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139 本当の覚悟


 さすがにアイシャは、そろそろ帰らせるしかないと――カイエたちは彼女をシルベーヌ子爵領に送った後、辺境にあるゼグランたちのアジトに向かった。


 森林地帯で彼らを無力化した時点で、カイエはゼグランたちのアジトまで行き、転移先として登録マーキングしておいたのだ。


「……ということで、ここがゼグランたちのアジトだけど?」


 突然出現したカイエたち六人の姿に――魔族たちは一瞬、騒然となるが……


「魔神様が……混沌の魔神様が、お出ましになられたぞ!!!」


 次の瞬間――彼らはカイエに平伏した。


「あのさあ……こういうの、ゼグランに止めろって言った筈だけど?」


 バツが悪そうな顔をするカイエに――ローズたち四人は、微笑ましいモノを見るような笑みを浮かべて……このところ出番のなかったロザリーは、誇らしげに胸を張るのだった。


※ ※ ※ ※


「ラクシエル閣下……よくぞ、我らが本部にお来しくださいました!」


 歓喜の大声を上げるゼグランに対して、


「はい……ラクシエル閣下。私も嬉しく思っております」


 副官であるグレミオは、至極冷静に告げる。

 彼にとってカイエとは――絶対的な強者ではあったが、だからと言って、主君であるゼグラン以上の敬意を払うべき相手だと、認めた訳ではなかった。


「なあ、グレミオ……おまえみたいな奴、俺は嫌いじゃないよ。俺のことなんて無視して、全然構わないからな」


 グレミオに冷たい視線を向けられても――カイエは別に気にする様子も無く、むしろ機嫌が良さそうに、笑みを浮かべる。


「まあ……とりあえず、もう少し体裁を整えておこうか?」

 

 ゼグランたちのアジトは――魔法で簡素な建物を造っただけの場所で、錬成で造られた建物の窓は、間に合わせの植物の葉で覆われていた。


 水についても、水源の確保はできているが……ただそれだけだ。

 つまりは、生きるための最低限の設備しか整えられてはいなかった。


「カイエ……これって、物凄く問題よね?」


 勇者であるローズの指摘に――ゼグランは戸惑う。


「勇者殿は……何が問題だと言われるのか? 我ら魔族にとっては、何一つ問題など……」


「あのねえ……ゼグラン。少しだけ、黙って貰える?」


 そう言ったのはアリスで、意地の悪い笑みを浮かべる。


「うちのカイエの……配下になるって言うなら。こんな見っともない場所に、住んでるんじゃないわよ――さあ、エスト……徹底的に、やって良いわよ!」


「ああ、そうだな……再構築リコンストラクト!」


 エストが魔法を発動すると――魔族たちの建物は一変する。

 ただ開いただけの窓に鎧戸が付けられ、入り口には扉が造られた……勿論、それだけではなく。


「風呂に入るときは……魔石に魔力を注けば、水がお湯になる。料理がしたいときも、加熱器コンロに魔力を注ぐだけで良い」


 エストが魔法で組み立てた様々な魔道具に、魔族たちは『おおお……!!!』と感嘆の声を上げるが、エストにとっては別に『普通』のことをやっただけだ。


「とりあえず……このくらいで、良いよな? あとは、おまえの住処を居城と呼べるくらいには改築しようって思っているけど?」


「いえ……ラクシエル閣下、もう十分です。我々は全て、閣下のために命を懸ける所存。魔神である閣下が我々のために時間を使うなど、勿体なく思います」


 平伏するゼグランと――冷ややかな視線を向けるグレミオ。

 どっちも面白い奴だと……カイエは思う。


「あのさ……もう一度言っておくから、絶対に忘れるなよ……俺は服従とか、そんな詰まらないものを求めたりはしないからな」


 カイエの漆黒の瞳は、魔族たちを等しく見つめて――


「俺には半分、魔族の血が流れてるけど……だからって、人族がどうこうとか、言うつもりは無い。

 おまえたちが人族に復讐したい気持ちも、否定する気は無いから気にするなよ……だけどさ、人族とか魔族とか、そんな括りで見ることに、何か意味はあるのか?

 俺にも殺したい奴はいるけど……そいつが人族か魔族かなんて関係ない。唯、俺が殺したいと思うだけだからな!」


 カイエの宣言に――魔族たちは、喝采を上げた。


※ ※ ※ ※


(……だからって。全部解決したとか、俺は思わないけどな?)


 魔族のアジトで夜を迎えて――カイエは一人、闇の中を歩く。

 昼間は散々、魔族たちを煽ったが……それが正解だと言い切れるほどの自信は無かった。


(魔族の連中が、人を殺したいって思うのは……半分以上は刷り込みだから。それが悪いとか言っても、理解するのは難しいだろうな)


 真夜中の森の中で――カイエは思う。

 人と魔族が争う意味なんて……本当は無い筈なのに。


 それでも彼らは――己の命を懸けてまで、互いに殺し合おうとする。

 それが第三者に仕組まれたことだと……冷静に受け止める余裕なんて、彼らには無いんだと理解してるが……


「カイエはね……いつも頑張ってるけど。理不尽な力と戦わなきゃいけない苦しさは……私も解っているからね!」


 月明かりの元――赤い髪の少女が、じっとカイエを見つめる。


「……だけどさ? 俺は魔神だから……魔神としての責任を果たす必要があるんだよ」


「ああ……そうだな。カイエには責任がある。だけど……カイエが一人だけで、全部を背負う理由なんて無いんだ」


 金髪碧眼の少女は――遠慮がちに、彼の腕に頬を寄せる。


「あのねえ……カイエのくせに、生意気なのよ? あんた一人で、世界を背負える筈なんてないんだから――私たちにも、頼りなさいよ!」


 黒髪の少女は……そう言って、カイエの首筋を噛む。


「あのね……私は、みんなみたいに上手く言えないけど……みんなのことが、カイエが好きな気持ちは、誰にも負けないから! だから……お願いだから、私のことも頼ってよ……」


 銀髪の少女が――胸にしがみついて泣き崩れる姿に、カイエは……


「えーと……悪い。こういうの、上手く言えないんだけどさ……みんな、ありかどう。それと……俺だって、一人だなんて思ってないから。おまえたちがいるから……俺は俺で居られるって、解ってるよ」


 漆黒の瞳は――月の光を見据えて、力強く宣言する。


「なあ……みんな。俺はやりたい事ができたから……聞いてくれよ。いや、そうじゃない……俺のやりたいことを成し遂げるために、みんな協力してくれ!」


「「「「うん(ああ)……当然でしょ(だろ)!!!」」」」


 勇者パ―ティーの四人は、この日――世界を救う以上の覚悟を決めた。



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