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2-4.私のことを元ヤンとか言った奴、全員落としてやるからな。

『俺ちゃんの猫ちゃん達を焼いてるお馬鹿ちゃんはお前等かァァァァァァ!!』




奴はそう叫んだ。


………"広場の中央"で。


この街の中心である、"広場の中央"で。


現在、作戦本部のある"広場の中央"で。


冒険者達が集まっている、"広場の中央"で。


四方八方に敵のいる、"広場の中央"で。



「………?」



頭が追いつかない。

とりあえず優をおんぶして淫ピと共にテントを出る。

テントを出ている間も奴は息もつかず、なにやら喚き散らかしていた。


"お前等に人の心は無いのか"、"猫ちゃんを焼くとか虐待だぞ"、"動物保護集団ポンイに訴えてやる"などなど……


周りの冒険者はさておき、少なくとも私と隣の淫ピは濁った目をしてそれを見ていた。


「アンズさん……あれは、なんでしょうか……?」


「……黒幕、らしいな」


「……私、あんなのをこんな大事件の黒幕だと思いたくないんですが」


「大丈夫だ、一言一句違わず私もそう思っている」


S級魔獣"大獅子"の大量発生事件。

歴史に残るであろう出来事の黒幕が……"アレ"だ。


「せっかく!せっかく俺ちゃんが15年かけて157匹まで繁殖させた猫ちゃん達を……よくも殺してくれたな!!せっかくみんなに外を見せてあげようと思ったのに……絶対に許さない!!」


もう頭が痛い。


「くそ!ほんとは北の大草原に転移させてみんなでピクニックをしようと思ったのに!転移魔法の水晶にヒビが入ってたせいでこんな所に時間差で送られてきちゃうなんて可哀想過ぐる……!」


やめて、それ以上喋らないで。


「せめて俺ちゃんが外に出て指示が出来ていれば……!まさか貝料理に当たって10日間も寝込むことになるなんて思いもしなかった!」


うん、もう黙って、それ以上聞きたくない。


「クソ!ごめんよ猫ちゃん達!俺ちゃんがトイレに篭ってさえいなければ今頃は……!」




『黙れつってんだろうがクソ野朗ォ!!』




ガシャァァン!!


私の投げた試験官の束がクリーンヒットした。

試験官を入れる木箱ごと投げたので角が当たったのか悶絶している。

だがそんなことはもうどうでもいい。


「優、外のはもう適当でいいからあいつの周りに白炎出してくれ」


「ん、分かった」


背中から降ろした優を淫ピに任せ、調合用のすりこぎ棒を持っていく。

頭部に当たった試験官のせいで顔面が血だらけになっていた男は、急に現れた白炎に驚き腰を抜かし、次に私を視認した。

何をそんなに怯えているのかは知らないが、いくら呪文を唱えた所で発動はしない。

ここにいるのは"ただの男"と、"ただのすりこぎ棒を持った女"だ。

それ以上でもそれ以下でもない。


「あっ、あっ、あ、あぁぁぁぁぁ!!」


両手を前にして男はこちらへ走り出す。

それは抵抗か、それとも過信か、以前夜道で私に襲いかかって来た小太りのストーカーを思い出す。

そういえばアレも正面から襲って来たな。


私を非力な女だと思い込んで、


"対暴漢体術"を会得しているとも知らず。


身体を右側に避け、左手で腕を取る。

同時に膝裏を蹴り、敵が体勢を崩した拍子に自身の身体を半回転させ首筋に肘を当てた。

そうして掴んでいた左手を捻り男を拘束し、下半身だけを思いっきり跳躍させ、全ての体重を右肘一点に集中させる……

そのまま重力に任せて身体を落とせば完成だ。



"熊落とし"





ゴギィッ



人体から起きてはならない様な音が響き、広場が完全に静まり返る。


別に問題はない、以前のストーカー君は全治3ヶ月で記憶が一部消失していたが死んではいなかった。


すりこぎ棒?

これで起きていたなら頭を殴りつけて指先から骨ごと粉々にしてやろうかとも思っていたけれど、使わずに済んでなによりだろう。

そんなものを優に見せるなんて教育に悪いことは、出来ればしたくないのだから。


「優、帰るぞ」


「わかった。フィーナ、アイルに全部伝えといて。白炎もあと1時間は大丈夫だから自由に使って?」


「え?あ、うん……ま、任せて?」


優の手を引き、引き攣った顔をして道を開ける冒険者達を一瞥しながら宿への道を行く。


ああ、頭が痛い。


私がこの世界へやってきて初めて直面した歴史を揺るがす大事件は、要はペットの大脱走だったらしい。

私が言うのもアレなのだけど、バカしかいないのかこの世界は。


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