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1-3.いやイケメン騎士とかそういうのいいんで

宿の一室。

私は絶賛ゾッコン中の少女、ユキミ・ユウちゃんとこれから同じベットで寝るという事実に胸の高鳴りを収めるのに必死になっていた。


……いや、別にイヤラシイ意味ではない!

これはワクワクという楽しみというか!

そう言った類の感情であって!

決してそーゆー目的があったりする訳ではない!


ただ少し、ほんの少しではあるけれど、「背中くらい流してあげればよかったかな」と思わなくもないだけだ!


……まあ彼女は今も汗を流している最中なので行こうと思えば行けるのだが、ヘタレな私にはそんなことはできない。

だから精神力3とか言われるんだ、分かっているのか私、反省しろ。


「〜、〜♪〜♪」


一つ扉の先で彼女の機嫌良い鼻唄が聞こえてくる。


社会人になる時に買った、思い出のある時計を売ったかいもあったというものだ。

元はそう高い代物でも無かったのだが、こちらではそこそこの値段がついた。

これだけあれば一月程度は宿を借りつつ生きていけるだろう。

付けていても社畜時代を思い出すだけなので、むしろ売ってスッキリしたと言えるかもしれない。


それに、売った場所が街一番の時計屋であったことも大きいだろう。

腕につける小型時計という発想自体はこの世界にもあったらしいが、それを可能にする技術に困っていたらしい。

その時計を見た瞬間、時計屋のおじさんは凄まじい剣幕で迫ってきた。

多少その勢いにドン引きした事実もあるが、それでもこうして彼女の笑顔が見れたのだ。

転生されて来たのが懐中時計が一般的な世界で良かったと強く思う。


とりあえず現状のステータスならば職に困ることも無く、どころかそれなりの好待遇を受けられると受付さんは言っていた。

元の世界でのあの必死な就職活動は一体なんだったのか……人格否定だらけの毎日を思い出すと今でも身震いするが、今はそれは忘れよう。


今後の私の理想としては、暫くは彼女を養いつつ魔法に関する勉強をしてもらい、いずれは大魔法使いになった彼女の助手として永久就職をしていきたい。

魔女帽子被ったら絶対可愛い明日買ってこようかな。


そのために、まずは職探しだ。

前世の様に時間を取られる職にはつきたくない。

なるべく短時間の仕事を探して、彼女とたくさんイチャイチャしたい。

短い時間でたくさんお金欲しい。

異世界でくらいそんな夢が見たい。


まあ、それもこれもこの世界の常識が全くない現状での希望的観測なのだから、明日からの職探し+情報収集で方針は変わるだろう。

とんでもない現実を見せられるかもしれないし、もしかしたら元の世界よりも悲惨な労働状況かもしれない。

……けれど、なんとなく上手くやっていけそうな感じが元の世界よりはしていた。

あんな変な犬が蔓延っているこの世界だけれど、以前よりもずっと希望が持てていた。

絶賛無職だというのに。

どれだけ救いようが無かったのだ、元の世界は。


「……よし!」


一通りの思考を終え、『長風呂するタイプなのか』と心地よい鼻唄を聴きながら夕食の準備をする。

夕食とは言うがそう大した物でもなく、元の世界で言うハンバーガーの様な物だ。

新鮮な野菜と肉を挟んだパンは大きさもあり、これ一つで栄養も量も取れる優れものだ。

宿の近くで買ってきたそれを皿へと取り分け、直ぐにでも食べられる準備をする。

自炊は明日からでいいだろう、自分の料理の腕を見せるのはその時だ。


そんなことを考えながら飲み物を用意していると、不意にドアがノックされた。

今日は宿泊客は自分達以外には居ないと聞いている。つまりノックの主は恐らく宿屋の主人だろうが、こちらも一応女であるので警戒は怠らない。

鍵は開けずに応対する。


「あのー、よろしいでしょうか?タハラ・アンズさんにお客様がいらっしゃってるのですが……」


「お客さん?訪ねて来るような人間に心当たりは無いのだが……」


「騎士団の方です、身元の確認に来たとか」


「………」


……身元の確認は、マズくないか?


--


「どっどっどっどっどうぞ!お、お冷しか無くて申し訳ないのですが……!」


「お、お冷……?お水のことかな?ありがとう、丁度喉が渇いていた所だったんだ、頂くよ」


「い、いえいえ!ごゆっくりどうぞ!?それでは私はこれで……!」


「いやいやいや!行かれては困る!今日は君に話があって来たんだ!」


「え!?私!?私か!?イケメンは嫌いじゃないが今はそういう気分じゃないんだ!お断りする!」


「振られた!?まだ何もしてないのに!?」


「もうぶっちゃけ結婚しなくていいくらいの最近なので、真面目に申し訳ない!諦めてくれ!」


「2回目!?この短時間で2回も振られた!?我ながら女性にここまで酷い仕打ちを受けたのは初めてだよ!」


「そうか!大丈夫だ!世の中にはもっと良い女性が居る!それではな!」


「だから帰らせませんって!なんですか!?どこに帰るつもりなんですか!?そんなに終わらせたいんですか!?話したいことがあるって言ってるじゃないですか!」


「私はない!!」


「僕の方があるんですよ!?」


「嫌だぁ!まだ捕まりたくない!私はユウを一生養って暮らしてくんだぁぁ!!」


「どんな願望!?どんだけ純粋に不純な思いを抱いて生きてるんですか!?いいから落ち着いて下さいって!」


「私のことは!私のことは好きにしていいから!ユウにだけは手を出すなぁぁぁ!!」


「人聞きが!人聞きが悪過ぎる!やめてくれ!悪い噂が立つ!これでもこの国最強の称号を貰ってるんだ!婦女子を脅してるなんて噂が立ったら困る!!」


「お願いだぁ!!ユウだけは!ユウのことだけは勘弁してくれ!!私のことなら好きにしていいからぁぁぁ!!」


「やめっ!やめろぉぉ!!」





「お姉さん、着替えどこ?」





「「…………」」



「……男なんかがユウの身体を見んなァァァァァァ!!」「理不尽だァァァァァァ!!」


"剣神"と謳われた国最強の騎士 アイル・アルトランドは生まれて初めて顔面に冷や水をぶっかけられた。


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