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3-10.結局私の転生特典ってほとんど無いと同義なのでは……?



「さて、最後はアンズだな」


「ああ、頼む」


撃沈した癒しの錬金術師(笑)はともかく、眠ってしまった優をシリウスに渡して身を整える。

しかしアトラスジジイは訝しげな目でこちらを見てくる。


「……おい、そろそろまともな人間だろうな?天使に女王だなんて化け物どもを今日だけで2人も見たんだ。ワシだってそろそろまともなのを見ないと心臓がもたねぇぞ」


そう言ってジジイはシリウスへと目をやったが、シリウスは一瞬でその目を逸らす。

おいどういうことだ、私は普通だぞ。


「シリウス?何故今、目を逸らした?私はまともな人間のはずだが?」


「……まともな人間は殺人術を身につけていたりしていない」


「あ、あれはただの対暴漢体術だ……!」


「相手の頭蓋骨や首の骨を粉砕するような対暴漢体術などあってはならないと思うんだが……」


「いや、ほらな?最近は世間も物騒だしな……?」


「もういいお前ら、ワシはもう諦めた。腹くくってこっち向け殺人女」


「まだ誰も殺してない!」


「"まだ"なのか……」


シリウスと同じ様に遠い目をし始めたジジイ。

なんだこれは、一応言っておくが私はこの中でもまだ一般人的な感性がある方だと自負している。

どころか社畜として生きてきた身だ、言葉遣いはさておき常識はある。とても心外だ。

癒しの錬金術師(笑)や弱化の女王などと一緒にしないでもらおうか。

私はただの少し体術を学んだ可愛い女の子好きの一般女性なのだから。


「……鑑定を始めるからもう黙ってろよ?」


ぶっ飛ばすぞジジイ。


--



田原(たはら) 杏子(あんず) 24歳 性別 女

職業:無職 出身:日本国

-ステータス-

状態:普通

Lv.25/95

HP:50/50

MP:60/60

攻撃力:280

防御力:50

魔法力:70

素早さ:90

幸運:999

ランク:B

-固有スキル-

【破壊の女王Lv.1】

-アクティブスキル-

【雑務Lv.5→(社畜Lv.5)】

【裁縫Lv.3】【料理Lv.4】

【体術Lv.8→リズ式対人型生物無手殲滅術Lv.8】

【威圧Lv.1→覇気Lv.2】

-パッシブスキル-

【悲運の反動Lv.--】

【破壊者の才Lv.--】

【天使の祝福Lv--】



「もう帰れよ……」


アトラスのクソジジイは半分泣きそうな顔をしてそう言った。

淫ピやシリウス達も「やっぱりな」みたいな顔をしつつも同時にドン引きしているのがなんとなく分かる。

ふざけんな陰湿錬金術師!

どんなものでもお前のあのエゲツない魔法よりマシだからな!

あんな魔法使う奴が私をドン引きする権利ないからな!

そのクッソ可愛い跳ね毛ブチ抜くぞ!!


「な、なんか寒気が……」


そんなことを思いながら実際には私自身も自分にドン引きしていたりする。

これもう優には見せられないでしょ。

だって人間じゃないもの。

破壊の女王だもの。

破壊者としての才能持ってる破壊の女王だもの。

完全に世界を破壊するために生まれてきたようなもんじゃん。

最後の審判どころか、その前に破壊しようとしてる奴居るって事じゃん。

世界の破壊者とか微妙にカッコいいけど、私知ってるよ?

前半の勢いが嘘みたいなクソシナリオが待ってるんでしょう?

最終回なのに何も終わらず何もわからず終わるんでしょう?

おのれぇぇ!!

お前が一番何だったのか分からなかったからなオッサァァァン!!


「とりあえずアトラス爺、解説を頼む」


「ここまで胸躍らない解説もこの仕事始めてからそうそうねぇぞ?まあやるけどな……」


グイッと背伸びをして心の底から嫌そうな顔をしているクソジジイを尻目に私は再び紙に目を戻す。自分の異常性は分かったので余計なツッコミができないのだ、非常に遺憾である。


「まず"破壊の女王'と"破壊者の才"についてだな。"破壊"系の称号ってのは鈍器とか大剣とかを使う気性の荒い上位の冒険者に極稀に見られるスキルだ。例えばこの"威圧"から派生した"覇気"。Lv.1でも普通の"威圧Lv.5"相当に匹敵するって言われてる」


「なるほど、杏さんにはピッタリですね」


「おい淫ピ、マジで破壊者になってやろうか」


「だ、だって杏さんの怒ってる時のオーラって昔見た大獅子くらい怖いですし……」


「え、大獅子の威圧ってどんなもんなんだ?」


「Lv.8とかだな」


「やべぇな私」


「ちなみに"破壊者の才"ってのは同格の人間が同じ行動をするよりも破壊の規模が大きくなるってスキルだ。ちなみに破壊する意思が強ければ強いほど効力は上がる」


「なるほど、今の私なら何処かの錬金術師を跳ね毛を残して一撃で消し飛ばすことができるということか[


「な、なんで跳ね毛を残そうとするんですか……というか杏さん、私の跳ね毛に対する執着強過ぎません?」


「クッソ可愛いんだから仕方ないだろ!!」


「逆ギレされた!?これ褒められてるんですよね!?」


バッと頭の上に手をやって跳ね毛を抑えるピンキー。

可愛い子がそんな仕草したらもっと可愛くなるだろいい加減にしろ!

というか前々から動く度にピコピコ動くその桃色の跳ね毛が大好きだったんだよ!!

寝てる時に指で突いて遊んでたの知ってたか!?

知らなかったろ!?

結構お気に入りだかんなそれ!


ぶっちゃけた話、今の私のテンションは完全に壊れていた。

というかもう諦めていた。

何かよく分からないものから解放された感覚があったのだ。

具体的には自分のお淑やかで平和的な異世界ライフとか。

破壊者がそんなふわふわライフを送れるわけがないだろ!ふざけんな!


「"社畜"ってスキルはよく分からんが、まあ"雑務"の延長線上だろうの」


「この世で最も要らないスキルだ、そんなスキル持ちが生まれない世界を是非みんなには作ってもらいたい」


「今日一番の死んだ目なんですけど……」


「一体どんなスキルなんだ……」


いや、これほんと要らないスキル。

雑務を徹夜でこなしても大丈夫なスキルなんてみんな要らないでしょ?

いや、実際大丈夫じゃないんだけどね?

心も身体もボロボロだからね?


「そういえばアンズは幸運が異様に高いな。というかこれ、カンストしているように見えるのだが……」


「悲運の反動とかいう悲しいスキルのおかげだろうよ、ワシも初めて見たスキルだ」


「あ、この天使の祝福って多分優くんのですよね?いいなぁ、私も優くんのこと大好きなのになんで発動して無いんだろう……」


「そこの破壊女の愛が重過ぎるだけだろうよ、天使の祝福がそう易々と受けられる訳が無いからな」


「誰が破壊女だ破壊するぞ」


「おうワシの残り少ない毛根を破壊しようとするのだけはやめろや」


今の私にはそれくらい簡単に出来る気がした。


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