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153 運営サイド


「それじゃ、メリッサの件はこれで良いとして――闘技場(コロシアム)を運営してる奴らとも、話をつける必要があるな」


 圧倒的な力を見せつけたカイエたちに対して、観客たちは歓声を上げるどころか、顔に恐怖心すら浮かべていた。


 主役である筈の闘士(グラジエータ―)第一位以下の強豪が惨敗した上に、一方的な蹂躙されるという全く盛り上がりに欠ける試合展開になったのだ。闘技場(コロシアム)の運営者としては、あまり歓迎したくない状況だろう。


「普段なら向こうから賞金を渡しに来るんだけど……おかしいな、どうしたんだろう?」


 メリッサは不思議そうな顔で、控え室の中を見回す。


 ギルニルザたちが治療のために搬送されたせいで、人気が少なくなった室内には――カイエたちを遠巻きに眺める闘士(グラジエータ―)が数人いるばかりで、運営サイドの姿は見当たらなかった。


「まあ……少しやり過ぎたからな。奴らも俺たちの処遇を決めかねているんだろ?」


「そんなところでしょうけど。へえー……カイエは少しだけって思ってるんだ?」


 意地悪く笑うアリスに、アハハ、仕方ないかもねとエマは苦笑する。


「ああ、大した問題じゃない。下手に扱いやすいと思われるよりマシだし。奴らが何か仕掛けて来るなら、手間が省けて助かるよ」


 しれっと応えるカイエに、『ホント、あんたらしいわね』とアリスはニヤリと笑う。


「暫く待つしかないようだな……みんな、お茶でも飲まないか?」


 そう言ってエストは、収納庫ストレージからティーポットと人数分のカップを取り出すと、魔法で湯を沸かして紅茶を入れる。


「ねえ、エスト。クッキーは無いの?」


「勿論、用意しているよ」


「うふふ……ねえ、カイエ。あーん……」


「あ……ローズ、ズルいぞ! 私だって……」


 まるで自宅のように寛ぎ始めた五人に――メリッサは付いて行けずに、目をパチクリさせる。


(フン……おまえなんかに、カイエ様たちの行動が理解できる筈がないのよ!)


 そんなメリッサを眺めて、ロザリーは何故かドヤ顔だった。


 そして、みんなが二杯目の紅茶を飲み終える頃になって――ようやく控え室の扉が開いて、礼服姿の魔族が、警備兵たちを引き連れて入って来た。


「先ほどの試合は、実に見事なものでした。闘技場(コロシアム)の新たな英雄の誕生を、私は歓迎しますよ」


 金糸で縁取りした上着と、青のアスコットタイ――痩せた銀縁眼鏡の魔族は、神経質そうな顔に薄笑いを浮かべる。


「私はキルケス・ロズニア……当闘技場(コロシアム)の運営責任者にて、トルメイラを統治する第二氏族ロズニアに名を連ねる者です」


 丁寧な口調とは裏腹に、右手を差し出すキルケスの態度は威圧的だった。


「キルケス殿……さすがに、その態度は非礼ではないか?」


 メリッサは憮然とした顔で、二人の間に割って入ろうとするが――


「おまえさ……俺たちが飼い犬になったとか、勘違いしてないよな?」


 カイエは鼻で笑うと、漆黒の瞳でキルケスを見据える。

 魔族の考え方を知ることが、ガルナッシュ連邦国に来た目的ではあるが――だからと言って、彼らの理屈に従うつもりなど無かった。


「なるほど、そういう事ですか……大変失礼しました」


 キルケスは突然真顔になって、深々と頭を下げる。


闘技場(コロシアム)において強者こそ正義――カイエ殿、貴方に対する非礼をお詫びしましょう」


 主の態度の豹変ぶりに、警備兵たちは驚いて目を見開くが、


「あのさあ……おまえのやり方は、回りくどくてウザいんだよ。俺がどんな反応をするかなんて、初めから解っていたんだろ?」


 詰まらなそうな顔のカイエに、キルケスは苦笑する。


「ええ……確かに、貴方の反応は予想していました。しかし、権力に屈するタイプであれば与し易いと思いまして、試させて頂いた次第です。では、改めまして――新たに闘士グラジエータのトップに立った貴方たちと、今後のことについて、じっくりと話をしたいと思っているのですが……付き合って頂けますか?」


 抜け抜けと言うキルケスの誘いを――カイエは断らなかった。


※ ※ ※ ※


 闘技場(コロシアム)の責任者であるキルケスの部屋に招かれて――豪華な装飾がされた天上の高い部屋で、カイエは両側にローズとエストを侍らせる形でソファに身をもたげる。


 その左右にアリスとエマが、さらに外側にはロザリーがチョコンと腰を下ろす。

 成り行きでついて来たメリッサだけは……一人疎外感を味わっていた。


「ローズ殿に、エスト殿。それに、アリス殿に、エマ殿ですか……貴方たちが、あの憎むべき勇者パーティーの名を敢えて使う皮肉は理解しているつもりですが。しかし、カイエという名前は……」


 試合に出るために登録したカイエたちの名前に、キルケスは興味を懐いていた。


「ああ、そうだ。確か千年以上も昔に、神と魔神に喧嘩を売った者の名前ですよね? つまり……何者にも従わないという意思表示ですか?」


「まあ、そんなところだな」


 自分の正体を言い当てたキルケスに――カイエは面白がるように笑う。

 

「話が早くて助かるよ。俺たちは、ガルナッシュの理屈に付き合う気は無い。そういう話なら、何を言っても無駄だからな?」


「ええ、解っています……ですから、その上で交渉をしているのですよ。カイエ殿……貴方たちは闘技場(コロシアム)の英雄になって、大金を稼ぎませんか?」


「却下だな――俺は金に興味無いから」


「あのねえ、カイエ……いつ、どんなときにお金が必要になるか解らないから。貰えるものは貰いなさいって、私は何度も言ってるわよね?」


 冷たい目をするアリスに――カイエは揶揄からかうように笑う。


「ああ、解ってるって……だから、後の交渉はアリスに任せるよ」


 ()()興味ないけど――仲間たちまで興味がないとは言っていないと笑うカイエに……キルケスは我が意を得たりと、強かに笑う。


「ああ……そういう事ですか。解りました、アリス殿……互いが利益を得るには、どういう方法が望ましいか……我々で交渉をするとしますか」


 そして――アリスとキルケスが取り決めた内容は、以下の三つだ。


 一つ目は、カイエたちが互いに戦う試合は一切行わないという事――これは『仲間うちの戦いを見世物にするつもりはない』というカイエの意図を尊重するものだった。


「この条件を飲まないなら……話はここで終わりよ」


 強気な交渉をするアリスに、


「なるほど、解りました……その代わりとして、アリス殿は我々に魅力的な条件を提示して頂けるのですよね?」


「ええ、当然よ……」


 そしてアリスが出した条件は――相手が第三者ならば、例え何者であろうと、大多数対一という形式でも、一切拒まないという内容だった。


「試合を盛り上げたいなら……下手に人数を集めるよりも、強力な怪物モンスターを用意する方が効果的だと思うけど。選定はそっちに任せるから……ねえ、みんな、それで構わないわよね?」


 アリスの言葉に――カイエたちは笑みで応じる。


 そして三つ目の条件は……試合の頻度に関することだった。


「私たちには他にもやることがあるし。あんまり頻繁にやっても、試合の価値を下げることになるから……私たちの試合は、それぞれ週一回までという条件でどう?」


「そうですね……解りました。今伺った三つの条件を飲みましょう。それでは――」


 キルケスが手を叩くと、運営サイドの魔族たちが、大きな革袋を持って部屋に入って来た。


 そして袋を開けてテーブルに並べられたのは――大量の金貨で、


「今回の試合の賞金と――契約に対する手付金ですよ。貴方たちの今後の活躍に……我らロズニアは期待していますよ」


「まあ、勝手に期待するのは構わないけどさ――」


 カイエは面白がるように笑う。


「おまえの期待に応えようなんて、俺は一切思ってないからな」


「うん……そうよね。カイエは、自分の思うようにやるだけだから……」


「ああ……申し訳ないが、キルケス殿。うちのカイエは……意地が悪いからな」


 ローズとエストに左右からギュッと抱きつかれながら――訳が解らないと顔を顰めるキルケスに、カイエは苦笑する。


「という事で……キルケス。おまえも、自分の好きになようにやれよ」


「なるほど……そういう事ですか。ですが……十大氏族(クラン)は貴方たちを放置など、決してしませんよ」


 カイエの意図を理解した上で――キルケスはしたたかに笑った。



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