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182/345

182 誰が悪い?


 その日の晩、ギャゼスの店に現れたクリスは――肩を顕わにした純白のドレスを纏っていた。


「ラクシエル師匠……どうして私が、こんな格好をする必要があるんですか?」


「だから、クリス……俺は師匠って呼ばれるのが嫌いだって言ったよな? それに、この店にはドレスコードがあるから、服の事は我慢しろよ」


 勿論、仕掛け人はカイエであり――アイシャを巻き込んで、彼女にピッタリのドレスを用意したのだ。


 着慣れないドレスに、クリスは不満顔だが……彼女の鍛え上げられた身体は、出るべきところはしっかりと出ており。オレンジ色の短い髪も良い意味でアクセントになって、白いドレスが良く似合っていた。


 その上、普段の鎧姿とのギャップもあって――


「「も、もの凄く奇麗だ……」」


 サブライズでクリスと会ったバーンとアレクは、目をキラキラと輝かせて賛美の言葉を送るが……


「ですが、師匠……肩がスース―しますし。歩きにくいんですけど?」


 クリスは自分の事だとは露にも思わず、完全に無視スルーする。


「おまえさ……俺の言葉は聞き流すし。文句ばっかり言って、本当は俺のこと嫌いだろ?」


 カイエは笑いを堪えながら、適当な感じで返事をする。


「そんな事はありませんって! 私はラクシエル師匠を尊敬しているから、『師匠』って呼んでるんですよ。私にとって師匠は……この世界で二番目に大切な人です!」


 え……だったら、誰が一番なのかと。バーンとアレクは期待に満ちた目で、彼女を見つめるが――


「クリス、また何を騒いでいるのよ!」


 遅れて登場したアイシャは、ジト目でクリスを見るが……彼女もカイエが用意した服に着替えており。

 華やかなピンク色のドレスを纏う少女は、まさに天使という感じで――


「ア、アイシャ様あああ!!!」


 クリスは鼻血を噴き出ながら、アイシャに抱きつこうとする。


「ちょっと、クリス……鼻血、鼻血! カイエさんに貰ったドレスが、汚れちゃうじゃない!」


 アイシャは涙目で抗議するが、その程度でクリスが止まる筈もなく。


「アイシャ様あああ!!! そんなことを言われても、私の情熱は止まりません!!!」


 突撃するクリスに――


「ゴメンね、クリス……アイシャが嫌がってるから」


 首の後ろに一撃を入れて、気絶させたのはエマだった。


「クリスって……アイシャの事になると、ホント見境ないよね」


 意識を失ったクリスを、エマは軽々と担ぎ上げて溜息をつく。しかし――


「クリス……情熱的な君も素敵だ!」


「ああ、兄さん……クリスは本当に、美しいな……」


 こんな醜態も気にならないのか、目に映っていないのか……バーンとアレクは妹が荷物のように扱う女騎士に、熱い眼差しを向ける。


「……ねえ、カイエ? うちの兄さんたちで、あんまり遊ばないでよね!」


 頬を膨らませて抗議するエマには――カイエも敵う筈がなかった。


「ああ、俺が悪かったよ……だけどさ、バーンに、アレク。この女は……まあ、良いか。おまえらの好きにしろよ」


 完全なる治癒(パーフェクトヒール)――無駄に完璧なカイエの失われた魔法(ロストマジック)によって、鼻血が奇麗に消えた状態で、クリスは目覚める。


「あれ、私は……あっ! アイシャ様あああ!」


「あ……」


 エマの腕を振り切って、クリスは再びアイシャの元に駆けて行こうとするが――


「おまえさあ……良い加減に、落ち着こうか?」


 カイエは抱き寄せて、至近距離から瞳を覗き込む。


「ラ、ラクシエル師匠、放してください! 私はアイシャ様のところに――」


「五月蠅いな……俺が二番目とか、おまえは生意気なんだよ」


 強引に抱きしめられて――


「な、何をするんですか、師匠……」


 クリスは激しく抵抗するが……圧倒的な力を持つ腕の中に抱かれていることを意識した瞬間――


「え、あの、その……師匠……」


 乙女の顔になったクリスに気づいて――


「「「「「「「ちょっと、カイエ(さん)……何をやってるの(よ)(ですの)(ですか)!!!」」」」」」」


 七人の少女(幼女)が、一斉に突っ込む。


「いや……だけどさ。エマが止めろって言ったから。これが一番確実な方法だって思ったんだよ」


 カイエはバツが悪そうに言うが――


「あのねえ、カイエ……」

「そんな言い訳が、通る筈が無いだろう?」

「そうよね……カイエだって、ホントは覚悟してるんじゃない?」

「そうだよね……私は、止めてって言っただけだから!」


 ローズたちに囲まれて、カイエは逃げ場を失い。

 さらに三人が追い打ちを掛ける。


「ロザリーちゃんが転移防壁(アンチテレポート)を多重展開したから、いくらカイエ様でも逃げられないかしら!」


「カイエ、君も……そろそろ、反省した方が良いと思うよ?」


「カイエさんは、私より……クリスの方が……」


 物理的と言うよりも、精神的に追い詰められたカイエは――白旗を上げるしかなかった。


「ああ……ホント、解ったから。とりあえず、ゆっくりメシでも食おうか?」


 すっかり反省した態度のカイエを、ローズたち四人が密着して拘束し。その両脇でロザリーとメリッサが目を光らせる。


 そして、アイシャはと言うと……


「あのカイエさんに、皆さん……本当に、良いんですか?」


 頬をピンク色に染めながら、カイエの膝の上という特等席をキープする事になった。


「「「「別に良い(わ)よ……ねえ、カイエ?」」」」


 アイシャ以上に密着する四人が、カイエよりも先に応える。


「「……」」


 しかし、ロザリーとメリッサは、少し不満そうだった。


(ラ、ラクシエル師匠……)


 クリスは、今までとは違う意味の熱い眼差しを、カイエに向けており……


((ク、クリス……君は本当に、奇麗だ……))


 乙女と化した彼女の美しさに、エマの二人の兄は見惚れていた。



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