142 ダンジョンマスターたちの邂逅
ロザリーがアルジャルスに会いたいと言った理由は――
『光の神の化身と同じ名前を騙るダンジョンマスターですって……生意気ですわね。このロザリーちゃんが支配してあげるから、覚悟しておきない!』
などという邪なもので。『ギャロウグラスの三重地下迷宮』という実質的には最難関級のダンジョンマスターである自分の方が強い筈だと、余裕綽々だった訳だが――
「……うむ? そやつはダンジョンマスターの端くれには違いないようだが?」
アルペリオ大迷宮を三度訪れたカイエたちを、アルジャルスは人の姿となって、地下迷宮の外まで出て来て出迎えた。
また最下層への入口を探し回ることを覚悟していたカイエは、拍子抜けする。
「おまえなあ……これまでと、態度が違い過ぎないか?」
「何を言っておるのだカイエ……我は相手に相応しい出迎え方を、選択したのだ」
「久しぶりね、アルジャルス……会いたかったわ!」
「本当に……私だって、そう思っているんだ」
ローズとエストの心からの言葉に――白い髪の女の姿で、アルジャルスはデレる。
「そんな恥ずかしい台詞を……勇者と賢者が言うものではない!」
「あら? 私だってアルジャルスに……ずっと会いたいって、思っていたんだから」
「うん、そうだよね……なんか、ただいまって感じだよ」
アリスとエマにトドメを刺されて――神聖竜の威厳も形無しだった。
「……まあ、良いけどさ。今日はとりあえず……人外の情報網に新しく加わったロザリーが、おまえに直接会いたいって言うから連れて来た」
ロザリーの思惑を見透かしているカイエは、意地悪く笑うが――当人には、そんな言葉など、もはや聞こえていない。
「……う、嘘なのよ……光の神の化身が……ダンジョンマスターだなんて……」
ロザリーの呟きに――ああ、そんなことかと、アルジャルスは詰まらなそうな顔をする。
「我はかつてダンジョンマスターを喰らった……それだけの話だ。それよりも、貴様は何を驚いておるのだ? 真に驚愕すべきは……我の地下迷宮を見てからであろう?」
そしてアルジャルスは、彼女の住処である隔離された真の最下層へと、カイエたちを招き入れる。
そこに現れたたのは――数ヶ月前、ローズたちが戦ったラスボスクラスの怪物を、さらに強化した凶悪な面子だった。
「おまえたちも……それなりに強くなったからな。次に来たときに退屈せぬように、少し頑張ったのだ!」
照れ臭そうにアルジャルスは言うが――現れた怪物の全てがラスボスどころか、他の最難関級なら、攻略後の隠し階層の裏ボスクラスで……魔王を倒した時点ならローズたち全員で掛かっても、瞬殺されるレベルだった。
「おまえなあ……さすがに、やり過ぎなんだよ。俺たち以外の誰が、こんな地下迷宮を攻略できるって言うんだ?」
「どうせ、他に辿り着ける者などおらぬわ。だから、全く問題などない!」
豪語するアルジャルスにカイエは呆れる傍らで――ロザリーは完全に怯えていた。
ギャロウグラスの三重地下迷宮で、カイエに逆襲するために用意していたラスボス究極の創造と破壊の化身すら……ここの怪物に比べられてしまえばザコというレベルなのだ。
「あの、その……大変失礼致しましたわ、光の神の化身アルジャルス様……いえ、最強のダンジョンマスター閣下! あたしも、一応ダンジョンマスターですが……主な仕事は、カイエ様の下僕ですの。だから、ロザリーちゃんに手を出せばカイエ様が……」
ロザリーは邪悪な目を隠して――カイエの背中に隠れる。
強者に対して虚勢を張るほど、ロザリーは愚かではなく……その代わりにカイエを盾にして、虎の威を借りるつもりなのだ。
「おい、ロザリー……おまえ、アルジャルスに喧嘩を売るとか、良い度胸をしてるよな?」
カイエは意地の悪く笑うと、瞬間移動でロザリーから離れる。
「な、何を言ってるんですの、カイエ様? あたしは喧嘩なんて……そうですわ! カイエ様のためなら、たとえ、この身が滅びようとも……」
「おい、黙れ……そんな台詞、俺が信じると思うか?」
ロザリーの茶番に、カイエはうんざりした顔をするが――
「ロザリー、頑張って! カイエなら、きっと助けてくれるよ!」
「まあ……カイエだからね。最終的には、どうにかするんじゃない?」
エマが熱く、アリスが面倒臭そうに応援する中、
「カイエ……こやつは、いったい何を考えておるのだ? 何と言うべきか……ある意味では、興味深くはあるがな!」
アルジャルスまで、こんなことを言い始めたものだから。カイエは頬を引きつらせて、ロザリーを見据える。
「な……なんですの? カ、カイエ様。私は何も……」
目を逸らすロザリーに、
「……あのさあ、ロザリー? してやったとか、おまえは思ってるだろうけど……そんなに俺は甘くないって、解ってるよな?」
冷徹な光を放つ漆黒の瞳に見据えられて――まるで自分が小動物になったかのように、ロザリーは人生最大の危機感を懐いていた。




