113 再会と悪巧み
そして、アイシャの誕生日当日――
カイエは適当な場所に上陸して、白銀の船を収納庫に片づける。
戻って来るための登録をしてから、シルベーヌ子爵の領都シルベスタに転移した。
転移した先は、前回エストと二人で来たときと同じく、カラスヤの森の中だ。
今回は、カイエと勇者パーティーの四人全員と……何故か、ロザリーまで一緒だった。
「大切なことですから、何度も言いますが……ロザリーちゃんはカイエ様の下僕なんですから。何処でも付いて行くのは当然ですわ。
それに、あたしも人外の情報網に参加したんですよ……聖王国に行くんでしたら、ついでにアルジャルス様に直接会わせて貰いたいのよ」
アルジャルスは情報網の中心メンバーだから、後半だけはロザリーの言い分も解らなくもないが。
しかし、どうせ転移で移動するのだから、直接アルジャルスの迷宮に行けば良いだけの話だ。
だから、カイエとしてはロザリーを連れていく気など、サラサラ無かったのだが――
「ロザリーは同世代だから、すぐにアイシャと仲良くなれるよ」
「そうね。ちょっとタイプは違うけど……面白い組み合わせじゃない」
すでに同行するのが当然という雰囲気に――カイエは押し切られた感じだった。
いや、ロザリーはダンジョンマスターだから同年代なんかじゃないぞと、は突っ込みたかったが――止めておく。
六人は歩いてシルベスタ子爵の居城へと向かった。
カラスヤの木々や麦畑を眺めながら、ゆっくりと進んでいると――城の方から騎馬が掛けて来た。
「……師匠! やっぱり、ラクシエル師匠じゃないですか!」
馬から飛び降りて駆け寄って来たのは――短く切ったオレンジ色の髪がトレードマークの女騎士クリス・ランペーヌ。アイシャの世話役の一人だった。
「よう、クリス。久しぶり……あと、そろそろ俺を『師匠』って呼ぶのは止めにしないか?」
「いや、何を言ってるんですか? ラクシエル師匠は、私の心の師匠ですから。それで、今日はいったいどうして……いや、もしかして、アイシャお嬢様の誕生日を祝いに?」
クリスは一方的に捲し立てる。アイシャ愛の塊のような女騎士は、状況を察して瞳を輝かせた。
「まあ、そうだけど……エマが祝いたいって言うからさ、俺は付いて来ただけだよ」
「えー! カイエだってノリノリだったじゃない!」
「そうね……あんたって、ホント素直じゃないわよね」
エマとアリスに暴露されても――カイエは何食わぬ顔で、
「まあ、そういう訳だから。おまえたちだって、アイシャのために色々と準備してるだろうし。邪魔する気は無いから、適当にプレゼントを渡して帰るよ」
「何を言ってるんですか、師匠! お嬢様を独り占めできなくなるのは甚だ遺憾ですが……アイシャ様だって絶対に喜びますから、今日のパーティーには、是非参加してください!」
クリスはそう言うなり、カイエたちの前に片膝を突く。
「ラクシエル師匠、そして勇者パーティーの皆さん……アイシャ様のためにわざわざ来て頂き、ありがとうございます! 私が城まで案内しますので、さあ、どうぞこちらへ!」
アイシャを独り占めする発言とか、子爵を差し置いて完全に仕切っているとか、突っ込み処は満載だったが――クリスがアイシャのことを一番に考えているのは確かだった。
クリスに促されて城へ歩きながら、エストが苦笑する。
「いや、何と言うか……クリスも相変わらずだな」
彼女は、前回訪れた際のクリスの溺愛ぶりを思い出していた。
「ああ。これにアーウィンとヨハンまで加わるんだから……先が思いやられるよ」
カイエもエストと顔を見合わせて、苦く笑った。
「へえー……何だか二人だけ解ってるって感じで、ちょっと狡いわよね?」
そんな二人の間に割り込むようにして、ローズが悪戯っぽく笑う。
「いや、そんなこと……」
エストはバツの悪い顔をするが――
「ごめんね、エスト。私は文句を言いたいんじゃなくて……いつでも、そのくらい頑張りなさいよって思ってるだけだから」
ローズはニッコリ笑って、エストに抱きついた。
「ああ、ローズ……私も頑張るよ」
そんな風にじゃれ合う二人の傍らで――邪悪な光を帯びる視線が一つ。
(なんだか、面白そう……って言うか、色々と利用できそうな状況じゃないの? このロザリーちゃんが、上手く料理してあげるから……雁首揃えて待っていると良いわよ!!!)




