14/60
小さな花
あの子は1人だ。
訳も分からず、1人、この世界に来た。
それでいて落ち着いている。
この建物から出ていこうと思えば出ていける。
だが、そうするとこの世界に混乱が生ずる。
自殺した前科があるくらいだ、またするかもしれない。
しかし、本来この世界にフユコは居ない。
死体発見時、誰の死体だか分からないなんて恐ろしい。
あの子は全てを悟り、尚且つ取り乱さず落ち着いている。
この隔離された建物の中、なるべく外に出ない様に心がけているのだろう。
小鳥が飛ぶように自由になりたいと窓から外を見ながら……。
「フユコよ、こっちに来なさいな。昼ご飯、出来てるよ。昨日の残りものだがね」
暫くして、お茶の入ったコップを2つ持って、彼女はテーブルまで来た。
「後で買い物にでも行こうか。今日は天気が良いみたいだから、ついでに公園にでも寄って歩こう」
彼女、フユコは髪を掻き上げながら頷いた。
食事を終えて、支度をした。
外に出ても彼女は私の後ろに隠れる様に歩く。
そこまでしなくてもいいだろうに。
仕方ない、車を出そう。
私は彼女に恥ずかしがり屋さんめと窘めると、舌打ちをされたのだった。