3-3.ドロップ品についてのお勉強
「ところでアンズさんはドロップ品って知ってます?」
そんな突然の淫ピからの質問に、眠ってしまった優の頬を突く趣味を止めて振り返る。
旅を始めて数時間、このピンクもそろそろ寂しくなってきたのだろうか?
まあこちらもやる事は無いので、暇潰しに会話に付き合ってやる事にした。
「よくは知らないが、大方の意味はわかる。魔物を倒すと稀に落とす珍しい何か、という感じだろう?」
とは言っても、ゲームの様に魔獣が死に際にわざわざ宝箱を落とすとは思えない。
具体的に何を落とすのかとか、それは非常に興味があったりもする。
「ふむ、ドロップ品についてか。アンズはどれくらいの知識がある?」
「うーん、正直全くないな。どんな風に、どういったものが落ちるのか全く分からない。そもそも何が珍しくて価値があるのかも分からないからな」
「なるほどなるほど……」
シリウスの質問に正直に答えれば、淫ピは一度頷いて説明を始めてくれる。
こいつも一応は研究者の端くれだ、やはりその知識量は伊達ではないらしい。
「魔物の体内には、マナを溜め込むマナ袋というものがあるんです。ほとんどの魔物はそこに入ってくる空気や食物からマナを吸収して、溶け込みやすい形に変えてから、身体中に行き渡らせているわけですね」
つまり、肺と胃が1つになっている様なものだろうか?
こういう話は意外と面白かったりする。
生き物の生態の番組とか好きだった。
「そのマナ袋なんですが、なぜか小さな窪みの様なものが存在しているんです。個体によってその窪みの大きさは変わりますが、大抵は消化器官の上の方に位置しているので、飲み込んだものが引っかかったりするんですよね。その部分にだけ粘着力の高い体液が溜まってるという理由もありまして」
「ふむふむ」
頭の中で想像しながらまとめていく。
なんとなく話が掴めてきた。
「つまりその位置に引っかかった物体は、魔獣が死ぬまでマナ袋に充満している物体に溶け込みやすいマナを吸い続け、変わったものになりやすい。そういうことか?」
「ご名答だ。そしてその窪みに引っかかった物は年月と共に粘着性の体液に包まれ、よりマナの吸収が促進される。ここまで話せばドロップ品の良し悪しも分かるだろう?」
「……マナを吸い込む量が多く、しかも長く生きてる魔物の物ほど良い物なものが多い。特に武器や防具を飲み込むほどの大きな魔物からは、マナをたくさん吸収した強い装備が手に入る?」
「そういうことです。吸収したマナからその魔物の性質を受け継いだりもします。先日の大獅子騒ぎの大獅子達は養殖物だったので装備のドロップは無かったそうですが、マナ濃度の高い骨や肉などの食べカスが高値で売れたそうです」
「でもそれだとドロップ品っていうより、剥ぎ取りする素材みたいだな」
「マナ袋はマナを貯めるという性質から、素材の中でも価値が高いんです。なので新鮮なものが取れるように最優先で剥ぎ取られるんですが、その時にゼリー状の塊がポロっと落ちてくることから、ドロップ品って言われるようになったらしいですよ」
「ちなみにレア度についてだが、魔物の強さはもちろん、その大きさやゼリー塊の色によっても区別される」
「なるほろ」
「色は魔物によって異なるが、基本的に濃いほど吸収量が多いと言われているな。過去に討伐されたドラゴンからドロップした魔剣は、光すら通さない黒色のゼリー塊に包まれていたと言われている」
「大きさは窪みに引っかかかる確率という意味でのレア度ですね。小さいものは簡単に引っかかりますし、複数取れる場合もありますから、レア度は低いです」
「なるほどな」
ドロップ品1つでよくこれだけ奥深い話ができるものだと素直に感心した。
研究者である淫ピは当然だが、シリウスの知識量も素晴らしい。
これが傭兵としてここまでやってこれた所以の1つでもあるのだろう。
「こういったことから、高位の冒険者PTでは解体師という職のものを1人は入れることが常識となっているんだ」
「解体のためだけにか?それくらいの技術、高位の冒険者となれば当然のように持っているんじゃないのか?」
「確かにそうだ。だが高位の冒険者となると高価なドロップ品を持つ魔物を大量に狩ったり、未知の魔物や毒性を持つ魔物を相手にすることも多い。そう言った場合に魔物の体に詳しいプロがいることは非常に心強いし、単純な解体速度も比にならない。単純に魔物に対する知識量も多いしな。
中には戦闘中にマナ袋に攻撃して直接ドロップ品を剥ぎ取ってくる者もいるらしい。」
「……解体師ってハードル高そうだな。」
「当然だ、彼等は長い時間をかけて知識と技術を身につけた者達だからな。決して戦闘の荷物という訳ではないし、高い意識を持って志す者も多い。」
荷物持ちや雑用を押し付けられて、戦闘後に盛り上がるPTを他所にいそいそと剥ぎ取り作業を行なっている悲しいおじさんを想像してしまっていたが、そんなことは無いらしい。
きっと戦闘中に後方から指示やアドバイスを出しながら華麗に解体していき、ボスのドロップ品をPTメンバーと一緒になってドキドキしながら取り上げるお兄さんといった感じなんだろう。
これは真の仲間だな間違いない。
「にしても、そんな窪みがなんで存在するんだろうな。如何にもドロップ品を作るだけのために存在しているみたいだが……」
「諸説ありますけど、一般的には進化のためって言われてますよ?」
「進化?」
「例えば植物の種が窪みに引っかかったとします。マナを吸収したことによって変質した種は通常のものとは異なり、栄養価が高い実をつけたりするんです。
日常的にそれを食べるようになった魔物は更に力を付け、そんな魔物を食べる大型の魔物もより強い力をつける。
こんな感じに最終的に魔物自身の進化に付与しているという見方がされています。」
「ふんふん、確かにそう考えると回り回って自分の元へ帰ってきているのか。」
「それは私も初めて聞いたな、勉強になる。」
感心している私とシリウスを見て少しだけ誇らしげにフィーナは胸を張った。
「まあ良いことだけとは言えないんですけどね。変質の仕方によっては強力な毒性を身につけてしまって弱い魔物に甚大な被害を与えたり、逆に強くなり過ぎた捕食対象に返り討ちにあうなんてバランス崩壊もあるそうです。」
「なんか世知辛いな、魔物の世界も色々と大変なんだな。」
育てた後輩が自分よりも出世してしまった時みたいな気持ちなのだろうか?いや、うちの会社は基本人材は使い捨てみたいなことしてたからそんな経験無いんだけどもね。
「……で?ドロップ品の話をいきなりしたということは、何か欲しいものでもあるんだろう?淫乱現金術師。」
「な!な!なんでバレたんですか!?あと私は錬金術師です!!」
割と気に入ってしまったこの名称は今後もどんどん使っていきたいと思う。
ちなみにその淫乱現金術師が欲しがったワイルドアリゲーターという魔物のドロップ品だったが、危険度が非常に高いということで即刻シリウスに却下された。
名前からして恐ろし過ぎるんだから当然だと思った。