表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

2-3.よろしくない戦況

どうにも戦況は良くないらしい。

作戦開始から既に3時間……未だ黒幕の足取りは掴めず、冒険者達にも白、炎をコントロールする優にも疲れが見え始めた。

討伐された大獅子の数は把握されているだけでも既に40を突破した。

それでも何処からともなく湧いてくる大獅子は、街一番の探知魔法の使い手によれば突然その場に現れるらしい。

もっとも、湧きの速度自体はかなり遅くなっているらしいが、湧いてくる事実に変わりはない。


消耗戦になっているのかも分からないが、確実にこちら側は消耗している。

加えてあのアイル(実際に戦っている所を見たことはない)が3時間も必死に探しているにも関わらず、森やその周辺にもこれといった異常は無いらしい。


さて、そんな話を聞きながら片手間に調合を行なっている私であるが、言わずもがな既に嫌な予感がしている。


S級の魔獣を無限に召喚し続ける様な相手がまともな筈があろうか、いやない。

アイルという最強と謳われる騎士を欺ける様な相手がまともな筈があろうか、いやない。

優のせいで召喚速度が落ちているとは言え、それでもマナの少ないこの空間で召喚を行える相手が普通であろうか、いやない。


それでは、そんな普通じゃあり得ない輩が、「大獅子弱体」、「召喚速度低下」、「殲滅速度向上」、その全てに活躍している白炎をコントロールしている様な者を見逃すはずがあるだろうか?……いやない!


つまり、そうつまり、街の一本道を歩き、このテントへ一直線へやってくる如何にも怪しい黒い布を羽織ったあの人物。

間違いなくヤバいお方なのではなかろうか?


風に煽られチラチラと口元が見えているが、歯を食いしばって青筋が浮かんでいるのは、確実に怒っているからではなかろうか?


アイル、それは見つからないはずだろう。

なぜなら元凶は森にでも地下にいる訳でもなく、最初から街に居たんだから。


それにあれだけヤバい雰囲気を出しているのに、周りの魔法使いや戦士のお兄さん達は何も気付かないんだもの。

きっと隠蔽も上手いんだろうなぁ……


"上司が理不尽に怒っている空気を察知できる能力"


一般的な社会人の者は皆持っているはずだが、どうやらこの場所でこれを持っているのは私だけの様だ。

だからそんな能力要らないつってんだろ。

サイダー1本と交換してくれ、梅酒でもいい(謙虚)。


加えてどれくらい怒っているか察知出来る私には分かる。

……あれは怒りのあまり暴力に走ってしまい、結果としてクビにされるタイプの者が纏うものだと。

マジでヤバイやつ、ほんとにヤバイやつ。


「……優、淫ピ、今すぐ逃げるぞ」


「へ?」


「……どうしたの?杏」


やはり2人も気付いていないらしい。

無理もないだろう。

淫ピを擁護するのもあれだが、2人ともこの3時間休むことなく働き続け、既にその顔には疲れが色濃く見えてきている。

1日10時間の労働を最低限にさせられていた私は、魔力を使っていないということもあって余裕があるが、2人はこの3時間魔法を使い続けている。

時間的にも優は確実に限界だ。

褒めることはあっても敵の接近に気付かなかったと責められる言われは無い。


「怪しい奴がこっちに来ている。逃げる準備、あるいは戦う準備も必要だ。2人ともいけるか?」


「あ、あう……牽制程度なら少しは出来ますけど、マナ濃度が低過ぎて戦闘になったら……」


「……まあ仕方ないか。優はどうだ?」


「ん、外の炎を弱めれば少しは……けど他の人に私が白炎を出してるってバレたら困る」


「……流石は優だな、言われてなかったら気付かなかった」


いやほんとに。

これは逃げの一手だな、戦闘は外で駄弁ってる冒険者達に任せよう。

というかマジで何やってんだお前等。

雑談してねぇで働けタコ。

タバコ休憩とかいうクソみたいな時間を社員同士の交流とか言って正当化するクソ上司かお前達は。


というか、よくよく考えれば敵が街の中に居るのは当然な気もしてくる。


街の外に無闇に魔獣を出した所で何の意味があるのだ?そんなもの陽動に決まっている。

魔獣に引かれて強い冒険者達が外に出ている隙に、内側から本命が街を襲う。

誰もが考えられる単純な作戦だ。


……いやほんと、なぜ早く気付かなかった。


なぜ誰も気付かなかった!

私より頭の良い人間が居るはずだろう!

知力8しか無いんだぞ私!

一般人だぞ私!

その私がこの段階で気付いたのに知力2桁の奴等は何してたんだ!


いや別に優は責めていない。

彼女はこれだけ貢献しているのだから褒めて讃えて祭り上げ、伝説にしかるべきだ。


問題は魔法使い共だよ!

ある程度知力が無いと優秀な魔法使いにはなれないって私ですら知ってるぞ!

なに真剣な顔して怪しい人間素通りさせてんだ!

そいつ完全にヤバい奴だろ!

ぶつかって「あ、すいません」とか言ってる場合じゃ無いんだよ!

少しは怪しく思えよ!

知力3かお前!!

3以下だろお前!!


「……っ!!」


ほら歩く速度が上がった!

今の間違いなく私と目があったからだろ!

獣の様な目つきをしていた!

野獣だよ!

野獣の眼光だよ!


どうする!?

逃げる!?

でもこのテント入り口が正面しか無いのだけど!?

バッチリ正面から来ているのだけど!?

こんな狭い所で大獅子召喚する様な奴を相手できるか!

私は帰らせて貰う!

いやほんと帰らせて!

叫んで注意を引くか!?

外の冒険者達に伝えるか!?

いや、先制攻撃!?

スクリューシュート!?

とりあえず何かしないと!

魔法による遠距離攻撃なんてされたら確実に灰になる!

息を吸ったのが見えた!

呪文を唱える気だ!

間に合わない!

私が外へ叫ぶより前に奴が……!!



『俺ちゃんの猫ちゃん達を焼いてるお馬鹿ちゃんはお前等かァァァァァァ!!』







……?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ