第四十四話 乙女ちゃんと姫宮さん
月島さんの誕生会に向かいます。
姫宮さんとは駅前で待ち合わせをした。もちろんバッグの中にはプレゼントが入っている。
乙女によれば毎年この時期になると雫の様子がおかしくなる傾向にあり、その原因は間違いなく僕にあるとのことだったが、今年の僕は一味違う。なにせ友達と一緒にプレゼントを選んだのだ。不敵に笑う僕を乙女は不安げに見上げていた。
「ああ、乙女は緊張しています」
「なぜだい? 乙女もプレゼントに不安があるのかい?」
「兄さんと一緒にしないでください! 乙女が言っているのは、件の女性。姫宮さんについてです」
「そう言えば初対面になるのだったね。大丈夫。乙女は同性に好かれる優しい子だ。自信を持ちなさい。それと男が寄ってきたらすぐに知らせろ。兄が排除するから」
「頼もしい限りですが、聞けば姫宮さんは兄さんと肩を並べる逸材と聞いております。乙女程度の童女では、彼女の機嫌を損ねてしまいます」
「なにを言うんだ乙女よ。むしろ姫宮さんが君に悪い影響を与えないか兄は心配だ。いいか? 彼女が設定だの二つ名だの能力と書いてチカラと読ませる言葉を発したらすぐに逃げるんだ。わかったね?」
「ちょっと? なに人のことを噂しているわけ? 私は病原菌かなにかか」
見れば姫宮さんが立っていた。
白のブラウスにジャケットを羽織り、ひざ丈のスカートをはいていた。髪は頭の両サイドで縛ったツインテールだ。中二病の後遺症である。
しかし清楚なお嬢さまという言葉をそっくりそのまま体現した彼女にはよく似合っているので、よしとしよう。
「やあ、おはよう姫宮さん。相変わらず時間前行動だね」
時計の針は午前一〇時五〇分を指している。待ち合わせは一一時ちょうどである。
「まあね。一人ぼっちはなるべく目立たないよう、遅刻に対する高度な訓練を受けているから当然よ。それよりあんた、妹になに吹き込んでるのよ」
「姫宮さんに対する注意喚起だ。なにせ妹は現役中学二年生。下手をすれば君の二の舞になる。そういう意味では病原菌とは的を射ている。中二病ウィルスから妹を守らなくては」
「誰のせいだ誰の! 私が学校に復帰するのにどんなに苦労したかあんたわかる? 毎日布団で悶えてはクラスメイトのかわいそうな人を見る目を想像していたのよ! もちろん実際にされたわよ! みんな超優しかった!」
「おお、友達ができたようじゃないか。おめでとう。心から祝福するよ」
「ま、まあね! まだそんなに話すわけじゃないから、友達と言えるかは微妙だけど・・・・・・一応挨拶くらいは交わすようになったわ!」
今まで挨拶すらしていなかったのか。思わず目が潤んだ。
「それより、そろそろ紹介してくれないかしら?」
と言って乙女に笑顔を向けた。
見た目だけなら一級品の笑顔だ。乙女は恥ずかしそうに体をもじもじさせ、おずおずと前に進み出た。
「妹の乙女だ。乙女、ご挨拶して」
乙女が上品に一礼した。
「お初にお目にかかります。風間乙女と申します。兄が日頃お世話になっています。本日は月島雫さんのお誕生日をお祝いするため参上いたしました。至らぬ点があるとは思いますが、どうか目をつぶり、今日と言う日をよきものにしていただければと存じます」
「・・・・・・え? うん。よろしくね? 想像はしていたけど、ものすっごくかわいいわね。私は姫宮燈火。お兄さんの・・・・・・と、友達! です! 乙女ちゃんって呼んでいいかしら?」
「ありがとうございます。そう呼んでいただければ幸いです」
「・・・・・・うん。ちょっと待ってて」
姫宮さんは乙女にそう言うと、なぜか僕の腕を掴んで離れた場所に移動した。
そしてこそこそと耳打ちするのだ。
「あんたの妹も立派なもんじゃない。私感動したわよ」
「? 確かに乙女はよくできた妹だ。わざわざそれを言いたかったのかい?」
「そういうことじゃなくて、あんたの妹も中二病患者ってこと。私が見たところ、あれは相当ディープね。さすがに現役中学生は違うわ」
「馬鹿を言わないでくれ。妹は君と違って正常だ。動作に問題もない」
「家電か。あんたがそう言うならいいけど。ていうかあんたのしゃべり方も結構あれだし」
なんとも失礼な人だ。
文句を言ってやりたいが、そろそろ雫の家に向かわなくてはならない。住所を知らない姫宮さんのため、僕らはわざわざ駅まで出向いたのだから。
「さあ、そろそろ行こう。雫の誕生日を盛大に祝うのだ!」
「はいはい。じゃあ、行こうか乙女ちゃん。手、繋ぐ?」
「えっと、あの・・・・・・」
「あら、困らせちゃったかな。ごめんね? 悪気はないの」
「滅相もございません・・・・・・実は兄意外と手を繋いだ経験がないもので・・・・・・よければ、お願いしてもよろしいですか?」
「くっは! なにこの子めっちゃかわいい! OK。お姉さんと手を繋ぎましょう? あなた二つ名は持ってる?」
「ちょっと待て! 妹をかどわかすな!」
「はて、二つ名。それは一体どのようなものでしょう?」
「そうね・・・・・・魂に刻まれた真実の呼び名とでもいうのかしら。私には『刻を止め、未来へと繋ぐ希望の灯。絶対零度の(ド)灯。世界は目覚めの刻を迎える』というのがあるわ。能力名は〝覚醒〟」
「待てこら無視か! しかもなんか変な方向に進化してないか⁉」
「まあ超カッコイイ! 兄さんにもあるのですか?」
「待て乙女早まるな。そっちに行ってはいけない」
「もちろんあるわ。『この世界、我がもらう。――起動せよ、完全論理。世界に理を説くのだ!』完全論理の部分が能力名と同時に二つ名ね。私が与えた最強最悪の能力よ!」
「す、すごい・・・・・・! 兄さんはいつの間にそんな能力を・・・・・・!」
「毒されてる! 結構深刻なレベルで感染してる! 姫宮さんやめてマジやめて」
ふっきれたのか、姫宮さんが積極的です。




