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271 もう一つの邂逅


 それから、カイエたち三人は夕食まで一緒に過ごして――こっちの世界についての情報を訊く筈が、途中からローズとディスティの他愛のないお喋りになった。

 

「カイエもローズも、私のお城に泊まれば良い」


 そう言ってディスティは誘ったが、カイエは『悪いけど……』と断って、ローズとのデートの間に取っておいた宿へと向かう。


 カイエが選んだ部屋は、首都ビクトリノでも指折りの高級宿屋(ホテル)のスイートルーム。豪華な造りのワンフロアを借り切っているのだが、それでも飽き足らず……


 大量のマジックアイテムを持ち込んで、気温と湿度の調整やら、空間拡張やら、その他諸々の魔法を発動させて。誰にも邪魔されない快適な空間を作り出すと――


 カイエとローズは裸のまま、二人きりの夜を過ごした。


「ねえ、カイエ……私だって……ディスティの事で、嫉妬してるんだから……」


「ああ、ローズ……解ってるって。だから……」


 二人きりで夜を過ごすなんて、元の世界でも余り無かったから――ローズは今の特権を精一杯満喫しようと……バスルームとベッドルームで、カイエに甘えまくった。


※ ※ ※ ※


 そして翌日の昼過ぎに。カイエとローズは、再びディスティの居城を訪れる。


 今日はヴェロニカのところに行くつもりだから、自分たちだけで勝手に行動しても良かったのだが。どうせディスティも、鍛錬のために後から来る事になるのだし。ディスティ本人も(表情は変わらなかったが)一緒に来る気満々だったから、同行させる事にしたのだ。


「……」


 部屋に入るなり、スカイブルーの髪の少女はジト目を向けて来る。


「おい、ディスティ……何か文句でもあるのか?」


 カイエは彼女の意図が解っていながら、何食わぬ顔で言う。


「カイエ……それを私に言わせる気? 別に良いけど……昨日の夜。カイエとローズは二人きりで、随分とお楽しみで……あんな事やこんな事や……」


「ちょっと、待って! そういうの真顔で言われると、恥ずかしいから!」


 ローズは予想外の攻撃に、真っ赤になってディスティを止める。


「……やっぱり。ローズはいっぱいカイエに甘えたんだ……ズルい」


 頬を膨らませるディスティ。ローズは『もう……』と困った顔をするが、すぐに悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべる。


「そうよ。私はカイエの奥さんだから……ディスティが訊きたいなら、昨日何をしたのか全部教えてあげるけど……本当に知りたいの?」


 ディスティの想いが解っているから。ローズは彼女の前では、いつものようにカイエと四六時中触れ合ってはいない。だけど、ディスティがその気なら……いくらでもイチャイチャしているところを見せてあげるわよと――


 自然な感じでカイエと指を絡めて、しな垂れ掛かる。カイエも当然という感じで、ローズを抱き寄せると、二人の唇が近づいていく。


「……ごめんなさい、ローズ。私が悪かった……」


 涙目で項垂れるディスティ――ローズはキスの直前で動きを止めて、優しく微笑む。


「解ったのなら、良いのよ……ディスティ。こっちこそ、ごめんね」


 そんな二人の様子に、カイエは苦笑する。


「それじゃ……さっさとヴェロニカのところに行くか」


 この前訪れたときに、転移先として登録マーキングしておいたから。今度はカイエが転移魔法を発動させるつもりだ。


「『鮮血の魔神』ヴェロニカ・イルスカイヤ――彼女も、カイエの昔からの知り合いなのよね?」


「ああ、ディスティとは違う意味で面倒臭い奴だな」


 何気なく応えるカイエに、


「ふーん……そうなんだ?」


 ローズは疑わしそうな顔をする。カイエならフラグを立てている筈だと思っているのだ。


「ヴェロニカは……私と違って無自覚。だからたちが悪い」


 先程のお詫びのつもりなのか、ディスティが応える。


「ローズも……ヴェロニカに会ったら、面倒な事になると思う」


「そうなのね……ディスティ、教えてくれてありがとう!」


 ローズがニッコリ笑ってお礼を言うと――ディスティは何故かデレる。


「何だよ、おまえら……まあ、良いけどさ。とりあえず、ディスティ……おまえは手を出すなよ」


 カイエは面白がるように笑うと――転移魔法を発動させた。


※ ※ ※ ※


「よう、カイエ……帰って来たのか」


 三人が転移した先は、ヴェロニカの居城の訓練場――『鮮血の魔神』ヴェロニカ・イルスカイヤは一人、鍛錬をしているところだった。


 血のように赤い髪と金色の瞳。褐色の鍛え上げられた肉体に聳え立つ双丘と、形の良いヒップ――獰猛な美しさを持つ女獅子は、脈動する二本の赤黒い大剣を肩に掛けて、カイエたちの方に近づいて来る。


 そして、ローズと目が合うと――ヴェロニカは犬歯を剥き出しにして笑った。


「てめえ……たかが人族の癖に、結構強えな。おい、カイエ……こいつは何者ナニモンだよ?」


 カイエは何も応えない――ローズが自分で言うと解っているからだ。


「私はローゼリッタ・ラクシエル、カイエの妻よ。あなたがヴェロニカ・イルスカイヤ――『鮮血の魔神』ね。まずは、カイエに協力してくれた事にお礼を言うわ」


 ローズは気負いのない自然体で、ヴェロニカを見て微笑む。ヴェロニカが秘めている膨大な力には気づいているが……だからと言って、引き下がるつもりはなかった。


「へえー……そういう事か。だが、それにしても……」


 ヴェロニカはニヤリと笑うと、カイエの方を見る。


「なあ、カイエ……てめえの嫁の実力を試してやるから。他の魔神や神の化身たち(奴ら)に気づかれないように、また認識阻害を発動してくれよ」


 他の魔神や神の化身たちと交わした制約に従って、力を制限した状態では。ローズに勝てない事くらいヴェロニカも気づいていた――だからこそ、ローズと本気で戦ってみたいと思ったのだが……戦う理由は、それだけではい。


 カイエは視線でローズに確認する――ローズは頷くと、スキル『早着替え』で白銀の鎧と神剣アルブレナの完全装備になった。


「何だよ……てめえの嫁も、やる気満々じゃねえか!」


 犬歯を剥き出しにするヴェロニカ――カイエはフンと鼻を鳴らす。


「そうだな……ついでに結界も張っておくから、好きに暴れてくれよ」


 広域認識阻害と多重結界を発動する――こうなる事は初めから解っていた。


「おい、カイエ……本当に好きにやって良いのか? 俺が全力を出したら……てめえの嫁が粉々になるぜ!」


 そう言いながら――ヴェロニカの全身から赤い魔力が一気に溢れ出す。『鮮血の魔神』ヴェロニカは……どういう訳か、カイエの隣にローズずいる事が気に食わなかった。


「私は……構わないわよ」


 ローズは冷静にヴェロニカの力を見定めていた――これからカイエと一緒に異世界を巡るのだから、神の化身や魔神たちと対峙する機会も少なく無いだろう。


 だから……『鮮血の魔神』であるヴェロニカと戦う事は、カイエと一緒にいる資格がある事を証明するための試金石なのだ。


 ローズの全身から輝くばかりの光の魔力が放たれる――想像以上の魔力の発動に、ヴェロニカは不敵な笑みを浮かべるが……それはすぐに驚愕に変わる。


「ホント……面白おもしれえじゃねえか!」


 ローズの放つ魔力が――巨人級(ガルガンチュアクラス)偽神(デミフィーンド)すら、凌駕していたからだ。


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