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優等生は誰がために  作者: うえりん
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第四十一話 家庭崩壊まったなし

姫宮さんがひどいことを言います。

風間くんもひどいことを考えます。

不快感を覚える方は多いと思いますが、読んでいただけると幸いです。


「あなたが母さんに必要とされていないことは理解したわね? でもそれだけじゃないっぽいのよ。この人、あなたのこと邪魔だと思っているみたい。当然よね? 頭は悪くてしょっちゅうヒステリーを起こし、お金を積んで入れた大学にはほとんど顔を出さない引きこもり。その年でほとんどニートだもの。一族の恥さらしよ。さっき私は、あなたをペットと評したけれど、それはぜいぜい高校を出るまでのこと。今はただの不良債権。この先これの面倒を見て行くと思うと憂鬱になる。まともな結婚もできそうにないし、早く死――」


 パシン。

 お母さんが、姫宮さんの頬に平手打ちをした。


 しかし、そんなものを馬鹿正直に喰らうほど、姫宮さんの決意は弱くない。片手で軽々と防いでいた。


「やめなさい!」


 そして続ける。


「――死んで欲しいと思ってる。もう、あの子のように期待なんてしないから、早く消えるか死ぬかしないかしら。そうなれば大手を振ってあの子を迎えられるのに。まったく、姉のくせに我儘ばかりで嫌になる。なんであの子はあんなにも優秀なのに、こんなのが先に産まれたのかしら。せめてあの子の半分、いえ、三分の一でいいから才能があれば、こんな苦労しなくて済んだのに・・・・・・ホント、産むんじゃなかった」

「・・・・・・やめて・・・・・・」


 お母さんだった。


「やめないわよ。あんたらのおかげでどんだけ迷惑したと思ってるの。それに、私をとめるより、その人に優しい言葉の一つでもかけた方が、よほど有意義ってもんよ。ほら? 言ってやったら?『この子が言ったのはすべてでたらめ。私はあなたに期待している』ってね。嘘だけど」


 その言葉にお姉さんは顔を上げた。


 死人のように白い顔。


 涙に濡れた瞳に、ほんの微かな希望が宿っている。


 この人は、まだ諦めきれないのだ。母の愛を。


 対する母も娘を見ていた。その口が動こうとしないのは、彼女もまだ、諦めきれないからだ。

 姉ではなく、妹の価値を。


 だから、姉を見つめる目には残酷な感情が宿っていた。


 嫌悪と無関心。

 汚いゴミを見る目そのままだ。


 お母さんははたと気づき、顔を背けた。


 言い訳もしない。否定もしない。娘を愛してると言わないのは、彼女自身疲れていたからだろう。


 愛する母に捨てられた姉は、もう泣くこともなかった。ただ空中の一点を見つめ、呆然としている。


 いい状態だと思う。

 自殺する者にあるのは無気力だと聞いたことがある。うまくいけば、今日にでも彼女は首をくくるだろう。


 娘が自殺したならば、母もまた、追い詰められるに違いない。元よりいらない子なので自責の念は薄いかもしれないが、世間からの風当たりは強くなる。後追い自殺は無理っぽいが、それでも不幸な人生が待ち受けているのだ。


 そんな二人を、姫宮さんは一顧だにしなかった。


「もう行くわ。さようなら」


 それで終わりだった。彼女はスタスタと歩き去った。最後に二人がどんな顔をしているか見てみたい気持ちはあったが、なんだか呪われそうなのでやめておいた。化けて出られたら怖いもん。


 こうして姫宮さんを縛るしがらみという名の鎖は断ち切れた。

 逆恨みされて復讐されるかもしれないが、多分彼女なら返り討ちにできる。僕もいるし、問題ない。


「コーヒー飲まない?」


 門を出て、駅までの道のりを歩いていると、不意に姫宮さんが言った。断る理由もないので了承し、近くの喫茶店に入った。


「ねえ、聞いてくれる?」

「なに? あ。僕も訊きたいことがあるんだけど、いい?」

「後にしてちょうだい。私は真剣なの」


 僕だって別にふざけちゃいない。とは思ったがなにも言わずにおいた。姫宮さんの顔が真っ青だったからだ。なにをそんなに怯えているのだろう。答えはすぐに彼女の口から飛び出した。


「私、ヤバイわ・・・・・・」

「なにが? 今になってもなにも感じないこと?」

「・・・・・・違うの。私、中二病かもしれない」


次回、姫宮さんがマジヤバイ。

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