3-6.セクハラ=死は世界の理
「そろそろ着きますよ〜」
ひらひらと手を振ってにこやかにピンクの錬金術師はこちらへ振り向く。
ほんとに見た目はいいなこいつ。
「それにしても、本当にこんな何もない平原に店を構えているんだな。こんなので客が来るのか?」
そんな私の疑問は、目的の建物が木すら無い草原の丘、その中央にポツンと建っていたことから生じている。
それまで深い森を走ってきただけあり、この光景は圧巻だ。
ここでピクニックとかしてみたい。
「まあ、スキル鑑定は総じてお金のかかるものだが、需要が減ることも無いからな。定期的に必需品を輸送して貰えば生活も問題ない、人と深く付き合うことが嫌いな者にとっては理想の環境だろう」
「なるほどな、とりあえずこれから会う人物の性格がなんとなく掴めた。鑑定だけ終わらせてさっさと帰ろう」
「あはは、確かに付き合うのが面倒な人物ではあるのだがな」
そんな偏屈な人物に付き合ってられるか、私は鑑定だけ済まして帰らせてもらう。
膝の上に乗っている優を抱きしめながらそう誓う。
馬車のことはピンキーに任せ、私は早速鑑定屋へと足を運んだ。
優を抱き抱えながら、ミルクを抱く優を抱きながら。
ほんとに最近はよく寝るな、この子。
建物の中の内装は至ってシンプルだった。
古めの木造建物なのは分かっていたが、中身も至ってシンプルな作りで、シリアスが言うほど本当に儲かっているのかも怪しい所。
特に目星いものも無く、カウンターの奥に新聞を広げた爺さんが座っているだけだ。
書類の山があったり、向こう側の本棚にいくつか本が置いていたり、水晶玉がそこら辺に転がっていたりと、その辺も割と雑。
こんな内装でもやっていけるのなら、鑑定士とはなんと楽な仕事なのか。
とりあえず勝手の分からない私は、まだこちらに気付いた様子のない爺さんへ向けて声をかけてみた。
「すまない、邪魔をする」
「邪魔すんなら帰れ」
「……よし、ならば放火してから帰るか。確か馬車に松明が何本かあったな」
「じょ、冗談だろうが嬢ちゃん、んな綺麗な顔して殺気出すんじゃねぇよ。こちとら60超えのジジイなんだぜ、漏らすぞ?」
そう脅す様に「漏らすぞ?」と決め顔をしたジジイ。恐らくこいつがアイルから聞いていた"鑑定屋のアトラス"という男なのだろう。
しかし、もう少し真面目で堅物なジジイだと思ったのだが、この少しのやりとりで逆の意味で面倒そうに思えた。
そんな私達のやりとりを見兼ねて、後ろにいたシリウスが助け舟を出してくれる。
「あー……久しぶりだなアトラス爺。こちらがアンズさん、そしてユウさんだ。外にもう1人フィーナという女性がいるが、今日はその3人を見てもらいたい」
「ん?おお、シリウスか!デカくなったじゃねぇか、見違えたもんだ。なんだそのケツと胸、破壊兵器かなんかか?」
「アンズ手伝え、頭から上を斬り飛ばす」
「任せろ、斬り飛ばした頭を蹴り飛ばしてやる」
助け舟沈没。
いや、助け舟だと思っていた船は実は戦艦だったらしい。
2人でカウンターに足をかける。
「待て待て待て待て!冗談、冗談だ!いや冗談じゃねぇくらいデケェが冗談だから許してくれ!……お?つか嬢ちゃんもシリウスと同じくらいデk」
「「SHI☆NE!!!」」
メキッと、両側から上段蹴りに挟まれたクソジジィの頭蓋骨が悲鳴を上げた。