3-8.私の愛方はまじ天使かわいい
雪見 優
-ステータス-
状態:普通
筋力:2
体力:1
知力:10
精神力:--
器用さ:8
魔力:--
幸運:1
………?
ここ最近、ようやくある程度の字が読めるようになってきた私だが、これには少し困惑した。
「なんというか、いつも通りの優くんのステータスって感じですよね」
「だがMAXの15だったはずの魔力も消えているし、幸運という項目も増えているな。……最低数値だが」
「なかなか特徴的なステータスをしているのだな、優は」
「私、不幸……?」
各々が思ったことを口に出す。
そういえばこういった風に消えている項目はなんだったのかも気になっていた。
それからふとジジイに目をやると、ジジイは変わらず難しそうな顔をしながら話し出す。
「幸運はワシが最近増やした項目だ、そのうち証明書システムにも追加される。問題は魔力と精神力の方だが……」
「そうだ、証明書の方だと15だったはずだが、これはどうなってる?精度が劣化したのか?」
「そんな訳が無いだろう。これはほれ、この最新の水晶玉で見たもんだ。つまり最新の精度で見ると測定不能だった、ってことだ」
一層老けた様に見えるジジイの言葉に頭を傾げる。
同じようにシリウスやピンクも傾げていた。
意味がよく分からない。
「これまでの水晶玉は魔力の項目を持ち主のオドの大きさで見ていたんだよ。しかしそれだけでは正確に測れないからと、最新の水晶玉ではオドの性質や濃度まで見るようになったんだ。つまり、宮廷魔導師レベルの大きさだった嬢ちゃんのオドは、質や濃度まで加味すると測定できないレベルのものだったということよな」
よく分からないが、流石は私の優、ということでいいのだろうか。
詳しく見れば規格外だった、それで済む話なのだろう。
「計測不能って……一体どうやればそんなことに」
「まあ、その理由がな……こっちがワシが自分の目で見て作成した独自の判断基準による詳細なステータスとスキルよ。まあなんというか、腰を抜かすなよ?」
そう大袈裟な言葉を使いつつも、震えて渡された紙に私は目を通す。
そしてまた疑問符を浮かべる。
雪見 優 17歳 性別--
職業:天使 出身:日本
-ステータス-
状態:普通
Lv.1/1
HP:10/10
MP:3145/999999
攻撃力:15
防御力:15
魔法力:999999
素早さ:15
幸運:3
ランク:L
-固有スキル-
【天使Lv.2】
-アクティブスキル-
【炎の魔法Lv.2→炎の権能Lv.2(白銀ノ火Lv.2)】消費MP100000(1秒毎に50)
【身体強化魔法Lv.1→神体化Lv.1】消費MP100000(1秒毎に100)
-パッシブスキル-
【アルビノ体質Lv.--】
【愛され体質Lv.--】
【愛への祝福Lv.--】
【最後の審判Lv.--】
………?
意味が分からなかった。
そもそも独自のステータス表記と言われても一般的な人間の値を知らないのだから、何が凄いのかヤバいのか全く分からない。
同じようにピンクも首を傾げていた。
しかしただ1人、シリウスだけはその目を驚愕に歪ませている。
「な、なんだこれは……」
身を乗り出して目を見開くシリウス。
まあ、分かるがな?
確かに職業:天使とかいう訳の分からない悪ふざけみたいなものを出されて驚愕するが、事実として優は天使だ。
それを分かっているのならこのジジイも見所はあると言える。
だがこちとら今は真面目なのだ。
だからそんな天使とかいうスキルを作ってまで演出されても困るというか……
「この攻撃力とかって平均はどれくらいなんですか?なんだかよく分からないんですけど……」
「ん?ああ、フィーナも知らなかったか。この攻撃力や防御力というのは魔法を使わない時の値を示していて、確か平均は100とかだったか……」
「加護とかの例外はあるが、ユグドラシル騎士団の平均が150とかだな。200ありゃ誇って良いし、300あれば団の長を張れる。400あるなら英雄レベルと考えろ」
「つまり15とかいう数字は……?」
「押せば倒れる、叩かれても痛くない、平均10秒とされるユグドラシルの噴水周りを走ろうとして途中で力尽きるレベルだ」
…………やっぱり優は可愛い。
それがハッキリと分かる結果だということだ。
「だとすると、その……魔法力、これ絶対おかしいですよね?いや、おかしいのは魔法力だけじゃないですけど」
「まあ、そうだな。職業:天使とかボケられてもこっちとしては困るの一言だ」
「ボケとらんわ、そやつは正真正銘の天使、神の使いよぉ。そもそも普通の人間じゃあない」
………?
やっぱり優は可愛い。
それがハッキリと分かる結果だということだな?
「何を惚けとる。ワシはな、これでもこの職には誇りを持ってやってんだ。嘘や冗談を書いたことなど一度もねぇよ」
「いや、そうは言うがアトラス爺……もう少し詳しく説明して貰わねばアンズも分からないと思うが」
「説明も何も、精神力と魔力が測定不能なのはそいつが人間ではなく天使だからで話がつくだろうに。霊格が普通の人間と違うのに精神力なんか人間の尺度で測れる訳が無い、人間より遥かに優れたオドを持ってんだから魔法力もカンストして当然よ。……反面、人間の使う魔法は大半が噛み合わないみたいだがな。ランクは勿論L、この場合のランクは英雄って意味ではなく伝説級希少種って方が正しいが」
私は考えるのをやめた。
「えっとじゃあ、炎の魔法は分かるんですけど、この権能とか神体化って言うのはなんでしょう?私も聞いたことがありません」
「分からん。だが魔法からの派生ってこたぁ、もう一つ上の何かって事だろうよ。神体化ってのも身体強化の派生ということは、一時的に人間の体では無く、神の体にまで格を上げて驚異的な力を得るんじゃないかのう。使用MPが普通の魔法使い100人分に相当するのも、それなら納得できるだろう」
「完全に規格外だな……ならばパッシブスキルのこの2つ、【愛への祝福Lv.--】【最後の審判Lv.--】はどういうものか分かるか?アトラス爺」
「その2つに関してはワシも上手く鑑定できんかった、前例も無いしな。だが前者は自分からでは無く他者から受ける愛に対する祝福だろうな。受ける祝福じゃなくて与える祝福ってのがまた珍しい。ただどんな祝福かは分からねぇが、天使からの祝福と考えればとんでもないレベルの祝福だろうよ」
「でしたら後者の【最後の審判Lv.--】、これはどうですか?明らかにヤバそうなスキルに見えるんですけど……」
「そいつはワシの見た限り、持ち主の死に対して働くスキルに酷似していたな。一番似ていたのが希少スキルの【道連れ】だ、一部の魔物が使う死に際に爆発したりする奴だ。だが嬢ちゃんがモノホンの天使だとすりゃあ、神の使い殺して道連れ程度で済む訳がねぇ。これがもし教会の言ってる『最後の審判』と同じものだとすりゃあ……」
「……まさか」
「なるほど……」
「まあ、十中八九そうだろうなぁ」
「「………世界が滅びる」」
………?
最早私の頭は彼等の話に全くついて行けていない。
なに?優が死んだら世界が滅びるの?
いや、優を殺すような世界は別に滅んでもいいような気もするけど。
そんなマヌケなことを考えていると、膝上でまた優が眠ってしまっていた。
その更に膝上でミルクもまた眠ってしまっている。
とりあえず可愛いので撫でておいた。
難しい話はあの3人に任せて、後で簡潔に教えてもらおうと思う。
「………これは、教会に伝えた方がいいのだろうか?もし発生条件がそれならば、彼女が天命を迎えるまで安全に過ごせば最後の審判は防げる可能性がある」
「やめた方がいいと思うがな。ワシはどうにも教会の人間は好かん、監禁されて良いようにされるのが目に見えとるわ。神の名を語って金稼ぎなんざしとる輩に預けたいとも思うなら別だがの?」
「そ、そんな所に優くんは預けられません!それなら私と一緒に平凡な錬金術師として生きていく方が絶対に安全です!私が一生養います!」
おっとその発言は見過ごせない。
「待て淫乱現金術師、誰が誰を養うって?優を一生養うのは私の役目だ、いくら可愛い貴様と言えどそればかりは顔を毒沼に漬け込むことも厭わないくらい許さんぞ」
「ひえっ!」
「人には超えてはいけない一戦というものがある、貴様は今それを超えそうになった。
よく分からないが教会とやらに優を預けるというのも許さん。そんなことをするなら優が世界を滅ぼさずとも私が世界を滅ぼす。全員二度と神の前に出せない顔にしてやる」
「ちょ、アンズさん本当に怖いんですけど!」
「ワシちびりそう」
「最早アンズが魔王だと言われても私は信じるかもしれない……」
それは心外だ。
私はただ優が大切なだけなのだから。
とりあえず優を撫でる作業へと戻る。
「………このことは他言無用だな。優が本物の天使だと知られれば、まず間違いなく面倒事が起きるだろう」
「それもそうですね……あと、出来る限り危険な場所にも近付かせないで、近くに腕の立つ人を置いておきたいです。教会の人間は防げても、強盗や山賊は防げませんから」
「ふむ、これはアイルの奴にも伝えた方がいいかもしれんな。シリウス、お前も出来る限り嬢ちゃん達の頼みを聞いてやれ。一緒に話を聞いちまった以上、無関係ではおれんぞ」
「当然だ、アトラス爺。こんな話を聞いてしまっては出来る限りのことをしたい。護衛程度のことならばいつでも請け負おう」
どうやら話はまとまってきたらしい。
今回のことは他言無用、困ったらシリウスに頼る。
単純明快な話だ。
ぶっちゃけ私としては元々優は天使だったし、優が死ぬような世界は滅びればいいと思ってたし、優の可愛さを世間にひけらかす気も無かったので、この結論で何の問題も無い。
それより問題は優の体調だ。
みんな大切なことを忘れている。
「ところで、優のMP切れの理由は分かったのか?どうしたら治る?」
「ん?おお、そっちは簡単だ。そのまま眠らせてMPの回復に努めさせておけばいい。元々バカデカイ容量を持ってて、それをただアホみたいな魔法を使って減らしちまっただけなんだ。問題は回復量が人間と同等なことで、まあ10000程度まで回復すりゃマシになんだろ。魔力回復を促進させる効果のあるポーションでも使やあ早めに回復するだろうよ」
「なるほどな……おい淫乱錬金術師」
「淫乱じゃないですけど話は分かりました。とりあえず手元にあるポーションは渡しときます、もう少し効能の高いものをアトリエに戻ったら直ぐに作るので待ってて下さい」
「ああ、頼んだ」
このピンクは顔が良いのと根が純粋なのと錬金術師としての腕は信じられる。こういう時には頼りになる。
というか多分、前回の騒ぎで何故か発見された"全開のポーション"はこいつが作ったものだろうしな。
ポーションの話を聞く限り、本気でこの世界でもトップクラスの腕であることは間違いない。
この世界に来てからの私の人運は絶好調である。




