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244 彼女の宿敵


 聖城を後にする頃には真夜中に近い時間だったので、カイエは宿に泊まる事にした。

 ログナとアルメラも、さすがにロッドのところには戻れないと言うので、ログナの知り合いがやっているという宿屋に一緒に向かう――勿論、部屋は別々だ。


「お早う、カイエ……昨日は良く眠れた?」


 翌朝、宿屋の食堂でアルメラと顔を合わせると、妙にすっきりした顔で肌艶も良い。


「昨日はお疲れ……いや、あんたは疲れないか。俺は働き過ぎると身体にきつい年だからな……今日は一日休みにするか」


 逆にログナはぐったりしいたので――あれから何をしたのか想像はついたが。カイエは興味もないので無視スルーしていると。


「ねえ、カイエ。こういう(・・・・)ときは、ちゃんと突っ込むべきよ……ああ、別の意味でね」


 アルメラがウザい絡み方をして来る。彼女の第一印象は真面まともで、隙の無い手練れという感じだったが。本性を知ってしまうと、そういう(・・・・)前振りだったのかと思ってしまう。


 カイエはニッコリ笑うと、


「アルメラ……五月蠅い、黙れ。ウザいのは嫌いなんだよ」


「何よ、カイエ……私みたいな年上は嫌? ああ、そんな顔して貴方の方がずっと年上だったわね……だったら、何の問題も無いじゃない?」


 全然怯まずに、アルメラはグイグイ迫って来る。見た目二十代後半の彼女は、客観的に見れば、肉感的で肉食系の美人だ。


「なあ、カイエ……俺とアルメラは身体の関係だけで、仕事上のパートナー以外の何者でもないから。カイエがその気なら、好きにナニしてくれよ」


 ログナまで惚けた顔で援護射撃をして来た。


 一夜明けて興奮が冷めても、二人はカイエを全く恐れる素振りを見せない。しかし、殺される筈はないとカイエを舐めている訳ではなく、神の化身すら屈服させるカイエと関われるなら、命など惜しくはないと本気で思っているのだ。


「まあ、俺はアルメラに手を出す気なんてないからさ。おまえらも面白いモノが見たいなら、ウザい絡み方はするなよ」


 カイエが軽く殺意を込めた視線を向けると、ログナは背筋を震わせながらニヤリと笑い、アルメラはゾクゾクしながら恍惚とした表情を浮かべる。


「ああ、了解した……俺はもっと面白いモノが見たいからな」


「そうね、残念だけど……カイエを怒らせない方が、興奮できる状況を体験できそうね」


 頭のネジが完全に飛んでいる二人が、何処まで承諾したのかは解らないが。とりあえずは面倒な絡み方さえしなければ、面白い奴らではあるから、一緒に行動しても構わないとカイエは思っていた。


※ ※ ※ ※


 朝食を済ませた後、カイエたちが向かったのは冒険者ギルドだ。彼らの魔力の色(・・・・・・・)をカイエは覚えているから、そこにいるのは解っていた。


 ギルドの扉を潜るなり。レイナが肩を震わせながら、コツコツと靴音を響かせて近づいて来た。


「カイエ、あんたね……自分が何をしたのか解ってるの?」


 思いきり腕を振りかぶって頬を叩こうとするが――カイエは軽く避けてしまう。


「な、何で避けるのよ! 少しは空気を読みなさい!」


「いや、読んでるって……」


 レイナの両肩を優しく掴んで瞳を覗き込む。


「レイナ、悪かったよ」


「え……」


 レイナが真っ赤になって言葉を失っていると。


「へえー……カイエは、そういう娘(・・・・・)が好みなの?」


 ニマニマした顔で口を挟むアルメラを、カイエは殺意を込めた視線で黙らせる。


「別に思わせぶりな態度を取るつもりはないけど、レイナは良い奴だからな」


「何よ、気持ち悪いわね……でも、無事で良かったわ」


 レイナたちもカイエの実力はある程度解っていたが。相手は『神の血族』なのだからと、心配していたのだ。


「全く……カイエのやる事は全然予測できないね」


 トールがニッコリ笑顔で近づいて来るが。


「いや、それは……俺が不甲斐ないからだろう」


 アランは重い空気を漂わせながら、思い詰めた表情を浮かべていた。カイエが一人で片を付けに行った事に対して、結局自分は何も出来なかったと責任を感じていた。


「アラン、おまえは真面目過ぎるんだよ。『神の血族』の件は俺が自分で種を蒔いた事だし、もう片付いたから気にするなよ」


 カイエが苦笑しながらアランに近づいて行く――肩から手を離した瞬間、レイナがちょっと不満そうな顔をしたのには気づかない振りをして。


「カイエ、もう片が付いたのか……幾ら何でも早過ぎないか?」


 ギルがメガネの位置を直しながら、訝しそうな顔をする。


「ああ、多分な。飼い主(・・・)に釘を刺しておいたから、問題ないだろう」


 カイエの言葉の意味に気づいて、ギルは唖然とする。


「おい、カイエ……まさか……」


「カ、カイエ……その……」


 ノーラがおずおずと進み出て、カイエの顔をじっと見る。


「わ、私も何も出来なくて……ごめんなさい」


「いや、だから。おまえたちが気にするような事じゃないって」


「カイエなら『神の血族』が相手でも、楽勝だったんだろう?」


 最後にやって来たガイナが不敵に笑う。カイエは応える代わりに、軽く微笑んだ。


「ところで、カイエ……この人たちは誰なの?」


 レイナが敵意を含んだ視線を、カイエの後ろにいるアルメラに向ける。


「ああ、ログナにアルメラだ。昨日俺たちを監視してたのは、こいつらだよ」


 カイエの説明にレイナたちは警戒心を顕わにする。


「いや、この二人とも話はついたから。とりあえず、暫くは一緒に行動する事にしたんだ」


「え、どういう事……」


 レイナが訳が解らないという顔をするも当然だった。


「つまり、私たちはカイエが気に入ったって事よ。カイエも許してくれたから、何処までだって付いて行くわ」


 だから、お嬢ちゃんは黙っていなさいと、アルメラは上から目線で妖艶な笑みを浮かべる。


「俺も似たようなもんだ。あんたたちはカイエの知り合いみたいだが……まあ、俺たちの事は気にしないでくれ」


 飄々とした感じのログナには注目が集まらなかったが、トールだけは彼の実力に気づいて、警戒レベルを一段階上げた。


「ふーん……何処までも付いて行くんだ? でも残念ね、カイエには奥さんと愛人が沢山いるのよ」


「あら、勘違いしてるみたいだけど。私が興味あるのは……カイエの力と身体だけよ」


「か、身体って……あんた、何を考えてるのよ!」


 レイナとアルメラの視線がぶつかり、バチバチと火花を上げる――いつの間にか、女同士の戦いが始まっていた。


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