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102/345

102 その後――


 自由都市レガルタを出発してから二ヶ月――白銀の船は大陸沿岸を、西に向かって航海を続けていた。


 その間に、カイエたちは十の街を訪れて、観光と美食の日々を満喫したのだが――余りにも平穏過ぎる旅路に、エマはすっかり退屈していた。


「ご飯が美味しいのは嬉しいし、みんなと旅をしてるのは楽しいんだけど……戦う機会が全然なくて、物足りないんだよね?」


 立ち寄った街が平和だったのは勿論、航海中も――白銀の船の異様な姿と大きさに、襲撃してくる海賊など皆無だった。


 たまに海の怪物モンスターに出くわしても……面子が面子だけに、ほんの数分で片付いてしまう。


「平和なのは良いことじゃない……私は満足してるわよ。敵を倒さなくてもお金を稼げるって、やっぱり素晴らしいわよね!」


 すっかり商売人になったアリスは――テーブルの上の金貨の山に、ご満悦だった。


 自分の目利きで選んだ商品が高値で売れることが、素直に嬉しい――商売が上手くいっているのは、半分以上、カイエが作った保冷倉庫のおかげだったが……アイデアを出したのは自分だからと、アリスは自慢げだった。


「それに、戦ってないって言っても……毎日、模擬戦はやってるでしょ? こっちの方が、下手な敵と戦うよりも、よっぽど腕を磨けると思うけど?」


 船旅で運動不足にならないためと、腕が鈍らないために――五人は毎日欠かさずに鍛錬を続けていた。

 特にカイエ相手の模擬戦は、何でもありの真剣勝負で……これまで戦ってきた強敵との実戦以上に、自分を鍛える効果があった。


「うん、それは解ってるんだけど。模擬戦だと、本物の緊迫感がないっていうのかな……ちょっと違うんだよね?」


「エマが言いたいことも、解らなくはないけどな」


 カイエが応える。仲間内の模擬戦は、実戦と違って、絶対に殺されることはないのだから。


「私は……いつでもカイエの傍に居られるから、ずっとこのままで良いと思ってるわよ」


 いつでも乙女モード全快のローズは――そんな事などお構いなしだった。


 正妻ポジションとして、みんなのことを応援するようになっても……暇さえあればカイエと密着している。


「私も、基本的にはローズと同じ意見だけど……」


 エストは対抗心を燃やして、自分もカイエにくっついているが――恥ずかしさを隠しきれないのは、相変わらずだった。


「それでも……エマと同じように、そろそろ『実戦』をしたいと思っているよ」


 意外なことに、エストが物騒な話を始めたので――四人の視線が彼女に集中する。


「い、いや、そうではなくてだな……私は新しく覚えた魔法を、模擬戦以外で試してみたいと思っただけなんだ」


 カイエの記録媒体に書かれていた高等魔術を――今でもエストは毎日研究している。

 その成果として新たに開発した魔法を試したくて、ウズウズしていたのだ。


 カイエとの模擬戦でも、色々と新しい魔法を試させて貰っているが――多数の敵を相手にしてこそ、効果がある魔法もあるのだ。


「へえー……でも、意外だわ。エストって……結構血の気が多いのね?」


 アリスに意地悪く笑われて、エストは慌てて反論した。


「だから、血が騒ぐとか、そういうことではないんだって! それに『実戦』と言っても――私が言っているのは、地下迷宮ダンジョンのことだからな!」


 地下迷宮ダンジョン怪物モンスターは――外の世界にいる怪物と同じように見えるが、実際には地下迷宮自体が創り出した偽物フェイクだった。


 その証拠に、倒したら結晶体クリスタルになるし、一定時間でリポップする。


「私は……絶対にそんなんじゃないから……」


 血の気が多いと言われたことに……エストはショックを受けていた。自分はクールキャラの筈なのに――


 しかし、そんなイメージは――この男と出会ったことで、とっくに壊れていた。


「いや……さすがにエストが()()()()()()とか、言い過ぎだろ?」


 揶揄(からか)うように笑うカイエに――エストは真っ赤になった。


「アリスだって、そこまでは言ってないだろう!」


「そうか? 俺は前から、似たようなことを思ってたけどな?」 


「カ、カイエ……」 


 涙目になるエストに――カイエは優しく微笑むと、


「冗談だって……それより、エスト? 地下迷宮に行くって話には、俺も賛成するけどさ。適当な感じで使えそうな場所に、心当たりがあるのかよ?」


 その応えは――カイエには初めから解っていた。

 地下迷宮ダンジョン研究家と呼ばれるエストが……宛てもなく、こんな話をする筈がない。


「ああ、勿論だ……現地点からだと、二日ほどの距離だな。『ギャロウグラスの三重地下迷宮トリプルダンジョン』――最難関級トップクラスではないが、難関級地下迷宮ハイクラスダンジョンで……まだ未踏破な筈だ」


 地下迷宮のことを訊かれた瞬間――エストは復活して、その目がキラキラと輝き出した。


(さすがは地下迷宮研究家だな。それにしても……ホント、エストは地下迷宮好きだよな)


 カイエは揶揄(からか)う気満々だったが――さすがに、今日のところは止めておく。


「そうだね……地下迷宮だったら、思いっきり戦えるよ!」


 エストの提案に、エマは諸手を挙げて賛成するが――


(((やっぱりエマだけは……ホント、血の気が多いよな(わよね)!)))


 カイエとローズ、そしてアリスまでもがジト目で見ている事に――エマは気づいていなかった。




とりあえず……ダンジョン編が何話か続きます。

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