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3-4.対暴漢体術という名のナニカ

街を出発して5時間ほど、私達は野営の準備をしつつ何故かゴブリンを狩っていた。


「ファースト・スラッシュ!」


「ポイズン!」


"熊落とし……!!"


鋭い一閃、熟練された魔法、肉体の破壊。

その中の何よりも大きくゴブリンの頭蓋骨が砕け散る音がする。

そんな私の方を見てドン引きしているシリウスと淫ピ。


いや待って欲しい。

シリウスはともかく、毒魔法で苦しめて殺しているこのピンクの悪魔にだけはそんな目で見られたくない。

確かに私の周りには顔面を削られたり頭部を粉砕されたゴブリン達が無残に転がっているが、毒によって顔色を変色させられたゴブリン達と比べてみればまだマシではないだろうか?

私はそう思う。


「……アンズさんってどうしてそんなに強いんです?下手な拳闘士より体術に慣れてそうなんですが」


そんな風に恐る恐る聞いてくる淫ピの質問に、私は遠い目をして答えた。

いや実質そんなに恐る恐る聞かなくてもいい。


「……学生時代、いや16くらいの頃にな。私は教師からのセクハラや見知らぬストーカー、近寄ってくる不審者にナンパ野郎と、クソみたいな男共に悩まされていたんだ」


「は、はぁ」


「そんな時にある頭のおかしい女と出会ってな。名前をリズと言うのだが、その人が仕事の手伝いをしてくれるなら相応の金と暴漢撃退術を教えてくれるって言ったんだよ」


「な、なるほど。そこで鍛えて貰ってたんですね」


「ああ。名前は"対暴漢体術"とかいう雑誌にありがちなもので、私も出会ったばかりの頃は信用してたんだがな。なぜか数十人規模の敵に相対する立ち回りみたいなものまで叩き込まれた」


「は?」


「そしてある日、目の前で彼女が暴力団の全面抗争をたった一人で叩き潰した光景を見た時に、私はようやく理解したんだよ。自分が叩き込まれていたのは対暴漢体術なんて生易しいモノじゃなかったんだと」


「………ち、ちなみにその女性は?」


「私に粗方の技術を伝えた後、満足したような顔をして去っていったな。聞いた話だと今も国内の危険勢力のアジトを叩き潰して回っているらしい。……素手で」


「そ、そうですか。」


"素手で暴漢をなぎ倒す体術"という名目で教えられたが、よくよく考えるとこの名目すら頭おかしい。

別に薙倒す必要はなくない?

特に盲信していた当時の私ですら困惑したのは"崩拳"という彼女の好む技で、どういう原理なのか一突きで砂袋型のサンドバッグを粉々にしていた。


『これ、相手が人間だったら確実に死ぬのでは?』


当時の私はそこでようやくこの体術に疑問を持ち始めたのだが、時は既に遅し。

最低限の体力さえあれば技術を磨くだけで使えるという性質のこの体術を、3年間学校の部活動代わりに徹底的に叩き込まれた私は、気づいた時には完全に手遅れなところまで来ていた。

あの人の目利きが確かなら、私にその方面で才能があったのも原因だろう。


……完璧ではないが、私も崩拳を使う事ができる。

流石にサンドバッグを爆発させる事は出来ないが、元々この技は人間の内臓を一撃で破壊する為の技だ。

その基準で言えば間違いなく私は満たしているし、他の技も今でも大抵は使えるつもりでいる。

まあ元の世界では無用の長物であったが、こちらの世界では便利そうなので良しとしよう。


「ふふ、その話を聞くとアンズが拳神だという話も強ち間違いでは無いように思えるな」


「やめてくれシリウス、その話は私に効く」


ゴブリンの腹を手際よく裂き、ドロップ品を回収しながら歩いてきたシリウスに、私は死んだ目で言葉を返した。

ドロップ品というものも初めて見たが、それはゴブリンが小さな魔物だからか、ピンポン玉程度の大きさのゼリー塊だった。

体液で濡れている訳でもないらしく、思っていたよりも綺麗な見た目をしている。

ゼリー塊も感触的にはスライムというより、ゴムボールとかそういう感じだ。


「あれ?シリウスさん、これってもしかして骨系のドロップ品ですか?珍しいですね」


「ああ、ゴブリンのドロップ品としては結構珍しいのだが、今回は大半がこれだったな。狩の上手い奴等だったんだろう。骨は加工がしやすく、錬金術にも使われる代物だからな、好きに使うといい」


「ほんとですか!?助かります!」


わーい!といったように手を上げて喜ぶピンク。


そういえばこの世界に来て私は初めて魔物というものに相対し、その命を奪ったのだが、少し不快な感覚はあってもそこまで大した事は思わなかった。

自宅に出た大きめの害虫殺虫剤で殺した時の様な感覚だ。

ただまあそれは相手が人間ではない魔物であったことと、彼等が思い出すだけでも吐き気を催す、かつて私にセクハラをしてきたゴミ共を思い起こすような見た目をしていたからだろう。

命を奪われる可能性がある以上、そんな優しい事を考える暇も無かったというのもある。


飛びかかって棍棒を振るくらいなら、距離を詰めて腕を掴んでそのまま叩き付けるだけで気絶させられるし、そう考えれば初めての相手としては最適だったのではないだろうか。

あのニヤニヤとした下卑た表情があまりにも気持ち悪すぎて、問答無用で叩き潰すことができたし。

本当に今の自分に相応しい相手だった。


いやほんと、完全にこちらを性欲の発散道具としてしか見ていないあの表情よ。


生前のストレスがここに来て解放された、凄くスッキリした。


(だが、強い魔物が出てきたらこうはいかないんだろうなぁ……)


なんてことを思いつつ馬車に戻れば、相棒のミルクと一緒にスヤスヤと眠る優の姿。


は?可愛すぎない?


また冷静さを失いかけた。



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