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206 翌朝


 翌朝。カイエとローズが恋人つなぎでダイニングキッチンに現われると――仲間たちは温かい笑みで二人を迎えた。


「ローズ……想いが叶ったみたいね」


「良かったね、ローズ……私も嬉しいよ」


「うん……ローズもカイエも、幸せそうだよね」


 アリスもエストもエマも気恥ずかしさとか、羨ましさとか、揶揄からかうような気持ちなんて全然無くて。まるで自分の事のように喜んでくれた。


「ありがとう、みんな……今の私は、世界で一番幸せだと思う。カイエと一つになれて……そして、みんなが一緒にいてくれて……」


「いや、さすがに。ちょっと惚気のろけ過ぎだろ……とか、俺が言うのも何だけどさ」


 意地悪く笑おうとして――全然意地悪な感じになっていないカイエに、アリスが苦笑する。


「はいはい、ごちそうさま……ところで、カイエ。次は私たちの番だって……考えて良いのよね?」


 挑発的なアリスの眼差しに、カイエは確認するようにローズを見る。


「カイエ……私はみんなで幸せになりたいって、本気で思ってるから。自分だけがカイエを独り占めしようなんて考えてないよ……たまには、二人きりでイチャイチャしたいけどね」


 悪戯いたずらっぽく笑うローズは、無理や気遣いをしてる感じじゃなくて。本心から言っている事が、カイエにも解ったから――


「アリス、勿論もちろんおまえも俺にとって特別だから……いや、もっと素直になるよ。おまえは憎まれ口ばかり叩いてるけど……いつも、みんなの事を考えてるよな。そんなおまえが……俺は愛おしいんだ。だから……おまえと一つになりたい」


 真顔でド直球の台詞を言われて、アリスは真っ赤になると……


「馬鹿……カイエ、あんたは……」


 そっと優しく、カイエと唇を重ねる。


 そんな二人を、羨ましそうに見つめるエストに――アリスが微笑んで、カイエの肩を押す。


 『ああ、解ってるって』って感じでカイエは笑みを返すと、正面からエストを見つめる。


「エスト……おまえは、いつも真面目で一生懸命で。頑張り過ぎて、自分で恥ずかしくなってるおまえの事が……俺は大好きだよ。エスト……おまえを愛してる。だから……一つになろう」


「ああ……カイエ、愛してる。私もカイエと……一つになりたい」


 エストはカイエの胸に顔を埋めて、幸せな涙を流す。そして自然と重なる唇――


 そんな二人を……今度は自分の番だと、エマは尻尾でも降りそうな感じで。期待に満ちた目で見つめていたのだが……


「エスト……それに、アリス。だけどさ、そういう(・・・・)のは特別な事だって、俺も思ってるから。雰囲気とかタイミングとか、大事にしようと思うんだ」


 別にヘタレた訳じゃなくて――二人の事を本当に大切だと思っているから。カイエは優しい笑みを浮かべる。


「解ってるよ、カイエ……私も焦るつもりなんて無いから」


「ふーん……私は今が一番盛り上がっているタイミングだって思うけど。カイエ、そんな事を言うなら……一生忘れられないくらい素敵に私たちを奪わないと、承知しないからね」


「ああ……約束するよ」


 カイエとエマとアリスは、三人だけの世界に入って。エマを完全に無視スルーしている。


 いや、まさか、そんな事は……エマが焦りを感じ始めると。


「じゃあ、そういう事で……エストが作ってくれた朝飯を食べて、出掛ける準備をするか」


 みんながエマの前を通り過ぎて、テーブルに着こうとするので。


「嘘……何で? 何で、私だけ……カイエ、酷いよぉー!!!」


 涙目で抗議するエマを――カイエはギュッと抱きしめる。


「エマ、おまえさあ……何を慌ててるんだよ。冗談に決まってるだろ……エマ、俺はおまえを……愛してる」


 耳元で囁かれて、顔が真っ赤になっても……エマの怒りは収まらなかった。


「馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿……カイエの意地悪!!! みんなだって、酷いよ……私は本気で、焦ったんだから……」


「悪かったよ、エマ……すぐに騙される素直で可愛いエマと……俺は、一つになりたいんだ」


「うん、私も……カイエと一緒になりたい!」


 激しく互いを求め合うように、濃厚なキスをする二人を――ローズとエストとアリスは優しく見守る。


「エマ……意地悪して、ごめんね。私も大好きだよ……」


「ホント、エマはすぐに騙されるんだから。これからも私が見てあげないと……」


「ああ。エマもおめでとう……これからも、みんな一緒だな……」


 そんな彼らに背を向けたまま――少し離れたところに立っているロザリーに、ローズは気づいた。


「ロザリー、あなたも一緒にご飯を……」


 顔を覗き込むと……幼女は涙を流していた。


「どうしたのよ、ロザリー……」


「ローズさん……な、何でもありませんわ。ロザリーちゃんは、その……嬉しいんですの」


 みんなの想いを、ロザリーも知っているから……想いが届いたことが、本当に嬉しかったのだ。


 初めはカイエに復讐しようと、みんなを利用しようと思って近づいた筈なのに……いつの間にか、仲間になっていた。


 地下迷宮の主(ダンジョンマスター)として、孤独な支配者だった自分の事を――カイエたちは受け入れてくれた。

 そんな彼らが大好きだと……なかなか素直に言わないけど。ローズに対しては何故か……誤魔化す事なんて出来なかった。


「ロザリー……ありがとう」


 ローズはロザリーを抱きしめて、優しく髪を撫でる。


「いつかロザリーも……カイエと一つになれるよ」


「そ、そんな事……ロザリーちゃんは全く全然、一ミリも考えていませんわ!」


「ふーん。そうなんだ……だったら、気が変わったら教えてね。私も応援するから」


「い、嫌ですわ、ローズさん……絶対に、あり得ないのよ!」


 じゃれ合う姉妹のような二人……そして、もう一人……


 メリッサも空気を読んで、少し離れた場所にいたのだが。タイミングを計ったように、自分から近づいて来て――


「ねえ、カイエ……僕はカイエの事も、みんなの事も大好きだし。この気持ちは誰にも負けないって思ってるけど……今まだ、みんなと同じようになれない事も解ってる。だから、もっとみんなに……カイエに好きになって貰えるように頑張るから。……待っていてくれないかな?」


「ああ、メリッサ……だけど、変に頑張るなよ? おまえは、おまえのままが一番可愛いんだから」


「え……」


 不意打ちで真っ赤になるメリッサを――みんなが優しく迎える。


「さあ……今度こそ、みんなで一緒にご飯を食べて。それぞれの場所へ出掛けるわよ。私たちには、まだまだ沢山やる事があるんだから」


 ロザリーと手を繋いで、ニッコリ笑うローズは――温かい気持ちでいっぱいだった。



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