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186 宿敵


 カイエたちが次に向かったのは、聖王国南部の港湾都市シャルト。海軍提督ジャグリーン・ウェンドライトの要塞だった。


「君たちは……私のことを、暇人だと思っているのか?」


 執務室の中に、突然転移で現われたカイエたちに。金色の肩章で飾られた軍服姿のジャグリーンがジト目を向ける。

 今も彼女は、机に積み上げられた書類の山と格闘していた。


「いや、そんな事は無いけどさ……付き合いの良い奴だとは思ってるよ」


「ああ、そうだな……カイエの誘いなら、いつでも大歓迎だ。それにしても……この部屋は熱いな。ああ、熱い……」


 ジャグリーンは立ち上がると、胸元のボタンを外して――破壊力抜群の谷間を覗かせる。


「カイエが私のところに、わざわざ来たのは……二人で情熱的な一夜を過ごすためだろう?」


「「「「そんな筈ないでしょ(だろ)!!!」」」」


 ローズが、エストが、アリスが、エマが――抜き身の剣のような殺意に満ちた視線を突き付ける。


「ああ、そう言えば君たちもいたんだな……悪いが、二時間ほど席を外して貰えるか?」

 しかし、ジャグリーンは余裕の笑みでカイエに迫る。


「やはり、カイエには……私のような大人の女が一番似合うと思う。なあ……カイエも、そう思うだろう?」


「俺もおまえのことは嫌いじゃないけどさ……悪いな、ジャグリーン。今日は別の用があって来たんだよ」


 大人の色香など全く反応せずに、カイエは揶揄からかうような笑みを浮かべる。


「そうか、残念だな……仕方ない。君たちの話を聞くとするか」


 ジャグリーンはそう言うと、『気が変わったら、いつでも言ってくれ』と耳元で囁いてから、カイエたちを応接テーブルへと誘った。


 敵意剥き出しの四人に左右前後から抱きつかれながら――カイエはガルナッシュ連邦国での一連の出来事と、グレゴリー・ベクターに交易を仕切らせる事になった経緯を説明した。


 ロザリーとメリッサは、ジャグリーンと初対面だったから。二人の事も彼女に紹介しておく。

 ちなみにメリッサは、転移で出現したときから変化の指輪を外しており、本来の魔族の姿をしていたのだが。ジャグリーンは『まあ、カイエのツレだからな』と平然と受け入れた。


(この女! カイエ様に、ふざけた真似をして……でも、なかなか侮れないのよ!)


(聖王国の海軍提督か……なるほど。カイエの知り合いには、化物みたいのがゴロゴロいるんだね)


 グレゴリーも全く一筋縄ではいかない人物だったが――このジャグリーンも、強さという意味でも強かさという意味でも、大概ではないとメリッサは思う。


「交易の仕切り役まで決まっているなら、私に出番など無いな。聖王国から派遣しても問題ない者の人選や、ガルナッシュまでの航路の護衛なら紹介できるが。それくらい、君たちならどうにでも出来るだろう?」


 ジャグリーンの当然の疑問に、カイエは頷く。


「まあ、今回の件には聖王国の連中も絡ませるつもりだから。ジャグリーンにも適当な人材を紹介して貰おうとは思ってるんだけど。一番の目的はそっちじゃなくて……俺たちは聖王国で、ガルナッシュと逆のことをやろうって思ってるんだよ」


 魔族の国であるガルナッシュの門戸を開くのと同時進行で、人族の国にも魔族を受け入れさせる――その最初の標的として、カイエは聖王国を選んだ。


 魔王軍との戦いの中心にあった聖王国は、南方の大国であるチザンティン帝国と並んで魔族を敵対視する最たる国であるが。

 その一方で勇者パーティーの母国であり、光の神の化身アルジャルスの影響下にもあるから。反対派を説得する材料も揃っている。


「なるほど……ならば私は、軍部の過激派を抑える役目というところか」


「ああ、ジャグリーン。話が早くて助かるよ」


 我が意を得たりという感じで笑うカイエに、ジャグリーンは苦笑する。


「しかし……私自身が、魔王討伐戦争では連合艦隊を率いていたんだぞ? 私こそが、反魔族の急先鋒だとは思わないのか?」


「いや、そんなことを言ったら。ローズたち勇者パーティーの方が最たるものだし。ジャグリーン、おまえは……そんな詰まらないことを言う女じゃないだろう?」


 挑発的な光を帯びる漆黒の瞳に――ジャグリーンの隻眼がしたたかな光を返す。

「そうだな……カイエの言う通りだ。しかし、私を動かしたいなら……相応の対価を用意して貰わなくては困る」


 ジャグリーンがカイエの方に身を乗り出すと――ローズたち四人も当然のごとく猫が毛を逆立てるような感じで……いや、そんな可愛らしいものではなく。魔王など裸足で逃げ出すような迫力で、敵意を剥き出しにする。


 それでもジャグリーンは、まるで彼女たちなど存在しないかのように、カイエだけを見つめていた。


「なあ、カイエ……可愛らしい幼女に魔族の姫君と、君のハーレムも、さらにバラエティーに富んできたようだな。そろそろ……大人の女を加えるのも悪くは無いと思わないか?」


 甘い声で囁く彼女に、ローズたちの敵意が烈火のごとく燃え上がり。触即発の張り詰めた空気に、ロザリーとメリッサは息を飲んだ。


 しかし、カイエが涼しい顔で――


「悪くない話だけどさ……俺にとって、こいつらは特別なんだよ」


 そう言うと空気が一変する。


「「「「カイエ……」」」」


 爆発するように湧き上がるピンク色の空間――だが、ジャグリーンは引き下がらなかった。


「カイエ、君は私を侮ってのか? 私が望んでいるのは、そんな事じゃなくて……」


 妖艶な笑みを浮かべる彼女に、カイエは半ば呆れ、半ば面白がるような笑みを返す。


「ああ、解ってるよ。おまえは……肉食獣だからな」


「そうだ……私が欲しいのは特別扱いじゃなくて。互いの身体を貪る猛獣のようなひと時だよ」


 ジャグリーンは一切ブレることなく――ド直球で切り込んだ。



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