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180 二人の兄の実力と苦労


「我が名はバーン・ローウェル! 栄光ある王国聖騎士団の第一中隊長だ!」


「そして俺は……アレク・ローウェル! 同じく王国聖騎士団の第三中隊長だぜ!」


 白い鎧を纏う銀色の髪の二人の聖騎士は――トルメイラの闘技場コロシアムで、その実力を存分に見せつけた。


 彼らの実力は具体的には、カイエたちを除けば、闘士《グラジエータ―》の五指に入るレベルであり。かつてエマにボコボコにされた禿頭の魔族ギルニルザ・フーデリクと良いライバルという感じだった。


 そんな訳で。見た目も派手で、丁度良い程度(・・・・・・)に強い二人は。闘技場コロシアムで注目を集めて、瞬く間に人気者になった――悪役ヒールとして。


「ど、どうして……俺たちが悪役なんだ?」


「そうだ! 俺も兄さんも、正々堂々と戦っているじゃないか!」


 愕然とする二人の肩を、エマがポンと叩いてニッコリ笑う。


「「エマ……」」


 兄たちは妹の優しさを噛みしめるが――


「だって、ここは魔族の街なんだから。魔族のヒーローを倒しちゃう兄さんたちが悪役なのは仕方ないよ」


「だが……エマたちは普通に人気があるじゃないか?」


「そうだぜ! おまえが闘技場コロシアムに立つと、大歓声が沸き上がるだろう?」

 まだ納得してないバーンとアレクに、


「それも仕方が無いんじゃないかな。魔族の人って、強い者に憧れるところがあるみたいけど……兄さんたちって、そこまで強くない(・・・・・・・・)からね!」


 あっけらかんとした笑みで――エマは無意識に二人の兄を攻撃した。


「俺たちが……強くないから……」


「そこまで言ってないよ! バーン兄さんだって、普通にそこそこ(・・・・・・・)は強いと思うよ。そうだなー……他の闘士《グラジエータ―》が頑張っても、ギリギリ勝てないくらいかな」


 遠慮なくズバズバ兄を評価する妹に、


「おい、エマ……バーン兄さんに向かって、何てことを……」


「あ、でもアレク兄さんは、もうちょっと鍛えた方が良いかな? 今のレベルだと、下手をするとギルニルザにも負けちゃうから」


 容赦なくアレクを叩き切ったエマは、愕然とする兄を気にも留めず。ちょうど通り掛かったギルニルザの方に視線を向けた。


「エ、エマの姐さん……お、俺は今日は何にもしてませんぜ!」


 禿頭の闘士《グラジエータ―》はギクリとして。冷や汗を掻きながら、居心地悪そうに視線を彷徨わせる。


 散々実力の違いを思い知らされた上に、十大氏族すら一目置くエマたちを恐れて……ギルニルザは、三下の舎弟のような態度を取るようになった。


「あ、別に文句を言う気は無いけど……そうだ、ギルニルザ! この二人は、私の兄さんだから! よろしく頼むね!」


「ゲッ! バーンとアレクが……姐さんの御兄弟なんですか!」


 ギルニルザはすでに二人と試合をしており――結果はバーンとアレクの勝利だったが、それなりに白熱した戦いであり。二人にも傷を負わせていた。


「そうとは知らず……姐さんの御兄弟に怪我をさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした!」


 ギルニルザはキレイに土下座するが、


「え? 試合なんだから、別に気にする必要なんて無いよ。これからも全力で戦ってくれた方が、兄さんたちの為にもなるからね」


 エマが普通の態度で応えるので、ほっと胸を撫で下ろす。


「そうだぜ……ギルニルザ! 次の試合では、俺が完勝してやるからな!」


「ああ……貴様に怪我を負わされるなど、ローウェル家の恥だ!」


 『下手をするとギルニルザにも負けちゃうからね』などとエマに言われたせいで――二人の兄は、禿頭の闘士《グラジエータ―》に激しいライバル心を燃やしていた。


「てめえら……そっちこそ、次は覚悟しておけよ!」


 ギルニルザの方も、エマの許しが出た事に安心したのか。かつてのような太々しい態度で、バーンとアレクを睨みつける。


「なかなか……面白い展開になって来たな」

「そうね、エマには悪いけど……ホント、ちょうど良い人選だったわね」

「……うーん、カイエ? どうしたの?」

「いや、バーンたちとギルニルザの話みたいだけど……まあ、良いんじゃないかな?」


 そんな彼らの傍らで――カイエたちは相変わらず、堂々と密着していた。


 他の闘士《グラジエータ―》も、すっかり慣れたもので。ピンク色の空間のために、控え室の一角にスペースを空けることが、すでに習慣になっていた。


「あー! みんな、ズルいよ! もう……兄さんたちとギルニルザの試合なんて、どうでも良いから! カイエ、私のことも構ってよ!」


 二人の兄を放置して、エマがカイエに突撃すると――すっかり白けた雰囲気になって、バーンたちは思わず、ギルニルザと目を見合わせる。


「まあ……てめえらも、苦労してるんだな」


 ぼそりと同情の言葉を掛けられると、


「……悪いが、もう何も言わないでくれ」


 バーンとアレクは、がくりと肩を落とした。



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