4-1.シリアスシリアスな雰囲気
「もう多分二度とここには来ないと思います」
「そうだな、二度とステータスとは関わらない人生を歩んでいきたい」
「ワシも二度とお前等のステータス見たく無い」
「3人とも何を言っているんだ……気持ちは分かるが……」
ジジイとフィーナと私、珍しく3人の意見が一致した。
ちなみに3人とも目からハイライトが消えている。
受け入れるべき情報が強過ぎたのだ。
「だが二度と来ない訳にもいかないだろう、証明書と違ってスキル鑑定は自動更新はされないからな。定期的にここへ来て成長具合を確認する必要がある」
「「「いや!!」」」
「子供か!!」
定期的にこんな気持ちを味わうとかどんな地獄かと!
私は一生ステータスと無縁の生活を送りたいと思っているのに!
「あ!そうじゃ!お前等に試作品の証明書をやろう!ワシのスキル鑑定をある程度の自動更新させる為に、あやつに無理矢理作らせといた4枚限定のとっておきのやつよ!やったぜ!これでワシはお前等から解放よォ!二度と来んじゃねぇぞバーロー!」
「汚いぞジジイ!そんなもん押し付けんな!死ぬなら諸共だ!自分だけ逃げようとすんじゃねぇ!」
「あー!もうお前等のステータスで登録しちまったー!これでもうお前等の物〜!ワシは二度とお前等とは関わりませ〜ん!ざまぁみろ!」
「やめろー!やめろー!!」
「お爺さんそれは卑怯です!!」
「フハハハハ!なんとでも言え!これ1枚で金貨50枚とかしたけど知ったことか!ワシは逃げさせて貰う!」
「「あああぁぁぁぁ!!!!」」
絶望と悲しみの叫びが木霊した。
そうして私達3人はこの呪いのアイテムを無理矢理押し付けられるのだった。
あああああ破り捨てたいぃぃぃ!!!
「定期的にここに来てやるからな!」
「正確な再現のできない自動更新なんていりませんよ!半年おきに来て更新して貰いますからね!」
「ざっけんな疫病神共!二度とうちの店に入るんじゃねぇ!」
わー!ぎゃー!わー!ぎゃー!
「……優、私も傭兵を続けて長いがここまで頭の痛くなる光景を前にしたのは初めてだよ」
「元気出して、シリウス」
「ああ、優しいな君は」
ちなみにシリウス・スクローネはこの日初めてバブみというものを少しだけ理解したという。
小さい女の子から母性を感じるというギャップがいいとかなんとか。
……さて、そんな感じにフィーナと共にジジイに不毛な争いを仕掛けたものの結局手元へやってきてしまったこの忌々しい最新型の証明書とかいうゴミであるが、シリウス曰くあらゆる冒険者が喉から手が13本くらい出るほど欲しがる代物らしい。(そこまで言ってない)
そんなものを押し付け合っていたのだから、いつか誰かに刺されてしまいそうな気もする。
ただ、一度登録してしまった証明書は登録解除に手間がかかる上に他人に取られれと面倒なことになるらしく、これは仕方ないが持っていくしかないらしい。
絶対解約して高値で売りつけてやる。
そんな心持ちでフィーナと共に死んだ目で立ち尽くしていると、突然入口のドアが蹴破られた。
咄嗟の出来事にシリウスは反応していたが、私達2人は燃え尽きた様な半笑いで微動だにしなかった。
どうせシリアスが居てくれるし、へーきへーき。
「アトラス様っ!!……ってうわ!?なんだこの状況!?」
「なんじゃアーロンか。この馬鹿どものことは気にするな、ただの災害よ」
「フィーナ、ジジイに麻痺かけろ。災害は災害らしく残り少ない頭髪も遠慮なく焼け野原にしてやらないとなぁ?」
「了解です」
「やめんか!ワシの最期の希望なんじゃぞ!」
「最期の希望が儚すぎるだろ」
割と慌てていたアーロンと名乗る少年を完全に無視してジジイの毛根に狙いを定めた私とフィーナだったが、直後にシリウスに首根っこを掴まれて強制的に椅子に座らされる。
彼女も段々とこなれてきた感じがある、それはとても良いことだ。
ジジイの毛根は今日中に確実に死滅させるがな。
「……で?何があったんじゃアーロンよ。お主は今日明日と出張鑑定の依頼があったはずだろう」
「は、はいっ!そのですね、本来なら今頃はパステルの町について鑑定を始めていたはずなんですが、トラブルが起きまして……」
「トラブル?」
「その……エルセラ付近に大量のアンデットが湧き始めまして……」
「なっ!エルセラにだと!?」
"エルセラ"という単語に妙に強い反応を示したシリウス、そしてジジイもそれを聞いたと同時にまたもや真剣な雰囲気を漂わせ始める。
隣を見ればフィーナすらも先程の死んだ目を取り払って難しい顔をしていた。
もちろん私は無反応である。
だってエルセラとかアンデットとか言われても分からないもの。
優、無知な私を助けて……
「アンデットは吸血種や高位の魔導師、ネクロマンサー、その成れの果てのリッチが使役する亡者の総称。大量のアンデットを日中に行動させられる程の力があるなら犯人は間違いなくリッチ」
余計な言葉はいらない、愛してる。
「リッチというのはそれほどにヤバいのか?」
「リッチになるってことは、寿命からの解放、魔力の強化、魂への干渉力の向上、みたいな魔法使いにとっての最高の身体が手に入れられるってこと。そもそもリッチになれるのが極めて強力な魔導師だけだから」
「なるほど、ヤバいんだな。」
「ん」
つまりあれだ。
バットコントロールの良いヒット量産系の野球選手が、ホームランを打てる筋力と、ものすごい動体視力、あと一生衰えない身体を持ったみたいなことだろう。
なにそれ凄い、贔屓の某選手をリッチにしてやりたい。
もう見れないけれど今年こそは優勝できるだろうか?
最後の優勝が20年以上前とかふざけてるのか。
結局生きてる間に横浜の優勝は見れなかったよ。
悲しいなラミー。
「……まあ、リッチに関しては熱心な魔導師が研究のためになることもあるので、完全な敵対者であると断言は出来ないんですけどね。過去に国家政策の一つとして1人の魔導師をリッチにしたみたいな話もありますし」
「ちなみにその人は今?」
「行方不明だそうです」
「悲しいなラミー」
「……ラミー?」
それはそれとして、きっと皆が一番気にしているのはリッチの存在ではなく、そのエルセラとかいう土地に関してのことだろう。
それくらい私にだって分かる。
優もどこかその話を避けるようにリッチの話を取り出したりしていたが、私とても気になります。
そんな私の目を察したのは意外にもジジイだった。
「……崩壊都市エルセラ、今はそう呼ばれとる」
「崩壊都市……?」
割と軽い気持ちで足を突っ込んだけれど、シリアスシリアスな雰囲気が漂ってきて少し後悔した。




