193 カイエの企み(2)
すみません、加筆修正したら……倍くらいになっちゃいましたので、分割しました。
「ところでさ……ここからが本題なんだけど?」
給仕を務めていたリナを呼び止めて――戸惑う彼女に、カイエは爽やかな笑みを浮かべる。
「魔族のメリッサと、もう一人。あそこにいるロザリーを冒険者として登録したいんだよ。白金等級の推薦があれば、初めから銀等級で登録できる筈だよな?」
メリッサを勇者パーティーの一員と認めさせる程度で、カイエの企みが終わる筈もなく――冒険者として登録させる事で、ギルドを共犯者に仕立て上げようと言うのだ。
(傍観者なら逃げられるけどな……登録した事実が残れば、言い逃れできないだろ?)
カイエが言っている事は事実だが……それは魔族を登録することを前提にしたルールではなかった。
「えっと……あの……少々、お待ちください!」
魔族を冒険者として登録するなど、一職員に判断できる内容では無く――今度は何を始めたのかと、少し酔いが回った冒険者たちが見守る中。リナは慌てて、ギルドマスターを連れて来た。
「魔族である彼女を銀等級の冒険者として、登録したいという事ですが……うむ……確かに、白金等級の貴方の推薦があれば、問題ない事になっていますが……いや、魔族を冒険者として登録するなど、前代未聞の事でして……」
恰幅の良いギルドマスター――ジロン・アトーニは、彼らが勇者パーティーだと報告を受けていた。その狼狽ぶりに……カイエは内心でほくそ笑みながら、助け舟を出す。
「まあ、あんたの言いたいことは解るよ……魔族が冒険者になるとか、常識的に考えればあり得ないからな。だけど、ルールはルールだから……ギルドマスターとしては、つらい立場だよな? そこでさ……折衷案があるんだけど?」
「それは……どのようなお話でしょうか?」
思考を誘導されたジロンは、期待を込めてカイエを見る。
「何、簡単な話だよ……銀等級で問題ないところを、俺たちは最下級の青銅級で譲歩する。ここまで勇者パーティーに譲歩させたんだ……ロマリアの国王だって、文句を言う筈が無いだろう?」
結局、カイエの甘言に乗せられる形で――ジロンはメリッサを青銅級冒険者として登録した。
※ ※ ※ ※
「魔族だとか何だとか……ホント、下らない話ですの。そんな事よりも、ロザリーちゃんが冒険者として登録してあげたことに、感謝すべきかしら」
最高級宿屋への帰り道。ロザリーは銀等級のプレートを、面白く無さそうに弄ぶ。
ロザリーは今回……メリッサのオマケ扱いで、ついでに冒険者として登録された訳で。一切注目されておらず、それが不満の原因だった。
「まあ、そんなにムクれるなって……ロザリーの価値は、俺たちが解ってるからさ」
「え……もしかして、ロザリーちゃんも、とうとうカイエ様の特別に……」
期待を込めて、頬をピンク色の染める幼女に――
「ああ、悪い。そういう意味じゃなくて……ロザリーは特別な侍女ポジションって事で……おまえを特別扱いしたら、それこそ俺はロ〇コン認定されるだろ?」
持ち上げた瞬間に、一気に叩き落とす……そんな扱いにも、ロザリーはヘコたれない。
「カイエ様がツンデレなのは……ロザリーちゃんには解っているかしら!」
「おい、誰がツンデレだって……ロザリー、おまえも言うようになったな」
カイエが悪人の顔で詰め寄ろうとすると――
「ねえ、カイエ……今回僕は、あんまり役に立てなかったけどさ。人族のみんなが……冒険者ギルドが、魔族の僕を受け入れた事には……意味があるんだよね?」
メリッサが青銅のプレートを弄りながら、少し困ったような顔をする。
ロマリアにおける魔族の地位向上が目的だと、カイエは言っていたが。本当のところ、そんなものは後付けの理由で……今回のことは彼女に嫌な思いをさせないために、カイエたちが苦労したのではないかと、ついつい思ってしまう。
そんなメリッサの想いが、カイエには解っていたから――
「ああ、勿論だ。メリッサ……おまえが魔族のおかげで、俺たちはこの国でも一歩前進出来たんだよ。まあ、今回の件は布石に過ぎないけどさ……おまえが冒険者として活躍することで、奴らも魔族のことを認めざるを得なくなる」
「ふふふ……でもさ、まだ僕は何もしてないけどね? みんなに……ローズ、エスト、アリス、エマ、ロザリー……僕はみんなに助けられるばかりで、何も出来ていないけれど。これからは……もっと頑張って。必ずお返しをするからね!」
メリッサの宣言に――
「ええ、頑張ってね」
「私も期待しているからな!」
「そうよ、メリッサ……気合い入れなさい!」
「うん! 私も応援してるから!」
「……まあ、精々頑張るのよ」
素直に反応する四人と、素直じゃない幼女が一人。
「まあ、そういうのは……ゆっくりで良いからさ。メリッサ……俺たちは、おまえに何かをして貰おうとか、そういうつもりは無いからな?」
漆黒の瞳が、真っすぐに彼女を見つめる。
「俺たちは、おまえが気に入ったから一緒にいるだけだよ。だから、何も求めないし、やりたいと思う事をしてるだけだ」
「うん、カイエ……僕だって、それくらい解ってるよ……」
醸し出される甘い雰囲気に……メリッサは無意識に手を伸ばして、カイエに身を任せようとするが――
「でも……それとこれとは、話が別よ!」
「ああ、メリッサ……君の安易な行動を、許す筈が無いだろう?」
「そうね、カイエに甘えたい気持ちは解るけど……考えが甘いわね」
「ゴメンね、メリッサ……だけど、私だって譲るつもりは無いからね!」
四人の鉄壁に阻まれては……今のところは、諦めるしか無かった。




