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176 再会の理由


 立ち話も何だからと、イルマはカイエたちを家の中に招き入れた。


 彼らが通された小じんまりとした居間には、ソファーがあったが、七人で座るほどのスペースは無く。ガゼルばぶつくさ言いながら、他の部屋から足りない分の椅子を持って来た。


「おまえは相変わらず、イルマの尻に敷かれてるんだな」


 揶揄からかうカイエに、


「カイエ、てめえ……喧嘩を売ってるのか?」


 ガゼルはドスを利かせて言うが、


「ガゼル、何をやっているの? カイエさんに失礼でしょ! 私たちは散々、カイエさんたちにお世話になっているんだから!」


 イルマに睨まれて、バツが悪そうな顔で黙る。


「カイエさん、ごめんなさい……ガゼルも、悪気は無いんです。そして……改めて、お礼を言わせてください。私たちを守ってくれて、本当にありがとうございます」


 彼女が深々と頭を下げるのには、勿論理由がある。


 レガルタを立ち去った後も、カイエはナイジェルや情報局を警戒して。不可視の(インビジブル)従者(サーバント)に、イルマたちを警護させていた。


「何だよ、気づいていたのか。でもさ、俺が勝手にやった事だし、全然気にしなくて良いから。こうやってガゼルで遊べれば、俺は満足だし」


 何食わぬ顔で言うカイエに、ガゼルは憮然とするが――再びイルマに睨まれて、何も文句は言えなかった。


「いいえ、カイエさん……あなたの気遣いのおかげで、私たちは何度も救われました」


 大陸南方に広大な版図を構えるチザンティン帝国の侯爵の遺産を相続した上に――『魔王の啓示』を受けた者として、イルマは人と魔族の両方から狙われている。


 だから、カイエが用意した警護役のおかげで、何度も危機を救われているのは事実だった。


「みなさん、大したおもてなしも出来ませんが。とっておきのお茶を入れますので、飲んでください」


 そして、イルマがカップに注いだのは――どす黒い色の異臭を放つ液体だった。


(う……これって、物凄い破壊力かしら!)


(ちょっと……これが、人族の飲み物なの?)


 初体験のロザリーとメリッサは動揺を隠せなかったが――


「「「「うん(ああ)……これこそ、イルマのお茶だ(ね)!」」」」


 ローズたちは、どうやって飲まずに済まそうと思いながら。何となく懐かしさを感じていた。


「ところで……そちらのお二人は?」


 イルマはロザリーとメリッサを横目に、質問する。


「ああ。レガルタを離れた後に、新しく仲間になったんだよ」


 カイエに視線で促されて――


「ロザリー・シャルロットですわ。イルマさん、以後お見知りおきを」


 ロザリーはこれまでの経験で学習したのか、完全に猫を被っていた。


「僕はメリッサ・メルヴィン……イルマさん、初めまして」


 ちなみにメリッサは、変化の指輪の魔力で人の姿をしている。

 メルヴィンの誇りだと言っていた角飾りも、今は外している――無論、メルヴィンの誇りを忘れた訳ではないが。もう形に拘る必要など無いと思っていた。


「おい、てめえは……上手く化けたつもりだろうが、魔族だろ?」


 不意のガゼルの発言に、みんなが注目する。

 野生の勘と言うか、彼の嗅覚が……メリッサの正体を見抜いたのだ。


「ガゼル! あなたは、初対面の人にいきなり何を言うのよ!」


 イルマが窘めるが――当人同士は、そんな事お構いなしで。


「へえ……ガゼルさん、だったよね? どうして君は、僕が魔族だって思ったんだい?」


 正体を見抜かれても一切動じることなく――むしろ興味津々という感じで、メリッサはガゼルを見据える。


「そりゃ、当然だろ……傲慢な上級魔族の臭いが、プンプンするぜ!」


 ガゼルにとって魔族は同族である以前に……主であるイルマを狙う敵であり、人族以上に警戒すべき相手だった。

 だからこそ、微かな違和感でも、メリッサが魔族であることに気づいたのだ。しかし――


「え、僕って……もしかして、変な匂いがするの?」


 ガゼルの言葉をそのまま受け取って……メリッサは涙目になる。


「いや、そんな事ないって……って言うか、メリッサ。完全におまえの勘違いだから」


 カイエが苦笑しながら、宥めようとするが――


「カイエ……てめえは、やっぱり唯の女好きだな? こんな間抜けな女を、仲間に加えるなんてな!」


 ガゼルは馬鹿にしたように言った瞬間……周りの女子全員から向けられた視線に戦慄を覚える。


((((ガゼル、うちのメリッサに……どういうつもりよ(だ)!))))


(ふん、大した力もない魔族風情が……ロザリーちゃんの後輩に、舐めた口を利くなんて許せないかしら!)


「ガゼル……お客様に失礼だって、何度も言わせないでね!」


 完全包囲されて絶体絶命のガゼルを――フォローしたのは、カイエだった。


「なあ、みんな……ガゼルを許してやれよ。こいつだって、大事な大事なイルマを守ろうって必死なだけだからさ」


 意地の悪い顔で言うカイエに……イルマの顔が真っ赤になり、ガゼルはあからさまに動揺する。


「て、てめえ、カイエ……俺はお嬢の従者として、当然のことをしただけだ! ふざけた事を抜かすんじゃねえよ!」


 二人の反応に――『へえー……そういう事なんだ!』と、イルマ本人とロザリー以外の女子たちはニマニマと笑みを浮かべる。


「て、てめえら……勘違いしてるんじゃねえぞ!」


「まあまあ……ガゼル、そんな事はどうでも良いからさ」


 自分で散々煽っておきながら……カイエは完全に他人事な感じで、


「そろそろ、俺たちが来た理由について、話をしようって思うんだけど?」


 憮然とするガゼルを放置すると――


「なあ、イルマ。おまえもガルナッシュ連邦国くらい知っているよな? 単刀直入に言うけどさ。おまえたち、ガルナッシュに亡命しないか?」


「え……」


 余りにも唐突なカイエの台詞に――イルマは唖然とするしかなかった。





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