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優等生は誰がために  作者: うえりん
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第四十七話 誕生会③

二人の甘酸っぱい思い出。

「実は、僕もパスケースを新調したんだ。これがそうだ」


 同時に購入したパスケースを取り出した。


 パッチワークのデザインがおしゃれでかわいいものだ。

 対して雫に贈ったのは、黒を基調にしたシックで洗練されたデザイン。


「去年、僕らが定期を買いに行ったときのことを、覚えているかい?」

「うん。一緒に駅まで行ったよね」

「ああ。その後、近くの一〇〇円ショップに赴きパスケースもそろえただろう。そのときのことを、君は覚えているかい?」

「あっ!」


 どうやら雫も気づいたようだ。僕がパスケースを差し出すと、雫は少し迷ってから僕が贈ったパスケースを差し出した。


 僕らはそれぞれパスケースを受け取った。


 つまり、お互いのパスケースを交換したのだ。


「大事に使ってくれるとありがたい」

「もちろん!」

「え? なにどういうこと?」

「兄さん、これにはどういった意味があるのですか? もしかしてプレゼントを取り違えていたとか?」

「いいや、これでいいのだ。そうだろう? 雫」

「――うん!」


 雫は満面の笑みに涙を浮かべていた。パスケースを胸に抱き、きっと彼女なら大切にしてくれるだろうと信じられた。


 最初から不安はない。


 なにせ、雫は一年前から僕のパスケースを大切に使ってくれている。どんなに汚れても、一〇〇円の安物を遣い続けてくれていたのだ。


 一年前。僕と雫はそれぞれ気に入ったパスケースを購入した。元より一〇〇円ショップの商品はデザインが少ない。色違いのおそろいとなった。


 僕は白を選んだ。


 好きな色と言うわけではなく、単に鞄に入れていても目立つだろうと考え購入した。


 雫はオレンジ色のものを購入した。彼女によく似合う、明るい色だ。


 会計を終え、さっそく購入したばかりの定期を入れたとき、おずおずと雫がお願いごとをしてきたのだ。


「あのさ、風間・・・・・・。パスケース、交換しない?」

「もしかして、白の方がよかったのかい? ならば店員さんに交換を頼んでみよう。買ったばかりだ。問題ないだろう」

「ううん、そうじゃなくて・・・・・・風間のが欲しいの」

「? というと?」

「あの、うまく言えないんだけど・・・・・・風間のものを私が持ってて、風間が私のものを持ってるのって、なんかいいなーって思って・・・・・・」


 はて。そこにどういった意味があるのだろう? 


 考え込む僕を見て、雫は慌てて手を振った。


「う、ううん! なんでもない! やっぱ自分で選んだものの方がいいよね! 私なに言ってんだろ!」


 と言ってしまおうとするパスケースを、僕は取り上げた。


「ふむ。鮮やかな合成皮と安物のプラスチックの光沢が絶妙な色合いを見せている。これはとてもいいものだ。僕もこれにすればよかった。ちょっと店員さんに頼んで交換してくるよ。一度定期を入れてしまったが、多分問題あるまい」


 店に戻る僕の袖を、彼女は捕まえた。


「ま、待って! その・・・・・・よかったら交換しない?」

「いいのかい? 僕のは君のパスケースのような華やかさはないが」

「いい! 私、白好きだし」

「では、遠慮なく。大事に使ってくれるとありがたい」


 こうして僕のパスケースは雫の手に。雫のパスケースは僕の手に渡ったのだ。


 あのときのことを思い出し、再現してみたのだが、どうやら成功のようだ。


 この物々交換になんの意味があるのか正確に把握できていないが、恐らくは女の子同士がお人形の交換をして、友情の証とする儀式と似通った意味があるのだろう。


 僕らは友達だ。


 きっと僕のパスケースを大事にしてくれる。僕も彼女のパスケースを大事にする。


 それだけでいい。今回はあらかじめ交換を考慮していたので、デザインも雫に見合ったかわいいものだ。


 姫宮さんと乙女はしきりに今の行為について訊ねていたが、雫はなんでもないの一点張りだった。


 僕も言うつもりはない。思い出を大切にしろと初デートの相手に忠告を受けたためだ。二人は煮え切らない様子だったが、誕生日の主役にこれ以上の失礼はできないと思ったらしく、しばらくすると質問を取り止め最後のプレセント贈呈へと移って行った。


「最後は乙女か。そう言えばなにをプレゼントするんだ?」

「ふっふっふ。今年はすごいですよ。きっと月島さんは狂喜乱舞するでしょう」

「へー。それは楽しみ。月島さん、さっそく開けてみたら?」

「オッケー。なにが出るかな♪ なにが出るかな♪ んん? こ、これは・・・・・・!」


月島さんがおかしい。

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