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マリオネット飛翔③
月明かりが照らす。
それだけだった。
私はビルの最上階に一瞥をくれてやると、正面の扉から中に入って行く。
歩く度にショートブーツの心地よい音が鳴り、静けさに色を足していた。
エレベーターは使えないと教えられていたので階段を使うことにした。
無表情で上に上に向かった。
窓から月の光が入り、廊下を銀の世界に染め上げている。
5階に差し掛かったところで異変。
何処からともなく、エコーが付随したような笑い声が聞こえた。
「不気味……いや、魔的だな」
私は軽口を叩き、再び歩み始める。
次第に笑い声のボリュームは上がっていった。
上に進むのに比例するかの如く。
そしてあと一歩で9階に差し掛かり、笑い声の音量がピークに達した。
瞬間、気がつけば私は1階の正面の扉を入った場所に居た。
笑い声も止んでいた。
キョロキョロと辺りを見回した。
間違いない、1階だ。
さっき9階に着いたのに、1階だ。
くだらない手品をされた気分、私は舌打ちをした。
考えても仕方ない気がしたので、また階段を登ることにしたのだった。