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141 次の行き先

140話を書き直しました。大筋は変わってないと思いますが……結構加筆してます。

設定的な部分に興味ある方は、読んでみてください。


「それで、カイエ……手始めに、何をするつもりなの?」


 アリスは背中に密着しながら、カイエの耳元に囁く。


「そうだな。まず最初は……ガルナッシュ連邦国に行ってみようと思ってる」


「「……え、ガルナッシュ?」」


 反射的に叫んだのはエストとエマで――ローズとアリスは『カイエなんだから、このくらい平気で言うわよね』と余裕だった。


「ああ……俺は魔族の国に行って、大戦後の奴らの方向性を確かめたいんだ」


 第六次魔王討伐戦争によって、魔王を輩出したギルートリア帝国が滅亡したことにより――世界に存在する魔族の国は、現在三つとなった。


 もっとも大半の魔族は、魔王の元に集うような場合でなければ『国』ではなく、数千人から数万人の『氏族クラン』単位で社会を作るので、そもそも魔族の国というものは少ない。


 そんな中で、ガルナッシュ連邦国は百以上の『氏族クラン』が集まった大国であり、鎖国を貫き、第六次魔王討伐戦争にも、少なくとも表向きは参戦していない。


「実際のところは……ガルナッシュからギルートリアに、大量の物資と怪物モンスターの提供という形で支援がされたようだが。情報源は旧ギルートリアの魔族だけで、ガルナッシュは何の声明も上げていないからな」


 エストが捕捉する――過去五回の魔王討伐戦争においても、魔王を輩出した国は全て滅んでおり……ガルナッシュはその経験から、魔王の元に集わない氏族が創った国なのだ。


 しかし、魔王が勝利する可能性も当然あった訳であり、ガルナッシュも内政的に魔王の威光を利用したい。そうして出した結論が、非公式の支援だと言われている。


「まあ……その辺りの話を含めて。ガルナッシュの魔族たちが、現在の状況をどう考えているか。人に対する考え方とか、色々知りたいんだよ。魔族全体で言えば、ガルナッシュと同じスタンスの氏族クランも多いからさ……サンプルとしては、悪く無いんじゃないか?」


「なるほどな。しかし、魔族の国……特にガルナッシュに私たちが立ち入るのは難しいと思う。人族を完全に拒絶している国だからな」


「何言ってんだよ、エスト……俺とおまえがいるんだからさ、魔族に化けるなんて簡単だよな? あとは、勇者パーティーの装備さえ収納庫ストレージにしまっておけば、何とかなるだろう」


「いや、街中なら問題ないだろうが。野外を丸腰で歩く訳にもいかないだろう?」


 いつも全力のローズやエマが、本来の装備を使わず『手を抜く』など、納得しないと思うが――


「人だとバレて、魔族と殺し合いになるくらいなら……ローズとエマでって、我慢できるだろう?」


「「うん……もちろん(だ)よ!」」


 アッサリと篭絡された二人に――エストは釈然としないものを感じるが。


「そういうことなら。私も『境界なき(ボーダレス)商会(トレーダーズ)』に参加するために、ギルドマスターを辞めないとね」


 アリスは意味深な笑みを浮かべて――カイエにしな垂れかかる。


「私の全てを……カイエは欲しいのよね? だったら、ギルドマスターと兼業なんて無理よ。今回の旅行が終わったら、ギルドに戻るつもりだったから引き受けたけど。もうマスタ―なんてやってる暇はないから……カイエのために断りに行かないと。

 だから、ガルナッシュに行く前に、私がギルドマスターを務める街――ラケーシュにも寄らせて貰うわよ?」


 当然でしょという感じのアリスに、


「私も王立大学の学部長の件を断る必要があるな。カイエ、王都にも付き合ってくれるか?」


 エストもそう言って――顔を真っ赤にしながら、カイエに色々なところを密着させる。


 史上最強の魔術士と言われ、『賢者』の称号を持つ彼女は、王立大学の魔術学部の責任者のポストに就く予定だった。自分の研究を続けながら、後人の育成をするのも悪くは無いが――カイエの隣にいることと、比べるまでもない。


「それじゃ……ラケーシュと王都に寄ってから、ガルナッシュに出発するか」


 カイエは四人の抱擁から、ゆっくりと身を放すと。外の空気でも吸おうかと、黒鉄の塔の屋上へと続く階段に向かうが――その前に、ロザリーが立ち塞がる。


「どうしたんだよ、ロザリー……何かあったのか?」


 ロザリーは真っ直ぐにカイエを見つめて、頬を膨らませた。


「ロザリーちゃんは……アルジャルス様に会うために、ここに来た筈ですわね? カイエ様は、忘れちゃったんですの?」


「ああ、そうだった……そんな約束を、おまえとしたよな」


 爽やかに笑うカイエに――ロザリーは恐怖を覚える。

 こんな風に笑うとき、カイエが何か企んでいるのは学習済みだった。


「カ、カイエ様……もう、良いですの。ロザリーちゃんのことなんて、気にしないでくださいまし!」


「何だよ……約束は約束だからな。アルジャルスには、必ず会わせてやるよ」


 ロザリーは侍女ポジションとして、すっかり仲間の一員だったが――だからと言ってカイエは、ロザリーを全面的に信用している訳ではなかった。


(いや、ロザリーは……そういう奴だろ? 無条件に信じるとか……そんなことをしたら、ロザリーの存在を否定するのと同じだからな)


 ダンジョンマスターであるロザリーは――自分の利害のために、カイエたちと行動を共にしているのだ。

 今となっては感情的な繋がりがゼロとまでは言わないが、彼女の目的は自分の地下迷宮(ダンジョン)の強化と、あわよくばカイエに対する『復讐』――そのために実力的に上位者であるカイエたちに付き従って、情報と技術を手に入れようとしている。


(まあ……役に立つから問題ないし。こいつに復讐されるとか、あり得ないからな)


 揶揄からかうような視線の先で――ロザリーは嬉しそうに微笑む。


「その通りですの……カイエ様はロザリーちゃんのことを、ちゃんと解って頂けていますのね!」


 結局のところ――ロザリーを支配できる者など、この世界に存在しない。


(こんな面倒臭い奴なんて……誰が支配するんだよ?)


 カイエは内心で呟くが――


(私を支配できるのは……カイエ様くらいですわ!)


 そんなロザリーの想いに気づいているのは、ロザリー自身と――


「おい、ロザリー。俺は屋上に行くから……おまえも付き合えよ?」


 彼女という存在を理解できるカイエだけだった。





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