103 古都コリンダ
『ギャロウグラスの三重地下迷宮』は大陸南西部ブロキウス公国の領内に在り――カイエたちは地下迷宮に最も近い街であるコリンダへと向かった。
ブロキウス公国は大陸で最も歴史の長い国の一つだったが、経済的発展に乗り遅れた感がある。
公国第二の都市であるコリンダも、良く言えば伝統的な街並みだが、所々に傷んだ建物が放置されている状態であり、地下迷宮という結晶体の宝庫の近くに在りながらも、正直に言えば――
「イマイチ、パッとしない街ね」
「おい、アリス……もう少し、言い方を考えないか?」
アリスの感想に、エストが苦言を漏らす。
「でもね、エスト……仮にも難関級地下迷宮の近くなら、もっと活気があっても良いんじゃない?」
アリスはコリンダで新しい商材を探すつもりだったが――事前に調べた情報からも、実際に目にした都市からも、金の匂いが感じられないのだ。
「『ギャロウグラスの三重地下迷宮』は難関級地下迷宮だが……怪物の強さよりも、あまりにも広く複雑な構造のせいで、難易度が上がっている感は否めないからな」
つまりは――攻略が困難なだけで、今一つ実入りが良くない地下迷宮は冒険者たちに人気がないのだ。
「それでも、私たちにとっては、広さや構造の複雑さなど何の問題もないし。これだけ広大な地下迷宮であれば――きっと、まだ踏破されていない階層には、かなり高レベルな怪物が出現すると私は睨んでいるんだ」
地下迷宮とは、それ自体が巨大な魔法の品のような存在であり――怪物をリポップさせる魔力を、地下迷宮が生み出している。
広大な地下迷宮を維持するには、それだけ大きな魔力が必要であり――逆に言えば、その強大な魔力によって、強力な怪物を生み出せる潜在能力を持っているということになる。
「まあ、エストがそう言うんだから……期待して良いんじゃないか?」
カイエが揶揄うように笑う。
「それに広いってだけで、エストが魔法を色々と試すにも、エマが暴れ回るにも都合が良いだろう?」
「うん、そうだよね! よーし……バンバン倒すよ!」
エマはすでに、やる気満々だった。
「だったら、早く冒険者ギルドに行って、地下迷宮を攻略する許可を貰いましょうよ」
ローズはカイエの腕を取りながら、今日も乙女モード全開で幸せそうだ。
地下迷宮は国に所有権があり、攻略するためには、その管理を代行している冒険者ギルドの許可を得る必要があった。
「冒険者ギルドか……私たちにとっては、あまり良いイメージはないかな?」
聖王国の王都ではカイエとローズが、レガルタではエマも含めて三人が――冒険者ギルドでトラブルに巻き込まれている。
エスト自身も、カイエに冒険者ギルドを勧めたせいで、エドワード王子がローズを捕らえる切欠を作ってしまったと――今でも少し後悔していた。
「エスト、そんなこと無いわよ。冒険者ギルドでは色々あったけど……悪い事ばかりじゃないわ。魔王と戦ったときだって、冒険者ギルドは協力してくれたし。悪いのはギルド自体じゃなくて、私たちに絡んできた人の方だもの」
エストの気持ちはローズも解っていたから――気にすることなんて無いわよと、ニッコリと微笑む。
「ローズ……」
ローズの気遣いが、エストには嬉しかった。
「それに……今回は、これがあるから問題ないわよ」
そう言ってローズは――収納庫から、レガルタの冒険者ギルドで貰った金等級のプレートを取り出す。
「金等級なら、下手に手出しをして来る人もいないでしょう?」
「ああ、これの事ね……」
アリスも同じプレートを出す。レガルタを出発する前に、アリスとエストの分も、追加で用意して貰ったのだ。
「こんなプレート一つで態度を変えるとか、逆に嫌な感じだけど……余計なトラブルに巻き込まれるのも面倒だからね」
「だけどさ……こんなものに、あんまり期待しない方が良いと思うよ」
カイエは疑わし気にプレートを眺める。
「……どういうことよ?」
不思議そうな顔をするローズに――カイエはしたり顔で笑う。
「いや、まあ……すぐに解る事だからさ。とにかく、ギルドに行ってみようか?」




