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優等生は誰がために  作者: うえりん
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第三十一話 敵

お姉さんも、かなりの美人なんですよ。

 姫宮さんと似ている。

 長い黒髪も同じだ。


 しかし、表情が違う。

 発するオーラが違う。

 服のセンスも化粧っ気のない顔も、なにもかもが違った女性だった。


 美人なのに、華やかさがない。生きる気力すら薄い、亡霊のような人だ。


 彼女――恐らくは姫宮さんのお姉さんはつかつかと早足にこちらに近づくと、ゆっくり妹の頬に手を触れた。


 姫宮さんの体が強張った。

 無理もない。見ている僕ですら鳥肌が立つような、おぞましい気配と仕草だったのだから。


「燈火ちゃん。久しぶりね。元気だった?」


 ねっとりとした猫なで声。


「・・・・・・はい。姉さんも、お元気そうでなにより」


 ガリッ。姫宮さんの肩が震えた。


「あら、ごめんなさい。私ったら爪を切り忘れてしまって。私が元気に見える? また痩せたのよ? 医者に注意を受けちゃったわよ。栄養失調ですって」


 と言って、くすくす笑う。


 見れば、お姉さんの指先に血がついていた。驚き姫宮さんの顔を見れば、頬に傷がある。血が滲み、もうすぐ雫となって彼女の頬を伝うだろう。


 間違いなく、お姉さんがやった。


 ハンカチを取り出し、姫宮さんに差し出した。

 内心を押し隠し、穏やかな表情を心掛けた。


 僕が思っている通りなら、ここが勝負どころだ。


 僕は姫宮さんの友達だ。

 友達を救うのに、理由も遠慮もいりはしない。


 姫宮さんの顔は、髪に隠れて見えなかった。


「薄皮が剥けただけだ。絆創膏を買ってこよう」

「あなた、燈火ちゃんのお友達?」


 明らかな敵意をぶつけてくる。元は整った顔立ちだけに、憎しみに満ちた顔は壮絶の一言に尽きる。


 だからなんだ。


 目の前にいるのは、僕の大切な友達を傷つけた張本人だ。恐らくは昔から、今まで、未来にわたり、この人は姫宮さんを苦しめる。


「初めまして。風間誠二と申します」

「私は姫宮(ひめみや)(あん)()。燈火ちゃんの姉です。デート中悪いのだけれど、少しこの子をお借りできないかしら。久しぶりに会ったので、お話がしたいの。この子一人暮らししてるから」


 姫宮さんの肩が、またもビクリと跳ねた。


「できればご遠慮ください。妹の恋路にちょっかいをかけるなんて、子供じゃあるまいし」


 お姉さんの顔が恐ろしく歪んだ。奥歯を噛み締めるギシギシという音が、僕にも聞こえた。


 やはりそうだ。この人は妹に嫉妬している。

 だからこんな安い挑発に乗ってくる。


 多分この人は、姫宮さんに何一つ敵わなかったに違いない。妹が生まれてから、この人は負け続けてきたに違いない。

 だから姉と言う立場を利用し、無理矢理にでも自分を上に置き、幼稚な嫌がらせをするのだ。本物の子供だ。


「風間、あなた・・・・・・」


 姫宮さんが気づいた。

 愕然とした様子の彼女の目を、僕は笑みを浮かべて見つめた。


「ああ、ごめんよ姫宮さん。一緒に絆創膏を買いに行こう。大丈夫、顔を見られないように、僕にくっついていればいい。こんなふうに」


 言うが早いか姫宮さんの顔を僕の胸に押し付けた。

 

 後で必殺技をお見舞いされるかもしれないが、そんなもの、どうってことない。


 僕は君と互角であり続ける。負けはしない。誰かに負けることも許さない。例え目の前にいるのがお姉さんだろうと、こんな小物に傷つけられるほど、姫宮燈火は安くない。


「さあ、行こうか」

「ダメ、放して」

「嫌だ」

「あなたには関係ないじゃない」

「まさか。デートの相手が怪我をしたんだ。きちんとエスコートしなくちゃ」

「やめて。本当に困るの」

「無理だ。僕は怒っている」


 姫宮さんが息を呑むのがわかった。彼女も、僕がなにをしようとしているのか理解したはずだ。


「待ちなさいよ!」


 金切り声が響き渡った。


 周囲の人たちが一斉に恐怖と驚愕の視線を向けてくる。


 これでいい。人々に注目されることで、この人の怒りは倍増する。


「人の妹をどこに連れて行くつもりよ! 誘拐犯!」

「なるほど。では警察を呼びましょう。彼女の頬の皮膚があなたの爪から検出されるはずです。もちろん、その一部始終が監視カメラに映っている」


 確証はないが、牽制にはなる。この人を見ていればわかる。

 地味な服に化粧もしない顔。音を消すための似合わないスニーカー。できる限り己の存在を希薄にしている。


 唯一自己主張するのは、妹と一緒にいるときのみ――妹を、いじめるときのみ。


 この人は世間体を死ぬほど気にしている。出来がよすぎる妹の影で、自分には価値がないと散々思い知らされてきたに違いない。


 お姉さんはなにも言わずに歯を食いしばり、わなわなと肩を震わせていた。


 口から赤いものが垂れた。唇を噛み切ったのだろう。僕は真正面から彼女を見た。どちらもなにも言わないままときが過ぎた。


「あら、これは一体なにごとかしら?」


 よく通る声がフロアに響いた。


 衆人環視の中姿を現したのは、着物姿のご婦人だった。流麗な立ち居振る舞い、きちんと結い上げた髪、上品な化粧。すべてが優雅な女性だった。


風間くんはの前に、新たな敵が。

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