第四十八 月島さんご乱心
乙女、渾身の誕生日プレゼント・・・!
月島さんの表情が変わった。
わなわなと震え、目と口をまん丸にして驚きを露わにしている。
一体なにをもらったのか。彼女の手元を見ると、そこにあったのはDVDだった。
『松○修造の、今一番熱く‼ なれるDVD 傑作選』
・・・・・・この発想はなかった。
確かに雫はテニスプレイヤーに通じているとの情報は得ていたが。
すると、突然雫が叫んだ。
「う、うっきゃーっ! マジで⁉ 修造さまマジヤバイ! これもらっちゃっていいの⁉ 嘘やだどうしよー! ありがとう乙女ちゃん! これ毎日見るね! 絶対!」
「喜んでもらえてなによりです」
興奮のあまり立ち上がった雫はDVDを頭上に掲げ、その場でくるくると回り始めた。乙女の予言が現実となった。これは正に狂喜乱舞だ。
ていうか、一番喜んでるよねこれ。
「こうしちゃいられないわ。さっそくみんなで見よう!」
「い、いや、せっかくだから、それは君一人でじっくり見るべきじゃないかな? 邪魔しちゃ悪いし。ねえ姫宮さん?」
「そ、そうよ! 大好きな修造さんと二人きりの時間を大切にして?」
「なに言ってるの二人とも? もっと熱くなれよっ!」
意味がわからない。
「あれ? 乙女はどうした?」
気づけば愛しの妹の姿が見当たらない。
DVDデッキを用意しながら雫。
「ああ、なんでも鉄道模型が届くから一度帰るって、さっき出て行ったよ? 無理してきてくれてありがとうってお礼言っといた」
あいつ逃げやがった!
僕と姫宮さんもそろそろと部屋を出ようとしたのだが、満面の笑みの雫に捕まりソファへと引きずり倒されてしまった。狭間くんの右手を潰した握力は伊達じゃない。
「さあ二人とも! 熱くなるよ! むしろ熱くなれよ!」
「お、お~。ちなみにこれ、何時間あるの?」
「なんと! 豪華四時間ノンストップだよ! でもちょっと物足りないから、二周目は確定だよね。あ、行っちゃう? 三周目行っちゃう?」
「待つんだ雫。まだ一周目すら見て――」
「だよねー! ごめんね早く見たいよね! 早く見せろって感じだよね! もう好きだね君も。よ~し、熱くなろうぜーっ!」
なぞの掛け声とともに、スタートボタンを押す雫。
こんなテンションの彼女は、一〇年以上の付き合いがある僕も初めて見る。
画面の中で偉大な元・テニスプレイヤーがあらん限りの声を振り絞り、熱くなれる名言を披露している。開始三〇秒で額に玉の汗を浮かべ「熱い!」状態を体現しているのだ。しかも隣では彼と同じくらい熱い少女が声援を送るのだ。
これをあと四時間だと? 二周したら八時間だぞ⁉
なんということだ。果たして僕は生きて帰れるだろうか。
絶望を感じながら姫宮さんを見ると、既に白目を剥いて気絶していた。お嬢さまの彼女にこの熱血指導は刺激が強過ぎたらしい。
僕も早く気を失えますように。そう儚くも切に願いつつ、僕は目を閉じた。
「なに寝てんのあんた! そんなんじゃ熱くなれないよ! ほら見てすごいよ! こうなったら私たちも叫ぼう! せーの、熱くなれよーっ!」
勘弁してくれ・・・・・・。
そろそろ終わりが近づいてきました。




