かべて、怯える二人の肩を叩いた。



※ ※ ※ ※


 少し時間を巻き戻して――


(これは……どういう事だ?)


 ビアレス魔道国の一級特務魔術師であるクレア・オルガンは、最速で大聖堂までやって来た。


 しかし、クレアの侵入を拒むかのように、大聖堂全体を見えないが壁が囲んでいたのだ――クレアは魔法で感知したが、無色透明な壁は視認する事が出来ない。


(私の存在に気づいたという事か……しかし、それにしても大掛かり過ぎる)


 大規模な結界など張らずとも、相手の方が明らかに戦力は上なのだから。普通に迎撃すれば良いだろう。


 クレアは逡巡するが――大聖堂の中にはカイエとローズがいるのだ。時間が経てば経つほど状況は悪くなる。


(考えている暇があったら、動く方がマシだな)


 クレアは覚悟を決めて、部下に伝言メッセージを送る。


『アルト、キリエ、ラガン……これより、私は突貫する。おまえたちは、ディスティニー様に現状の報告をする事を最優先にしろ』


 指示を出すなり、クレアは結界に穴を穿つために、剣に全力で魔力を込めるが――その瞬間、新たな結界がクレアを包み込む。


「何だと……罠に嵌められたか!」


 クレアが反応する前に、結界は完成し。彼女は完全に閉じ込められてしまった。


 クレアは魔力を込めた剣を、結界に叩きつけようとするが――


『おい、クレア……おまえは何をやってるんだよ?』


 伝言メッセージではなく、カイエの声が直接頭の中に響く。


『おまえたちが来ると、面倒な事になるって言っただろ。俺たちは大丈夫だからさ。そこで暫く、大人しくしてろよ』


「カイエ、これはどういう事ですか!」


 クレアは叫ぶが――返事はなかった。


 結局、カイエは一方的に言いたい事を言って、会話を終わらせた後――クレアは小一時間も、結界の中に放置される事になった。



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