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207 姉と嫁たちの再会


 それから暫くして、カイエたちが週に数回は通っているアルジャルスの地下迷宮ダンジョンを訪れると――運が悪いことに(・・・・・・・)、エレノアと遭遇した。


「あれ? カイエにみんな、久しぶりだね。みんなの活躍は人外たちから、噂として聞いているけど。人族と魔族の間を取り持つとか、私にとっても長年の望みなんだよね。全力で応援するから、私の力が必要なときは、いつでも頼ってね」


 相変わらずのマシンガントークで、エレノアは一方的に捲し立てる。


 ああ、そっちの話題かと。カイエは内心でホッと胸を撫で下ろした。


「ありがとう、エレノアねえさん。でも、とりあえずは、俺たちだけで何とでも出来るからかさ。本当に困ったときだけ、お願いするよ。それじゃ、俺たちは怪物モンスター戦闘バトルしてくるから……」


 爽やかな笑みを浮かべて、カイエはエレノアの前を通り過ぎようとするが――襟首を掴まれて引き留められる。


「何を……素知らぬ顔で、行こうとしてるのかな?」


「何だよ、エレノアねえさん……久しぶりだからって、変な絡み方をするなよ。最近は俺たちも忙しいからさ、さっさと戦闘バトルして帰りたいんだけど」


「ふーん……何に忙しいんだろうね? カイエ……このエレノアねえさんを誤魔化せるとか、本気で思ってないわよね?」


 エレノアはニンマリと笑って、ローズたちの顔を順番に眺めると。


「ローズ、エスト、アリス、エマ……おめでとう! うちのヘタレな弟が、ようやく女にしてくれたのね!」


 完璧に言い当てられて――真っ赤になる四人。


「あら……ちょっと、タイミングが早過ぎたかな? まだまだ初心うぶな感じで、嬉し恥ずかし夜の生活にドキドキしてる感じね」


「おい、エレノアねえさん……何で全部解るんだよ? それに言い方が……ストレート過ぎるだろう」


「何よ、デリカシーの欠片もないカイエにだけは言われたくないわ。私というモノがありながら……他に子作りする相手を四人も作るなんて……」


 わざとらしい嘘泣き。カイエは色々と諦めた。


「だから……これまでの事は謝るからさ。言い方を考えろよ!」


 エレノアに翻弄されるカイエに――ローズたちは珍しいモノを見たような顔をする。

 この世界でカイエを慌てさせる事が出来るのは、エレノアだけではないだろうか。


 しかし話題が自分たちの事で、あれやこれやを言い当てられて。顔から火が出るほど恥ずかしかったから……それどころでは無かったのだが。


「ああ、ちょっとイジメ過ぎたみたいね……ローズも、エストも、アリスも、エマも、ごめんなさいね」


 小さく舌を出して、エレノアは茶目っ気たっぷりに笑う。それから――不意に表情を変えて、優しく微笑んだ。


「みんな……カイエの想いを受け止めてくれて、本当にありがとう」


「そんな……エレノアさん。私たちの方こそ……」

「そうです……私たちが、カイエを求めたから……」

「そうよ……お礼を言われるような話じゃないわ」

「うん……私たちはカイエが大好きだから……」


「それでも……お礼を言わせて欲しいの。ずっと一人だったカイエが、馬鹿な事を言って笑っていられるのは……あなたちのおかげだから。ありがとう……そして、絶対に幸せになりなさいよ!」


「「「「はい……」」」」


 エレノアに抱きしめられて涙ぐむ四人に――カイエは気恥ずかしさと、居心地の悪さを感じていた。


 そんなカイエに、エレノアは意地悪く笑うと、


「これからは……みんなも『エレノアねえさん』って呼んでよね!」


 勝ち誇るように宣言する。


 四人が拒否する筈もなく……『エレノア姉様』『なに、ローズちゃん? もう少し砕けた感じで『エレノアお姉ちゃん』の方が私の好みなんだけど?』などと言いながら、和気あいあいとした感じで話をする話題は当然……カイエと一線を超えた経緯や、彼女たちの感想な訳で。


 このときカイエは――本気で逃げ出したいと思っていた。


(なんで……こんな事になったんだ?)


 このタイミングで、エレノアが偶然居合わせなければ……本当に偶然なのか?


 カイエが何かを悟って、地下迷宮ダンジョンの主を見ると――白い髪の美女は、絶対に目を合わせるものかという感じで、そっぽを向いていた。


「おい、アルジャルス……おまえが犯人だな?」


「な、何を言っておるのだ……我は悪くない」


「へえー……エレノアねえさんに告げ口した事は認めるんだな」


 カイエの漆黒の瞳から――一切の感情が消える。

 彼を中心として渦巻く混沌の魔力は……神聖竜であるアルジャルスですら、危機感を覚えるのに十分過ぎる力を放っていた。


「し、仕方が無かろう! おまえたちの態度が明らかに変わったのだから。我も何かあったと思って、エレノアに相談したのだ。そんなに恥ずかしいなら……もっと上手く隠せ! 見ているこっちの方が、恥ずかしいわ!」


「ああ、そうかよ……アルジャルス、よく言った! おまえとは、一度本気で戦ってみたいと思ってたんだ」


「そうか……カイエ、奇遇だな。我もおまえと全力で戦いたいと、常々思っていたところだ!!!」


 本来の姿である神聖竜の姿に戻って、アルジャルスは全身から膨大な魔力を噴き上がらせるが――


 ガツン! ガツン! と重なるような二発の音。


 次の瞬間、カイエとアルジャルスは後頭部を抱えて蹲っていた。


「「「「「「カイエ(様)に攻撃が通った……」」」」」」


 驚愕の声を揃えたのは当事者であるローズたち四人と、今回は一歩引いたスタンスだったロザリーとメリッサだ。


 ローズたちなど、もう半年以上もカイエと一緒にいるが。彼がが攻撃を喰らうところを見た事が無かった。


 しかも、日々の鍛錬やアルジャルスの地下迷宮ダンジョンでの戦いで、彼女たちもかつてとは比較にならないほど強くなったのに……エレノアの動きは、全く見えなかったのだ。


「あなたたち……大人げないわね? この地下迷宮ダンジョンを、世界から消滅させるつもり?」


「エレノアねえさん……悪かったよ」


「ああ……そうだな。エレノア、今回は我が悪かった……」


 何も言い返せないカイエとアルジャルスに――いや、今日は本当に凄いモノを見てしまったと、ローズたちは思った。


「カイエが本気を出したら……エレノア姉様よりも、強いのよね?」


「うーん……どうだろうか? どちちが強いかなどと、話題にした事はないが……」


「少なくとも……エレノア姉様だけは、怒らせない方が良いわね?」


「うん……絶対にそう思うよ。私もまだ死にたく無いから」


 うんうんと頷き合う四人と。


(でも……今回の事は、カイエ様の自業自得なのよ。今はローズさんたちに一生懸命なのは解るけど。ロザリーちゃんを放置するとか……あり得ないかしら!)


 プクッと頬を膨らませるロザリー。そして――


(僕も……もっと頑張って。早くエレノア姉様と呼べるようにならないとね!)


 メリッサは拳を握り締めて、闘志を燃え上がらせた。



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