第三十六話 先生③/友達
川村先生は、いい先生です。
川村先生は腕を組んで瞑目した。きっと、先生の中で意見が割れている。
教師としては、反対せざるをえない。
だが、人としては僕らを信用したい。この話し合い自体が多大な負担をかけているのだ。
「先生。僕らは先生になにも望みません、ただ、なにも言わず、なにも訊かず、不干渉を貫いていただければ、それでいいのです」
「できるか。私はもう、話を聞いてしまったのだぞ」
「できます。この話し合い自体が公にできないのですから」
「・・・・・・最初から、邪魔をするなと。そう言うつもりだったのだな」
川村先生の声色が変わった。
明らかに怒気を含んでいる。
当たり前だ。
あなたには最初から期待なんてしていないし、逃げ道も用意した。だから後はこっちに任せて消えてくれと言っているのだ。教師を舐めているとしか思えない。
だが、僕には姫宮さんも知らない切り札がある。
「先生の厚意には感謝しています。ですが、あなたに反論する資格がありますか?」
「・・・・・・ッ」
裏生徒会に勧誘されたあの日。
誰もいない教室での会話が蘇る。
川村先生はとうに姫宮さんを見放している。あまつさえ、彼女の相手役を生徒である僕に押し付けた。その時点で教師失格。今さら何を言っても説得力などありはしない。
とても卑劣な手だ。
姫宮さんと出会わせてくれた川村先生には、とても感謝している。こんなこと、誰も言いたくはない。
それでも僕は、あえてそのことに触れた。これが僕の信じる友達であると宣言した。
普通でない姫宮さんの友達が普通であるはずがない。
川村先生はいい人で、いい教師だ。生徒から不要とされ、つらく、苦しいだろう。
しかし、ここは折れてもらうしかない。他人に僕らの関係を理解できはしないのだから。
川村先生も僕の言いたいことに気づいたようだ。一瞬泣きそうな顔をしたが、すぐにいつもの凛々しい顔に戻り、「では、好きにしろ」と言い残して裏生徒会室を出て行った。
先生は先生であることを選んだのだ。
そっと姫宮さんを見る。
どこか諦めた表情をしていた。
「そっか。私、見捨てられてたんだ」
聡明な彼女が気づかぬはずがない。
残酷なまでの洞察力。僕がここに来た本当の意味を、彼女は知ったのだ。
「そうだね。僕も見捨てられた」
「二人だけになっちゃったね」
「悲しい?」
「ううん。最初は一人だったから。むしろ人数が増えて嬉しい」
「それはよかった。ところで提案なんだけど、僕と友達にならない?」
「友達?」
「そう。僕はとっくに君は友達だと思っているんだけどね。まだ君の口からは聞いていないから。僕を安心させて欲しいんだ」
(でないとまた、僕は泣いてしまう)
「嘘ばっかり。私を慰めてるんでしょう? 演技が・・・・・・下手過ぎるわよ・・・・・・」
姫宮さんの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
家族は邪魔だから、別に捨ててもいい。
だが、信頼している教師から捨てられるのは、やはりつらい。
「・・・・・・うん。お願い。私と友達になってください・・・・・・」
「喜んで」
姫宮さんと握手を交わした。
世界一悲しい友達宣言だった。
風間くんの言う先生の資格うんぬんについては、第四話をご参照ください。




