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140/345

140 宣言

2/1 18:00 すみません、修正と言いますか、加筆と言いますか……全体的に直しました。


 翌日、一日掛けてゼグランの住処の改装を終えると――カイエたち六人は魔族のアジトを後にして、黒鉄の塔のダイニングキッチンに集まった。


 夕食は、いつものエストの料理に加えて、今日はカイエも一品、ローズとエマもデザート作りを手伝った。


 腹ペコのエマの無言のリクエストもあって、まずは食事を堪能する。

 そして食後のお茶を、アリスとカイエはワインを飲みながら――まったりとした雰囲気の中で、カイエは語り出した。


「魔神である俺の究極の目的――て言うか存在意義は、神の化身や魔神が復活したときに奴らを仕留めることだって思ってる。

 ああ……おまえたちは『そんなことをしなくても、俺は俺だ』って言ってくれるだろうけどさ。俺自身が、そうしたいと思っているんだよ」


 カイエは、ローズたちを順に見つめる。

 いつものように茶化す風でもなく、漆黒の瞳に込めらるのは揺るぎない意志――それを四人はしっかりと受け止めて、優しく微笑みながら頷いた。


「だけど、そんないつ復活するか解らない奴らの事を考えるよりも先に。目の前の問題を解決するべきだと、俺は思っている。

 個々の(いさか)いは別にして、俺は人と魔族が種族として殺し合う理由なんて無いと思ってる。だけど現実問題として、二つの種族は千年以上も争い続けている……俺はこの争いを終わらせたいんだ」


 カイエが眠りに就く前の時代から――人と魔族の殺し合いは続いている。

 殺し合うように仕組んだのは神の化身と魔神だが、彼らが地上から姿を消した後も、争いは終わっていない。


「今は魔王討伐戦争が終わった直後だし、今回の戦争で家族や仲間を殺された奴らに『魔族は敵じゃない』何て言ったら、猛反発するだろうけどな……ああ、勿論俺も、そんな奇麗事を言う気なんて無い。ゼグランたちにも言ったけどさ、そいつらが復讐したいのは当然だと思うよ」


 問題なのは――戦争と関わらなかった奴らまで、相手を敵と決めつけている事だ。


 数百年周期で訪れる魔王の出現。それは魔神たちが残した負の遺産であり、世界に蓄積された闇の魔力が魔族に宿り、魔王が誕生する。

 魔王の存在によって、魔族たちは『人は滅ぼすべき相手だ』という魔神の意思を再認識するのだ。


 光の神の化身であるアルジャルスは、魔王に対抗するために、光の魔力が宿る者――勇者が誕生する仕組みを作った。神の化身である己が直接干渉することで、世界を壊してしまわないように。


 しかし、勇者の存在が『魔王=魔族という悪の力を滅ぼす者』という歪んだ形で人々に浸透してしまっているのも事実だった。


 アウグスビーナで目覚めてからの半年間で――カイエはローズたちと様々な国や地域を巡ることで、それを肌で感じた。


 第六次魔王討伐戦争の主戦場とならなかった場所でも、多くの人々が魔族を敵か、忌み嫌うべき存在と認識している。魔族を拒絶する国は多いし、受け入れる国も、大抵は奴隷か貧民層と相場が決まっているのだ。


 そして魔族の中には、いまだ戦いを止めようとしない者も数多く存在するし、世界に点在する魔族の『氏族クラン』は、人と決して関わらないように生活している。


「第六次魔王討伐戦争に直接参加したのは、全人口の一パーセントにも満たないし、魔族だって同じようなものだ。後方支援を加えれば数倍にはなるけど……相手の種族全部を敵だって決めつけるような数じゃないよな」


「うん……私もカイエの言いたい事は解るよ」


 ローズはカイエを見つめて、ゆっくりと言葉を連ねる。


「理屈で考える前に、魔族は敵だって決めつける人は多いし。私が出会った魔族にも、人を殺すのが当然だと思っている者が沢山いたわ。私だって、そんなことは間違ってると思うよ」


 魔王との戦いで世界中を巡ってきたローズは――戦場以外の場所でも、魔族というだけで敵視する人々を大勢見て来た。

 そして同様に、人というだけで襲い掛かって来る魔族たちを、何度も撃退して来たのだ。


「結局のところさ、千年以上に渡って繰り返し行われて来た戦いの歴史が、相手を敵だと刷り込みをしてるだけで……いや、それを利用している奴らも、大勢いるって事だな」


「そうだな……本当に愚かしいことだが。聖王国でも他の国でも、王や貴族の多くが魔族を敵だと公言している」


 エストは腕を組んで、考え込んでいた。


 為政者である彼らが『敵』を明確に示すのは、正義のためではなく――不満の捌け口を作り、領民を纏めるという政治的な意味が多分にあるのだが。それを一般の人々に理解しろと言うのも、酷な話ではあった。魔族にしたところで、内情は似たようなものだろう。


「私たち勇者パーティーも魔王も、存在自体が政治的に利用されてる訳ね」


 アリスが不満そうな顔で口を挟む。


「ローズが倒した魔王は、世界を征服しようとしてたけど……それも刷り込みだとしたら、そもそも勇者と魔王が戦う理由だって、本当は無いのかも知れないわね。あ……ごめんね、ローズ。あんたのやった事を、否定する気なんて無いから」


 失言だったと、アリスは申し訳なさそうに言うが――


「そんなこと、私だって解っているわよ。アリスは利用しようとした相手に文句を言いたいだけでしょ? でも、魔王と戦う理由が無いのなら……その方が良いに決まっているわ。私はイルマと、絶対に戦いたくないもの」


 『魔王の啓示』を受けたイルマは魔王となることを望んでおらず、カイエとナイジェルの取引によって、今は他の魔族から干渉を受けていない筈だが――ゼグランたちを扇動した者たちは、イルマの存在に気づいているのだ。


 誰かに利用されていたとしても、それが刷り込みであったとしても、少なくともローズが倒した魔王は、自ら戦うことを望んでいた。

 だから、ローズは自分のしたことを一切後悔する気は無いが――


 もしイルマ自身が、何らかの理由で人と戦うという選択をしたら……


「そんな事にならないためにも……カイエは、みんなの考えを変えたいんだよね?」


 エマは全幅の信頼と親愛を込めて――もう答えは解っているけどねと、カイエを見つめる。

 ローズも、エストも、アリスも……想いは同じで、ただカイエの言葉で聞きたくて、じっと待っていた。


「ああ、当たり前だろう」


 カイエは四人の想いを全部受け止めて――不敵に笑った。


「俺は世界の奴らの考えを変えてみせる。だけど、それを成し遂げるためには、おまえたちの力が必要だ。ローズ、エスト、アリス、エマ……おまえたちの全てを俺にくれ」


「うん……私の全ては、カイエのものだから」

「私は……カイエと一緒なら、何でもできると思っているよ」

「カイエ……あんたにしては、上出来の答えじゃない」

「そうだね……私の力くらい、幾らでも使ってよ」


 四人は抱きつきながら――カイエと想いを一つにする。


「でも、みんな……他の人の考え方を変えるって、物凄く大変な事だと思うんだ」


 カイエの胸に顔を埋めながら……言葉とは裏腹に、エマは幸せそうな顔をする。


「だって、世界中の沢山の人たちが……反対するよね。だけど、それでも……やるんだよね?」


「そうよね……冷静に考えれば。私たちの力だけじゃ、世界を変えるなんて無理じゃない?」


 アリスは悪戯っぽい笑みを浮かべて――カイエの耳を噛む。


「何だよ……エマもアリスも、解ってるじゃないか」


 カイエは楽しそうに笑った。


「力づくで解決できるなら、大抵の事は何とかなるけど。世界中の考え方を変えるのは、力だけじゃ無理だから……そのために俺は、組織を立ち上げる」


「組織なんて……カイエには一番似合わないと思うな」


 エストが身体を密着させて、恥ずかしそうに言う。


「うん、それは私も思ったけど……カイエは目的のためなら、似合わなくてもやるわよね?」


 ローズは腕に絡みつくようにして、上目遣いにカイエを見つめると――唇を重ねた。


「……ああ、やってやるさ。他の奴らに協力させるには、俺たちの立ち位置を明確に示す必要がある。だから、俺の考え方を解りやすく示した名前を、組織の名前にしようと思う」


 そんな彼女たちを受け止めながら――カイエは宣言する。


「『境界なき(ボーダレス)商会(トレーダーズ)』――人にも魔族にも、どの国にも宗教組織にも属さないって意味だよ」


「でも……『商会』って変じゃない? 商売をするための組織じゃないのよね?」


 アリスの疑問にも、したり顔で応える。


「いや、商売というか……取引はするよ。無償の援助なんて、胡散臭いだけだからな。受けたメリットに対して、正当な対価を要求する――金で払えとは言わないから。

 その分働くとか、情報を持ってくるとか……俺たちの目的を果たすために、役に立てって事だよ」


 迷いのない言葉に――『ああ、やっぱり有償なのね』と四人は妙に納得した。


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