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119 親バカ


 エリザベス・ローウェルは確かに末っ子に甘々の親馬鹿だったが――決して甘いだけの存在ではないと、この日カイエたちは知ることになる。


 結局グズグズに終わったローウェル一家の再会シーンの後。家族水入らずの時間くらいは必要だろうと、カイエたちはエマといったん別れて、グランバルトの街中で昼食を取ることにした。


 夕食はエリザベスに招待されており、そこでエマと合流することになっている。


「おまえたちは、エマの両親に会ったことがあるって言ってたけどさ……昔から、あんな感じなのか?」


 ランチプレートをフォークで突きながら、カイエが苦笑しながら問い掛ける。


「そうね……私が最初に会ったのは四年くらい前だけど、普段はあんな感じよ。でも、戦場では全く違って、エマにも厳しかったわよ」


 勇者パーティーの結成当初に、アリスが初めて会ったエマの両親は、さっきと変わらない親馬鹿丸出しという感じだった。

 しかし、聖騎士団と同じ作戦に参加したときの印象は真逆で、戦場での彼らは甘さなど一切見せない厳格な人物で、エマに対してもビシバシやっていた。


「なるほどね……単なる親馬鹿って訳じゃないんだな」


「ええ。だから、エマは魔王との戦いが終わった後に、ご両親の聖騎士団に入るって言ってけど。私は厳しい彼らに鍛えられるのも悪く無いって思っていたのよ。あの子は、性格的に甘いところがあったからね」


 しかし、それもカイエと出会う前の話で――アルジャルスの迷宮や、カイエとの模擬戦で鍛えられた今のエマには、以前のような甘さは無いとアリスは思っている。


「エリザベスさんって、歴代でも最強の聖騎士だって評判なんだけど。今ならエマの方が絶対に強いわよ」


 戦場でのエリザベスの戦いぶりを、ローズは間近で見たことがあった。彼女の個人的な戦闘能力は下手をすればジャグリーンに匹敵するが、それでも、今ではエマの方が上だろう。


「まあ、普通に考えれば、そうだろうな……今のエマと真面まともに勝負できる人族なんて、おまえたち以外にいるのかよ?」


 仲間の贔屓ひいき目ではなく客観的に見ても、カイエは本気でそう思う。


「まあ、それは別として……アイシャ、おまえは子供の頃からエマの両親を知ってるんだろう? おまえから見て、エマの親ってどんな感じなんだ?」


「え……私から見てですか?」


 急に話を振られて、アイシャは少しドギマギする。


「そうですね、アリスさんの印象と大体同じですけど……特にエリザベス叔母様は、結構強引なところがあると言いますか。エミーお姉様のために良かれと思ったことは、本人が嫌と言っても押し通す方だと思いますよ」


 幼い日のアイシャは、エリザベスがエマと言い争うところを何度か目撃していた……その後は決まって、彼女は娘にベタベタしていたのだが。


「ふーん、なるほどね」


 カイエは何となく想像がつくなと苦笑する。


 このときは――カイエも、アイシャの父親であるヨハンに比べればマシかなと思うくらいで、エリザベスについて、あまり深くは考えてはいなかったのだが……


 エリザベスに招待された夕食の席に――エマの姿は無かった。


「あの……エリザベスさん。これって、どういう事か説明して貰えますか?」


 アリスの質問に――エリザベスは毅然とした態度で応じる。


「皆さんには申し訳ありませんが、エマには急用が出来まして。それと……あの子は聖騎士団に正式に入団することになりましたので、明日は皆さんだけでお帰り下さい」


「……納得できませんね。用事が出来たのなら終わるまで待ちますから、エマと話をさせて貰えませんか?」


 相手はエマの母親だからと、アリスは普段では考えられないほど下手に出たのだが、


「あの子は……エマの事は、私たちローウェル家の問題ですから。申し訳ありませんが、これ以上皆さんにお話することはありません」


 もはや誤魔化す気も無いという感じで、エリザベスは真正面から拒絶した。

 本当にエマの母親でなければ――アリスはテーブルをひっくり返していただろう。


「へえー……バーンさんもアレクさんも急用なんだ?」


 夕食の席にエマの二人の兄もいないことを、カイエはあえて指摘する。


「ええ。そうですね……ラクシエル殿!」


 カイエを見るエリザベスの目には――どういう訳か、激しい怒りが込められていた。


 エマの両親と初対面のカイエは、一応自己紹介をしていたが……『カイエ・ラクシエル』という名前は神聖竜アルジャルスが王都上空に現われた事件や、エドワード王子との一件で、良くも悪くも、聖王国ではある程度知られている。


 それが理由かとも思ったが――同一人物かと問われた訳ではないし、どうも、()()()()雰囲気でもないようだ。

 ちなみにロザリーの事は、カイエの侍女だと伝えていた。


「まあ、エマが納得してる()()、仕方が無いんじゃないのか」


 みんなに良く聞こえるように、カイエは大きな声で言う。


「だけどさ。もし、そうじゃないなら……俺たちも引き下がれないよな」


「ご心配なく――エマは納得していますから!」


 エリザベスは憮然として、そう応える――このときカイエは、終始無言のフレッド・ローウェルの顔を横目で見ていた。


「そうか……エマは納得してるんだな?」


 カイエは同じ質問を繰り返すが――エリザベスもフレッドも、それ以上何も応えなかった。



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